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同僚がモフ度の高い神獣でした。

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「えっ。ちょっと、嘘だろ。泣くの!?」

 何で!? と目の前の神尾くんが狼狽える。

 指摘されてようやく、私は自分が涙を落としていることに気がついた。
 急いで目元を拭うも、自覚するとどんどん切なくなって、涙が後から後から止まらない。

 連日の激務による疲労と、それを滞りなくこなすために張り詰めていた緊張感が、ふつりと切れてしまったようだ。
 自力で泣き止むことができなくなって、私は涙を隠すように両手で顔を覆った。

「……ええと」

 困ったような神尾くんの声が、私に尋ねる。

「これは何……どうしたんですかって聞いていいやつ?」

 ひ、としゃくりあげながら、私は小さな声で「すみません」を繰り返した。

「ちょっと疲れて……実家の猫と犬を思い出して、会いたいな、なでなでしたいなって思っていたところにモフモフの塊みたいな生き物を見た気がしたので……つい嬉しくなっちゃったんです。幻だって分かったら、なんだか急に悲しくなって」

「悲しく……って。そのモフモフがここにいたとして、えーとあなた、篠瀬さん。篠瀬、葵さん? あなたそれをどうしたかったんですか」

「どう……?」

 どうしたかったのかな、と私は考える。

「も、モフモフして、なでなでして、ぎゅーってしたかったです」

「語彙が子どもか」

「う」

 すみません、と恐縮すると「別に怒ってるわけじゃないです」と返された。

 可愛いものや愛しいものを表現する時は語彙が幼稚になりがちだ。自覚はあったが、改めて指摘されると恥ずかしかった。

 気をつけよう、と気を引き締めていると、ちょっと考えてから神尾くんが訊く。

「でもそれ、怖くはなかったんですか」

「え?」

 何を聞かれたの分からなくて涙目のまま顔を上げる。

 一瞬、怯んだような表情を浮かべてから、神尾くんがふいと視線を逸らした。

「だから、そのおっきくて白いモフモフ。そんな猫でも犬でもないよく分からない生き物見たら、普通はびっくりしませんか。触りたいなんて言うから、怖くなかったのかなと思って」

 いや、びっくりはした。でも。

「こ、怖くはなかったです」

 首を振って、私は自分の見た不思議な獣について説明した。

「だって、とても綺麗だったんです。フワフワの白い毛がお日様の光でキラキラ輝いて見えて、こう、水が流れるように波打つ毛並みがすごく素敵でした。金色の目は純度の高い宝石みたいに透き通っていたし、くるくる癖の強い尾っぽは先の方までよく手入れされていて、立派でした。あんなに大きくて、美しくて、カッコいいモフモフは見たことがないです。抱きしめたらきっとお日様の匂いがしたんじゃないかなぁ。あ、それから」

「分かった、分かった。もういいです」

 神尾くんの手のひらが目の前に突き出される。
 口を閉じると、なぜか少し赤くなった神尾くんが「とんでもないな」とか何とか呻きながら頭を掻いた。

 考えるような間を置いてから、神尾くんが私を見つめる。

「篠瀬さん」

「はい」

「篠瀬さんは口が固いですか」

「……え」

 唐突な質問に、真意が見えない。

「俺が内緒にしてくださいってお願いしたことは、ちゃんと黙っていられる人ですか」

「それは」

「──まあ、喋っても誰も信じないと思うけど」

 問いかけておいて勝手に納得したのか、「見ていて」と神尾くんが右手を私の目の高さまで持ち上げた。

 私の手とは違う、大きくて筋張った、だけどどこか線の細い手が威圧を避けるように甲を向いている。
 反射的に見入っていると、ふいにその手がざわり、と変化した。

 雪のように白い毛が肌を覆い、指先が丸くなる。ほんの少し覗く爪は細長く鋭くて、大きさこそ比にならないが、犬の前足に似ていた。

 え、と目を上げると、そこにいたはずの神尾くんの姿がない。
 代わりに見上げるほど大きな白いモフモフがお座りをしていて……

「!?」

 びっくりしすぎて、私は言葉を失った。
 神尾くんが消えて、幻だと思った獣が目の前にいる。

 何? 何? どうなってるの!?

 声もなくパニックになっていると、美しいモフモフが笑うようにゆっくりと瞬きをした。

「……も、もしかして……神尾君……?」

 信じられない思いで尋ねる私に、そうだよ、と言わんばかりにモフモフが大きな尻尾をぱたり、と動かした。
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