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27 最高位の魔力
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シャルリンテは化粧室に入ると早速、逃げ道がないか探した。
見ると、奥に窓が一つある事に気がつく。
そちらに足を向けようとしたとたん、バンッと勢いよく扉が開いた…。
そして、毛が逆立っているのでは…というほどの怒りに包まれたスーリがズンズンと向かって来る。
「──なぜ、あんな男について行ったんですか?」
そう言うと、スーリはシャルリンテの両手を乱暴に掴んで、壁に押し付けた。
「私がどれだけ心配したと、お思いで?!」
スーリは怒りと切なさの混ざった瞳で、シャルリンテを見つめた。
──サシュナに売られたくなくて逃げた…。
…などど正直に言おうものなら、婚姻石だけではきっとすまない。
足を、へし折られるかもしれない。
そして、半殺しにした自分をサシュナの兵に投げつける…。
そんな絵が、生生しく浮かぶ。
美しいスーリの顔から溢れる怒りは、そんな狂気を発していた。
王宮から逃げ出した時…いや、おそらく、公開で処女を奪った時からの計画の達成が目前なのだ。
馬鹿な王女を、奈落の底に突き落とす。
そして初めて、親の敵討ちが完遂し、スーリの新しい人生の幕が開く…。
今、獲物に逃げられたら、たまったものではないのだろう。
スーリの怒りも理解できる。
シャルリンテは、ごくりっ…と唾を飲んで言葉を絞り出した。
「…ごめんなさい。私が惚れっぽいのは知っているでしょう?転んだところを助けられて…。ちょっと素敵だと思ったの…。だから、あんたには悪いと思ったけど、ついて行ってしまった。無視したのは、ダートの話に夢中だったからよ…」
シャルリンテの話を聞いていたスーリの瞳から怒りは消え、代わりに哀れみの色が浮かぶ…。
シャルリンテはその瞳が癪に障ったが、我慢して先を続けた。
「まぁ、いつも通りあんたに彼は取られたから、目は覚めた…。私はここで別れてあげるから、あなた、私の代わりに一緒に行けば?お金持ちみたいだし。あの様子なら男だとバレても、お気に入りになれるんじゃない?」
スーリは力なく笑って、シャルリンテに言った。
「──あの男が、クースリューと同じ金色の瞳をしているのに気づいていますか?最高位の魔力の持ち主だ…」
シャルリンテは、スーリの言っている意味がよく理解できなかった。
「…最高位の魔力?」
「カリスト王族の女性のあなたは、金色の瞳ではなくても、強力な魔力を持っていましたが…。一般的には魔力の強い者は、生まれながらにして金色の瞳を持つ…それは、どの国でも共通している事実です…」
スーリは、静かに言った。
「なんであなたはあんなに魔力が強く、狡猾そうな男に引っかかったんだ…。いつものタイプとは、違う気がしますし…。私の魔術は全て見破られるから何も使えない…。婚姻石だけは、シーセントの独自の物だから、頭の中の会話は見破られませんでしたが…」
「…金色の瞳が魔力の強い証だなんて、今、知ったもの…」
シャルリンテは、気まずさを隠すように目を伏せた。
「なぜ、あなたはこんなにも無知なんだ…!」
スーリは、シャルリンテの手を乱暴に放し、舌打ちした。
「いいですか?しばらく行った先に、宿があります。そこで、先に休んでいてください。このお金で宿代を払って…。できなくても、やった事がなくても、そうしてください!」
そして、お札の入った財布をシャルリンテのドレスのポケットに、乱暴にねじ込んだ。
そのついでに、シャルリンテの足に軽く触れ、魔術をかける。
「あなたが迷わないように、勝手に足が連れて行ってくれる魔術をかけました。だから寄り道はできませんよ…。私も、あの男を酔いつぶしたら、すぐに向かいます」
そう言うとスーリは、ふいに手を伸ばしシャルリンテの頬に触れ、口にキスをした。
そして唇を離すついでに、シャルリンテの肩に掛かっていたストールをスルリとぬいた。
「至近距離だから…。喉仏…隠すのに、これ、貸してください…」
スーリのテンションは、明らかに低かった。
くるりと背を向けたスーリは化粧室の扉を開け、小さく「くそっ…」と呟き、ダートの待つ席へと戻って行った。
