【ライト版】元死にたがりは、異世界で奴隷達と自由気ままに生きていきます。

産屋敷 九十九

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第4章 奴隷と暮らす

第7話

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 奴隷商館を転々として、最終的に行き着いた先は、エドーラ王国の『カミュア』というところだった。

 ここは、高級奴隷までをも取り扱う商館のようで指導は厳しかったが、待遇は今までのとこよりは遥かによかった。指導では、間違えればもちろん鞭で叩かれるが、食事量は今までより増え、固いパン十個と三杯の穀物スープと水になった。

 俺は、狼人国アレクセイで団長を務めていたこともあり、VIP専用の部屋へ入れられた。立ち位置としては、捕虜ということもあって微妙だったが、騎士としての腕はあったので結局、ここへ入れられることになったのだった。

 VIP専用の部屋へ来る客といえば、声が大きく傲慢な貴族ばかりだった。キツい臭いの香水を毎回部屋へ持ち込んでは撒き散らしていくから、何度吐きそうになったことか……。奴隷を品定めする貴族の客は、俺のことを聞いては「扱いづらそうだ」「何故、こんな面倒なのがVIPにいる」等と指差して言ってくる。

 決定権のない俺に言われても困る。

(そこの支配人に聞いてくれ……)

 単調な日々を過ごして、過ごし続け、その日がやってきた。そう───今のご主人様に買われたあの日だ。


***


 その日、商館へ入ってきたのは、今まで来た貴族よりも遥かに静かな足音、薄い匂いを纏う客だった。客はまだVIP専用の部屋まで入って来ていなかったが、父譲りの聴覚と嗅覚でそれが把握できた。

 冷く灰色の檻の床しか写さなかった俺の視界は、久しく商館の部屋を見渡した気がする。いつのまにか、顔を上げていた自分に少し驚く。

 俺は神経を研ぎ澄ませるよう耳に集中する───どこかの部屋……応接室、だろうか? 何か話しているような声はうっすら聞こえるものの、客の声が小さすぎて、支配人のハキハキとした大きな声だけが拾えた。支配人のその声から、脅されているような感じだった。必死な謝罪と怯えた声が聞こえた。
 
 暫くして、ガチャリとドアノブが回され、客ひとりと支配人が中へ入ってきた。

「ここがVIP専用の部屋でございます」

 俺は客を一瞬確認すると、誰とも目を合わせないように、静かに頭を垂れた。小柄というよりは子供のようで驚いた。

(あの客が支配人を脅した……?)

 にわかには信じがたいその事実に驚愕する。この客以外は誰も入って来てなかったよなと思い返してみるが、やはりこの客しかいない。

 何でもいいから取り敢えず情報が欲しくて、眼を瞑りもう一度集中し、スンと鼻を鳴らすが、やはり匂いがしない。

(何故だ? 故意に匂いを……消している?)

 ここまで匂いの薄い、というか匂いのしない人は初めてだった。俺が最初に嗅ぎ取っていた匂いは、この客本来の体臭ではなく、街を歩いている時についてしまった匂いだったようだ。

 鼻が利かないので視覚に頼る他なく、仕方なくまた頭を少しだけ持ち上げ、じっと観察するようにその客を見据えた。

(人間の……男?)

 パッと見は少年であるのに、身体は華奢で少女のようにも見えた。だが、こんなところに女ひとりで来るはずがない。

 支配人が棚から資料を取り出して来て、それを客に手渡していた。

「こちらが、ここにいる奴隷たちの資料です」

「どうも」と資料を受け取った客だが、膨大な量だったため、支配人に聞くことにしたようだ。

「ふむ。気性が荒くなく、常に冷静に行動することのできる誠実な者はいるか? その中で、第一に紳士的な者、続いて第二に強い者と知識の豊富な者が好ましい」

「なら、いいのがおります。誠実さでいえば、獣人が良いでしょう。獣人は生まれながらに素直な者が多いので。ですが、どの奴隷に関しましても調教済みですので、誠実さも気性についても問題ないかと。ですから、お客様の気に入った容姿で選ぶと良いでしょう。この辺りの獣人は護衛に向いております。腕は確かで能力も高いです。資料はこちらのページです」と支配人が資料のページを開けると、客は開かれた資料を手に持ったまま、檻の奴隷に近づいて見比べては考える仕草を見せた。俺は表情を見られないよう頭を垂れる。

「こっちは借金奴隷か……で、こっちが」

 資料を見つめて何か納得するように一度頷いた客は、見ていた資料から顔を上げた──そして、フードの奥から覗き見える小さな少年の黒い瞳と視線が一瞬交わり、俺は少し顔を上げてしまった。

 初めて見る冬の夜空のような瞳に吸い込まれるように、俺はうっかり惹かれてしまったのだ。
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