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26 スーリの愁い
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スーリは男の手を取ったまま、許可も得ずシャルリンテの横の椅子にストンと座った。
苦し気に、何とか息を整えようとしているスーリは、いつにも増して妖艶で美しく見えた。
ダートは、荒い息を吐いている、突然やって来た金髪の美女に手を掴まれ、心まで鷲掴みにされたようだった。
スーリはダートの金色の瞳を、自分の青い瞳で威嚇するように睨み、一時も逸らさなかった。
ダートの方を見ると、睨まれているだけなのに見つめられていると勘違いしているのか、顔を赤らめている…。
スーリは空いている方の手で、シャルリンテの水の入っているグラスを掴むとぐびぐびと飲み干し、男らしくゴンッと机に空のグラスを置いた。
走ってきたのか、相当、喉が渇いていたらしい…。
さすがに男とバレたか…とシャルリンテはダートを見た。
しかしダートはいそいそと、お店の人に「彼女にも水を…」などと頼んでいる。
ダートは自然な流れを装いながら、スーリの手の上に自分のもう片方の手を載せ、両手で握り返しながら聞いた。
「…シャルリの、お知り合いの方ですか?俺はダートと言います」
ダートが、スーリには当たり前のように、敬語を使う事にシャルリンテは少しムッとした。
すると、シャルリンテの頭の中に、スーリの声が響く。
《…なぜ、応えてくれなかったんですか?大きな魔術も使えないから、鳥や木から情報を集める…などという子供だましの魔術を使い…近くまで来ていたから、先程の返事で場所を特定できましたが…連れ去られでもしたんですか?!》
《違う…私がついて行った…》
《──なぜ?!》
驚いたスーリは、ダートから瞳を離しシャルリンテを見た。
シャルリンテは、刺すようなスーリの視線を無視してダートに言った。
「この者は、スー…、スーと言うの。私の侍女だったんだけど…。やだわ…スーったら、心配で追いかけて来たの?」
シャルリンテは作り笑いをして、スーリを見た。
すると、怒りに満ちた青い瞳と目が合う。
「スーですか…。美しい名だ」
名前がブーだと言っても、ちやほやしそうな勢いでダートは褒めた。
「それと…スーは声を出せないの…」
「声が…。そうですか…。でも、声が出せないというのも一つの魅力ですね…」
ダートは、先程までは自分を口説きかけていたのに、今はもうスーリに夢中だ。
獲物を逃すまいと、鬼の形相で追いかけて来ただけのスーリに…。
確かに、スーリの容姿は魅力的だし、郡を抜いて美しいのは確かだ。
しかし、人はその容姿だけに惹きつけられている訳ではない。
スーリには、切なさを含んだ愁いがいつも漂っていた。
その愁いが、本人の意図しない所で、知らずに人を惹きつける。
シャルリンテは、長くスーリと一緒にいるうち、その事に気がついた。
恐らく、その愁いとは亡国の王子である…という事が起因しているのだろう。
そして、その亡国にした敵国の王女が自分。
どう考えても最初から、救いようのない関係だったのに…。
三年間べったりと一緒にいたせいで、感覚が麻痺していたとしか言いようがない。
こうして少し離れただけで、シャルリンテは冷静に自分を見られるようになってきていた。
侍女として王宮にいた時に、手紙を託した相手を誘惑したり、厩番と自分がくっつきそうだった時、キスをしてきて邪魔したのは自分が他の誰かと結婚してしまわない為…。
結婚してしまえば、復讐する機会も限られてしまう。
森で優しく抱いたのも、そうすれば、男に免疫のない色欲に溺れた馬鹿な王女が、涎を垂らしてどこまでもついて来ると分かっていたから。
カリスト国にバレない微力の魔力で、一人の人間を引きずって行くよりも、本人にサシュナまで歩いてもらったほうが楽に違いない。
サシュナ国に売り渡した時、より絶望に包まれた憎い王女の顔も拝める。
愛していないと何度も自分に教え込んだのは、甘く抱いたら、愛されているのだと、うっかり勘違いした王女が、魔力を返してもらおうとスーリを殺してしまう危険があったから…。
そんな事を考えているうちに、シャルリンテの胸は恐怖よりも、悲愴感で一杯になってきた。
食事を食べ終えていたシャルリンテは、ナフキンで口を拭くと立ち上がった。