その後ろ姿は、どこから見ても美しい淑女にしか見えなかった。
見ると、奥に窓が一つある事に気がつく。
そちらに足を向けようとしたとたん、バンッと勢いよく扉が開いた…。
そして、毛が逆立っているのでは…というほどの怒りに包まれたスーリがズンズンと向かって来る。
「──なぜ、あんな男について行ったんですか?」
そう言うと、スーリはシャルリンテの両手を乱暴に掴んで、壁に押し付けた。
「私がどれだけ心配したと、お思いで?!」
スーリは怒りと切なさの混ざった瞳で、シャルリンテを見つめた。
──サシュナに売られたくなくて逃げた…。
…などど正直に言おうものなら、婚姻石だけではきっとすまない。
足を、へし折られるかもしれない。
そして、半殺しにした自分をサシュナの兵に投げつける…。
そんな絵が、生生しく浮かぶ。
美しいスーリの顔から溢れる怒りは、そんな狂気を発していた。
王宮から逃げ出した時…いや、おそらく、公開で処女を奪った時からの計画の達成が目前なのだ。
馬鹿な王女を、奈落の底に突き落とす。
そして初めて、親の敵討ちが完遂し、スーリの新しい人生の幕が開く…。
今、獲物に逃げられたら、たまったものではないのだろう。
スーリの怒りも理解できる。
シャルリンテは、ごくりっ…と唾を飲んで言葉を絞り出した。
「…ごめんなさい。私が惚れっぽいのは知っているでしょう?転んだところを助けられて…。ちょっと素敵だと思ったの…。だから、あんたには悪いと思ったけど、ついて行ってしまった。無視したのは、ダートの話に夢中だったからよ…」
シャルリンテの話を聞いていたスーリの瞳から怒りは消え、代わりに哀れみの色が浮かぶ…。
シャルリンテはその瞳が癪に障ったが、我慢して先を続けた。
「まぁ、いつも通りあんたに彼は取られたから、目は覚めた…。私はここで別れてあげるから、あなた、私の代わりに一緒に行けば?お金持ちみたいだし。あの様子なら男だとバレても、お気に入りになれるんじゃない?」
スーリは力なく笑って、シャルリンテに言った。
「──あの男が、クースリューと同じ金色の瞳をしているのに気づいていますか?最高位の魔力の持ち主だ…」
シャルリンテは、スーリの言っている意味がよく理解できなかった。
「…最高位の魔力?」
「カリスト王族の女性のあなたは、金色の瞳ではなくても、強力な魔力を持っていましたが…。一般的には魔力の強い者は、生まれながらにして金色の瞳を持つ…それは、どの国でも共通している事実です…」
スーリは、静かに言った。
「なんであなたはあんなに魔力が強く、狡猾そうな男に引っかかったんだ…。いつものタイプとは、違う気がしますし…。私の魔術は全て見破られるから何も使えない…。婚姻石だけは、シーセントの独自の物だから、頭の中の会話は見破られませんでしたが…」
「…金色の瞳が魔力の強い証だなんて、今、知ったもの…」
シャルリンテは、気まずさを隠すように目を伏せた。
「なぜ、あなたはこんなにも無知なんだ…!」
スーリは、シャルリンテの手を乱暴に放し、舌打ちした。
「いいですか?しばらく行った先に、宿があります。そこで、先に休んでいてください。このお金で宿代を払って…。できなくても、やった事がなくても、そうしてください!」
そして、お札の入った財布をシャルリンテのドレスのポケットに、乱暴にねじ込んだ。
そのついでに、シャルリンテの足に軽く触れ、魔術をかける。
「あなたが迷わないように、勝手に足が連れて行ってくれる魔術をかけました。だから寄り道はできませんよ…。私も、あの男を酔いつぶしたら、すぐに向かいます」
そう言うとスーリは、ふいに手を伸ばしシャルリンテの頬に触れ、口にキスをした。
そして唇を離すついでに、シャルリンテの肩に掛かっていたストールをスルリとぬいた。
「至近距離だから…。喉仏…隠すのに、これ、貸してください…」
スーリのテンションは、明らかに低かった。
くるりと背を向けたスーリは化粧室の扉を開け、小さく「くそっ…」と呟き、ダートの待つ席へと戻って行った。
その後ろ姿は、どこから見ても美しい淑女にしか見えなかった。
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