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デートしましょう。
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「猫は触られると嫌な部分が個体によって結構違うので、たまたま嫌なところを触っちゃったのかもしれませんね。気分屋なので触ってほしくない時だったのかも。でも、この子たちは撫でてもらいたくて近寄って来てるので大丈夫ですよ」
膝の上に陣取ったスコティッシュがあくびをする。
穏やかな子だ。
「神尾君」
空いている方の手を取ると、神尾君がびくりと緊張した。
「大丈夫、大丈夫。そっと触ってください」
手を取ったまま、スコティッシュの背中を撫でる。
ふわふわの毛皮を一緒に撫でていると、スコティッシュは満足げに目を閉じた。
「ね。逃げないでしょ」
にこ、と笑いかけると、神尾君が複雑そうな顔で笑い返した。
「篠瀬さんはけむくじゃらの動物が絡むと急に積極的になりますよね」
「え……あっ」
掴んだままの手に注意を向けられて、急に恥ずかしくなる。
わあっ、と神尾君の手を放り出して、私は平身低頭誤った。
「すすすすみません。勝手に触って」
「いえ、それはいいんですけど。ていうかむしろ触って欲しいんですけど。篠瀬さんいつも微妙に接触を避けるでしょ。珍しいな、と思ったんです」
黙ってればよかったな、と独りごちながら神尾君がスコティッシュを撫でる。
私より大きな掌が気持ちいいのか、スコティッシュがぐるぐる喉を鳴らした。
「す、すみません。……恥ずかしくて」
「知ってますよ」
「狛犬の神尾君に触るのは大丈夫なんですけど」
「それも知ってます」
猫から私に視線を移して、神尾君が言う。
「狛犬の俺が平気なのは、男として意識していないからでしょ。こっちの姿で触ってもらえないのはちゃんと意識してくれてるからだ」
じっと見つめられて、私は真っ赤になった。
もっともな指摘だが、改めて自覚するとものすごく恥ずかしい。
視線を逃すと、神尾君の右手が私の左手に重なった。
「意識して。俺のこと。それで触れるようになってください」
する、と指を絡められて、思わず変な声が出そうになる。
急激に緊張した私の膝に居心地の悪さを感じたのか、スコティッシュが膝から降りて行ってしまった。
「あ」
小さく声を上げた神尾君が、自分の膝に視線を落とす。
見ると、最初に見た、あの小さな白い子猫が一生懸命神尾君の膝に乗ろうとしているところだった。
「し……篠瀬さん、篠瀬さん。これはどうしたらいいですか。触ったら逃げますか。でも落ちそう。捕まえて膝に乗せたらだめですか」
わたわたと慌てる神尾君は一刻前の人とは別人のようだ。
少年のようにうろたえる神尾君の姿にほっと気を抜いていると、子猫が自力で膝の上によじ登って来た。
「うわ、ちっさ。軽い。こわい」
「怖くないですよ。撫でてあげてください」
神尾君の手のひらに収まってしまいそうなサイズの子猫に、神尾君が恐る恐る手を伸ばす。
そうっと頭を撫でると、膝の上でうろうろと落ち着きのなかった子猫がその場で丸くなった。
「落ち着いた」
「可愛いですね」
私が言うと、神尾君が私に向かって微笑んだ。
「楽しいです」
無邪気な笑顔にぎゅう、と胸がしまって、私はまた赤くなる。
「まあ、毛並みなら俺も負けませんけど」
笑って神尾君が子猫に視線を戻した。
そっと力を込められて、絡められた指先がそのままになっていたことに気がつく。
「慣れてください。ちょっとずつでいいので」
猫を見下ろしたまま、神尾君が言った。
「……はい」
ほんの少し指先を握り返すと、神尾君が横顔だけで嬉しそうに笑う。
そうして子猫が飽きて膝から降りるまでずっと、私たちは手を繋ぎ続けた。
膝の上に陣取ったスコティッシュがあくびをする。
穏やかな子だ。
「神尾君」
空いている方の手を取ると、神尾君がびくりと緊張した。
「大丈夫、大丈夫。そっと触ってください」
手を取ったまま、スコティッシュの背中を撫でる。
ふわふわの毛皮を一緒に撫でていると、スコティッシュは満足げに目を閉じた。
「ね。逃げないでしょ」
にこ、と笑いかけると、神尾君が複雑そうな顔で笑い返した。
「篠瀬さんはけむくじゃらの動物が絡むと急に積極的になりますよね」
「え……あっ」
掴んだままの手に注意を向けられて、急に恥ずかしくなる。
わあっ、と神尾君の手を放り出して、私は平身低頭誤った。
「すすすすみません。勝手に触って」
「いえ、それはいいんですけど。ていうかむしろ触って欲しいんですけど。篠瀬さんいつも微妙に接触を避けるでしょ。珍しいな、と思ったんです」
黙ってればよかったな、と独りごちながら神尾君がスコティッシュを撫でる。
私より大きな掌が気持ちいいのか、スコティッシュがぐるぐる喉を鳴らした。
「す、すみません。……恥ずかしくて」
「知ってますよ」
「狛犬の神尾君に触るのは大丈夫なんですけど」
「それも知ってます」
猫から私に視線を移して、神尾君が言う。
「狛犬の俺が平気なのは、男として意識していないからでしょ。こっちの姿で触ってもらえないのはちゃんと意識してくれてるからだ」
じっと見つめられて、私は真っ赤になった。
もっともな指摘だが、改めて自覚するとものすごく恥ずかしい。
視線を逃すと、神尾君の右手が私の左手に重なった。
「意識して。俺のこと。それで触れるようになってください」
する、と指を絡められて、思わず変な声が出そうになる。
急激に緊張した私の膝に居心地の悪さを感じたのか、スコティッシュが膝から降りて行ってしまった。
「あ」
小さく声を上げた神尾君が、自分の膝に視線を落とす。
見ると、最初に見た、あの小さな白い子猫が一生懸命神尾君の膝に乗ろうとしているところだった。
「し……篠瀬さん、篠瀬さん。これはどうしたらいいですか。触ったら逃げますか。でも落ちそう。捕まえて膝に乗せたらだめですか」
わたわたと慌てる神尾君は一刻前の人とは別人のようだ。
少年のようにうろたえる神尾君の姿にほっと気を抜いていると、子猫が自力で膝の上によじ登って来た。
「うわ、ちっさ。軽い。こわい」
「怖くないですよ。撫でてあげてください」
神尾君の手のひらに収まってしまいそうなサイズの子猫に、神尾君が恐る恐る手を伸ばす。
そうっと頭を撫でると、膝の上でうろうろと落ち着きのなかった子猫がその場で丸くなった。
「落ち着いた」
「可愛いですね」
私が言うと、神尾君が私に向かって微笑んだ。
「楽しいです」
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「まあ、毛並みなら俺も負けませんけど」
笑って神尾君が子猫に視線を戻した。
そっと力を込められて、絡められた指先がそのままになっていたことに気がつく。
「慣れてください。ちょっとずつでいいので」
猫を見下ろしたまま、神尾君が言った。
「……はい」
ほんの少し指先を握り返すと、神尾君が横顔だけで嬉しそうに笑う。
そうして子猫が飽きて膝から降りるまでずっと、私たちは手を繋ぎ続けた。
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