警視庁雑務部雑務総務課〜父の無実の罪を晴らすため就職しました〜

産屋敷 九十九

文字の大きさ
61 / 99
File1 自覚無き殺人犯

第四十九話 嘘は真実に真実は嘘になる

しおりを挟む
"あー、ごめんね? 正人君。以前、ソフィア君がきみに『なんで魂を二個持っているのか』って言ってたの覚えてる?"

課長がそう言って、俺がそれに返した辺りからだろうか。

聞こえてくる音に左右差があることに気がついた。左耳に音が入りにくくなったような違和感があった。

はじめは病み上がりだからだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。

此処にはない音が左耳だけに届いていた。息切れをするような早い呼吸音、苦しそうに咳をする音が俺の鼓膜を叩きつける。

聞こえてくる音があまりにも近すぎて、その音の出どころが俺ではないかと一瞬疑ったが、違った。現に、俺には苦しさはない。

メンバーの顔を見る振りをして探るがやはり違う。


じゃあ、この音の出どころは───?

まさか。


弟は普段、共有しか使わなかったはずだ。


なのに何で今、左の聴覚置換なんだ?
もしかして、共有が使えない状況なのか?


俺の魂について、深く掘り下げて聞かれずに済んで本当によかったと胸をなで下ろしたが、いつもなら弟が上手いこと対応してくれていたのに今回はそれらしいことがなかった。

この時点でもう、感覚共有が解かれてしまってるってことなんだろう。


なんで、そんなに苦しそうなんだ?
もしかして、誰かに襲われた?
でも、おまえのことは知られてないはず───。
もしかして、おまえにも服部の時のダメージが。


弟の状況、状態、安否がわからない今、心配だった。今すぐ連絡をとりたいが、弟の携帯電話の電話番号もメールアドレス、その他SNSの連絡手段を俺は一切知らない。

俺たちは、俺たちの関係を他の誰にも知られてはならない。だからこそ、赤の他人を演じなければならなかった。徹底して、お互いの連絡先も登録するのを避けた。

メンバーの話にきりがついたところで、俺は口を開いた。

「あの、すみません。ちょっと電話してきていいですか? 日曜日に約束してた奴がいたんですけど、俺意識なくて連絡取れなかったんで」

俺は嘘を吐くのが苦手だ。すぐに顔に出てバレてしまう。友人にも弟を含む身内にも"おまえは嘘を吐くと直ぐに顔に出るよな"と言われてしまうほどだ。

自分でも嘘を吐く時、表情筋が強張るのを自覚できてしまうから、本当に顔に出やすいんだなと思った。

だが、嘘偽り無く本当のことを話す時は強張りを感じたことはないから顔に出ることは一切ないのだと思う。




つまり、俺はを話せばいいってことだ。




だから俺は足らない頭で考えて考えて考えた挙句、口を開いたのだ。


"あの、すみません。ちょっと電話してきていいですか? 日曜日に約束してた舞ちゃんって子がいたんですけど、俺意識なくて連絡取れなかったんで"


まいちゃん」というのは、いま俺がはまっている疑似恋愛ゲームの攻略対象の女性だ。因みに巨乳。

思い浮かべた約束の相手は人ではなく、ゲームの中の人だけど、真実であることには変わりはない。そして、その舞ちゃんとは日曜日に水族館デートをする約束だった。


案の定、俺の表情筋は強張らなかった。

この特技は、今のところ俺しか知らない。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

reva
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...