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七話 初めてのキス
しおりを挟む次に目が覚めると、フェルがご飯を持って来てくれた。
ご飯は卵粥だけど、フェルが食べさせてくれた。
一回一回、熱くないように冷ましてくれて、唇で温度まで確認までしてくれて、それがなんというか色っぽくて、ドキドキした。
フェルは汚いよね?なんて言ってたけど、彼がしたらなんでも絵になるから首を強く横に振った。
その後はドキドキしながらも、フェルに促されるまま眠りについて、次に目が覚めると時計の針が昼過ぎを指していた。
「ルナ、目が覚めた?」
「ん…」
隣で本を読んでいるフェルが僕に声をかけて来て、僕は頷く。
「汗かいてる。お風呂入ってくる?」
「入ってくる……」
僕はフェルに支えられながら起きて、お風呂に向かう。フェルは着替えを持って来ると言って脱衣所から出て行ってしまう。
ルナの家のお風呂はこじんまりとしてる。鏡と洗面台があるだけで、あとは何もなく、この家は本当に物が少ないなって思ってしまう。
ゆっくりと着ている白のネグリジェを脱いで行くと、脱衣所にある鏡に僕の体が映し出された。
……そういえば転生してからルナの体って初めてみるんだ。
鏡に映るルナの裸体は、白くてとても細い。肋も浮き出ていて、なんていうか病弱な子っていう体付きだ。
髪は白く背中まであって、目を赤い。多分アルビノって言うんだと思う。
けどその容姿が似合う、綺麗な顔立ちをしてる。
歳はわからないけど、見た目年は16歳ぐらいだ。
ゲームでは、目深くフード被っていて、着ている服も黒だったから分からないけど、ルナってこんなにも細い人だったんだなって思う。
「くしゅっ……」
ぼんやりと脱衣所でルナの体を見ていたらくしゃみが出て、慌ててお風呂に入る。
お風呂も小さいけど、シャワーと湯船があり、湯船からは湯気が登ってて、僕は体を洗ってから、湯船に浸かる。
「気持ちいい……」
お湯が温かくて、つい口から独り言が出てしまう。
そしてお湯を見ながら考える。
それはアクアの事だ。
彼女はゲーム内でフェルの許嫁である。いや婚約者といった方が良いかもしれない。
名前の通り、水魔法が得意で、青く長いふわりとした髪と目を持ってる女の子だ。
まさに水の妖精って感じで、本当に可愛らしい。
フェルはアクアとは婚約者じゃないと言ってたけどそんなのフェルの家の力ならどうにでもなると思う。
だってフェルは貴族なんだ。平民の僕とは地位とか立場とかが違う。
僕がフェルと居たいって泣いても、平民の僕の声なんて貴族には通り届かない。
……それにもしアクアがフェルじゃないと嫌と言ったら?
アクアはこのゲームのヒロインだ。フェルとアクアが引っ付くのがシナリオ通りだから、きっと、そっちの方にシナリオが傾く。
だって今まで読んだ、異世界転生の本もルートが中々回避できないのはあったから、フェアリー・スクイズだって……
「ルナ」
「え?」
ぐるぐると色々なことを考えていたらフェルに呼ばれた。
顔を上げると、お風呂のドアを開けたフェルが僕を心配そうに見つめてた。
「あまりにもお風呂長いから、心配……ルナ?どうしたの?」
「えっ……?……ぁっ…」
フェルはバスタブの近くに腰を降ろして、僕の顎をすくい上げ、上を向かせる。
「泣いてた?どうした?胸苦しい?」
「ち、違う……ちがうけど……」
この先の言葉が上手く出てこない。
だってフェルをアクアに取られたくないなんて口が裂けても言えない。
するとフェルが僕の頬に手を置き、微笑む。
「隠さなくていいよ。ルナの気持ち全部教えて?」
優しくて柔らかいその言葉に、僕の瞳から涙が落ちていた。
「アクアに……会いたくない。フェルをアクアに取られたくない……」
自分の胸の中にある思いを吐露すると、フェルは優しい笑顔を見せてくれた。
「そっか。大丈夫。僕はずっとルナといるよ。アクアに会いたくないなら会わなくていい。弟にアクアのことは任せてるから大丈夫だから、王都に行っても僕はルナの傍にずっといる」
「本当?離れない?」
「離れない。大丈夫。だから安心して」
フェルはそう言って、僕の目に溜まる涙を指で掬い取ってくれる。
きっと発作の苦しみだってフェルがいるから我慢出来る。
フェルが居なかったから我慢出来ない。
前の世界は一人でも耐えれたけど、今は無理。
だってこの病の発作は前の世界の発作より辛くて、精神がおかしくなりそうだ。
きっと前世の病なんかよりもっと酷いものだ。
「ルナ」
「ん?」
涙を流しながらフェルを見つめていると、フェルが僕の名前を呼んだ。
どこまでも柔らかな優しい声に、心臓がドキドキと騒ぎだす。
すると、フェルは僕の手に自分の手を絡め、ゆっくりと顔を近づける。
キスされる……
そう思った瞬間、フェルの唇が僕の唇に触れていた。
「ふっ……ん……んんっ……」
ぴちゃっという音と共に、フェルの舌が口の中に入って来て、深く甘いキスへと変わっていく。
「んっ……ふっ……んぅ……」
歯を舐められて、舌を絡め合わせ、最後に優しく吸い上げられてから、キスが終わる。
ゆっくりと互いの唇が離れると、銀の糸が僕とフェルを繋いでいて、それがとても色っぽく見えた。
そしてフェルは僕の額に口付ける。
「ルナ。好きだよ。僕は君だけの騎士になるからね」
そのセリフはゲームの中でフェルがアクアに告白する時のセリフで、顔が熱くなった。
けど言わなきゃ。僕の気持ち……フェルに……
僕は浸かっている湯船から少しだけ身を乗り出して、フェルの耳元で囁く。
「僕も……フェルが好き……大好き……」
今言える僕の精一杯の告白を告げると、フェルは、小さく息を呑んで……
そして……
「僕たち両思いだね。嬉しいよ。じゃあルナの彼氏になっていいかな?」
その言葉を聞いて僕はフェルの耳から顔を離して、フェルを見て告げた。
「なって……ください……お願いします」
「もちろんだよ。それと、ありがとう。ルナ、僕の愛を受け取ってくれて……」
フェルの優しい言葉でまた僕の瞳からは涙が溢れた。
「ふふっ……ルナは泣き虫だなぁ。けど、そんなところも大好きだよ」
そしてフェルは僕の目にキスを落としてくれたのだった。
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