「ちょっと失礼…。お手洗いに…」
ダートは「ああ…」と言ってシャルリンテを見たが、すぐにスーリに視線を戻した。
苦し気に、何とか息を整えようとしているスーリは、いつにも増して妖艶で美しく見えた。
ダートは、荒い息を吐いている、突然やって来た金髪の美女に手を掴まれ、心まで鷲掴みにされたようだった。
スーリはダートの金色の瞳を、自分の青い瞳で威嚇するように睨み、一時も逸らさなかった。
ダートの方を見ると、睨まれているだけなのに見つめられていると勘違いしているのか、顔を赤らめている…。
スーリは空いている方の手で、シャルリンテの水の入っているグラスを掴むとぐびぐびと飲み干し、男らしくゴンッと机に空のグラスを置いた。
走ってきたのか、相当、喉が渇いていたらしい…。
さすがに男とバレたか…とシャルリンテはダートを見た。
しかしダートはいそいそと、お店の人に「彼女にも水を…」などと頼んでいる。
ダートは自然な流れを装いながら、スーリの手の上に自分のもう片方の手を載せ、両手で握り返しながら聞いた。
「…シャルリの、お知り合いの方ですか?俺はダートと言います」
ダートが、スーリには当たり前のように、敬語を使う事にシャルリンテは少しムッとした。
すると、シャルリンテの頭の中に、スーリの声が響く。
《…なぜ、応えてくれなかったんですか?大きな魔術も使えないから、鳥や木から情報を集める…などという子供だましの魔術を使い…近くまで来ていたから、先程の返事で場所を特定できましたが…連れ去られでもしたんですか?!》
《違う…私がついて行った…》
《──なぜ?!》
驚いたスーリは、ダートから瞳を離しシャルリンテを見た。
シャルリンテは、刺すようなスーリの視線を無視してダートに言った。
「この者は、スー…、スーと言うの。私の侍女だったんだけど…。やだわ…スーったら、心配で追いかけて来たの?」
シャルリンテは作り笑いをして、スーリを見た。
すると、怒りに満ちた青い瞳と目が合う。
「スーですか…。美しい名だ」
名前がブーだと言っても、ちやほやしそうな勢いでダートは褒めた。
「それと…スーは声を出せないの…」
「声が…。そうですか…。でも、声が出せないというのも一つの魅力ですね…」
ダートは、先程までは自分を口説きかけていたのに、今はもうスーリに夢中だ。
獲物を逃すまいと、鬼の形相で追いかけて来ただけのスーリに…。
確かに、スーリの容姿は魅力的だし、郡を抜いて美しいのは確かだ。
しかし、人はその容姿だけに惹きつけられている訳ではない。
スーリには、切なさを含んだ愁いがいつも漂っていた。
その愁いが、本人の意図しない所で、知らずに人を惹きつける。
シャルリンテは、長くスーリと一緒にいるうち、その事に気がついた。
恐らく、その愁いとは亡国の王子である…という事が起因しているのだろう。
そして、その亡国にした敵国の王女が自分。
どう考えても最初から、救いようのない関係だったのに…。
三年間べったりと一緒にいたせいで、感覚が麻痺していたとしか言いようがない。
こうして少し離れただけで、シャルリンテは冷静に自分を見られるようになってきていた。
侍女として王宮にいた時に、手紙を託した相手を誘惑したり、厩番と自分がくっつきそうだった時、キスをしてきて邪魔したのは自分が他の誰かと結婚してしまわない為…。
結婚してしまえば、復讐する機会も限られてしまう。
森で優しく抱いたのも、そうすれば、男に免疫のない色欲に溺れた馬鹿な王女が、涎を垂らしてどこまでもついて来ると分かっていたから。
カリスト国にバレない微力の魔力で、一人の人間を引きずって行くよりも、本人にサシュナまで歩いてもらったほうが楽に違いない。
サシュナ国に売り渡した時、より絶望に包まれた憎い王女の顔も拝める。
愛していないと何度も自分に教え込んだのは、甘く抱いたら、愛されているのだと、うっかり勘違いした王女が、魔力を返してもらおうとスーリを殺してしまう危険があったから…。
そんな事を考えているうちに、シャルリンテの胸は恐怖よりも、悲愴感で一杯になってきた。
食事を食べ終えていたシャルリンテは、ナフキンで口を拭くと立ち上がった。
「ちょっと失礼…。お手洗いに…」
ダートは「ああ…」と言ってシャルリンテを見たが、すぐにスーリに視線を戻した。
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