Tribe Cross Online —元姫プ系寄生少女は独り立ちを望む—

灰乃二兎

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《第一部》骸の巨人

草むしりと、釣りと、パシリと、固有アビリティとⅠ

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「くっさむっしり~♪ くっさむっしり~♪」 
 
 ぶちり、ぶちり。
 謎の歌を口ずさみ、白くてちっこい獣人の女は、薬草の採取に勤しんでいました。 
 レアは現実リアルにおいて、農家を営む親戚の家で農作業を手伝ったことがあるので、そのお手並みは少し慣れたもの。 
 畑仕事は、道産子どさんこたしなみです。

 レアはぶちん、ぶちんと、手当たり次第目につく植物を引っこ抜いていきます。 
 さて、植物を引っこ抜いている理由はというと、ただ単にのんべんだらりと遊んでいるわけではありません。 
 いえ、確かにやっているのはゲームなので、遊びではあるのですが——、文字通り〝道草を食っている〟わけではなく、これもクエストの一環。 
 数十分前、開始直後から武器を売却し、直接攻撃の方法を失ったレアは、ヘステルマイムのNPCから受けられるサブクエストをひたすら受注していました。 


『採取の基本A』 
依頼人:ミレイ 
達成条件:【初級薬草】5つの納品 
支給アイテム:【鉄屑の手鎌】 

『採取の基本B』 
依頼人:剛毅な酒場の店主 
達成条件:【屑鉱石】3つの納品。 
支給アイテム:【鉄屑のツルハシ】  

『採取の基本C』 
依頼人:憂鬱な船乗り 下っ端
達成条件:【しょぼイワシ】3匹の納品。 
支給アイテム:【簡素な釣り竿】 

『合成の基本』 
依頼人:薬屋NPCクリス 
達成条件:【初級ポーション】1つの納品。 
 
『妻の気持ち』 
依頼人:フルティア 
達成条件:【妻の愛情弁当】を『眠りの祠』に居るNPCキャラクター、ガランに渡す。 
支給アイテム:【妻の愛情弁当】 
  
『仲直りの手紙』 
依頼人:ライチ 
達成条件:【仲直りの手紙】を『黄昏の丘』に居るNPCキャラクター、メルエッダに渡す。 
支給アイテム:【仲直りの手紙】 


 そして、ここはヘステルマイム西門から出た市外エリア、【西ヘルスザーノ平原】。 
 平原という名前の通り、拓けた大地に乱暴に草が生えたフィールドです。
 節々に舗装ほそうされた街路は通っていて、次のエリアへと続いているようです。
 そんなフィールドで、

「ヘイトきた! 支援頼むぞ!」

「任せろ!」

「こっちヒールちょうだい!」

「りょうかい!」

 モンスターと激しい戦闘を繰り広げているプレイヤーの傍ら、

「あ、ちょっと足元失礼しまーす。すいません、通りまーす」

 ぶちり、ぶちり。ぶちぶちっ。
 道の脇にある草むらの中で、レアはえっちらおっちらと薬草採取に夢中です。 
 剣戟けんげきと魔法が飛び交う真横で、せっせと採取に励むその姿は、なんというか、少しだけ滑稽こっけいで、空気が読めていない子感が否めません。 

「ふむふむ。手でむしると採取した薬草が〝破損ブロークン〟することがあるけど、鎌を使えば確実に採取できるんだね。なるほどなるほど。また一つ賢くなったぞ」 

 それなりに時間がかかりましたが、レアは無事に初級薬草を五つ確保することに成功しました。 

 
◆◇◆◇◆ 


「てい! せやぁぁぁ!」 

「回復飛ばします!」 

「すまん! そっちいった!」 

「おーらい! 任せろ!」 

 見事な連携でモンスターと戦うプレイヤーの傍ら、 

「ふっふっふっ。お守りマラソンの申し子と呼ばれた私に挑む採掘ポイントはどこだね?」 

 レアはツルハシを肩に担ぎ、その横を通り過ぎていきました。 
 この辺りはレベリングポイントとして適切なモンスターがポップする為、人気の狩場となっているようです。 
 その影響を受け、モンスターが狩り尽くされ、逆にレベリングの効率が落ちていました。 
 そんな中、他のプレイヤーと競合しないサブクエストの消化は実に合理的な判断と言えます。 
 もちろん、レアはそこまで狙っていませんが。 

「うーん、やっぱり採掘ってくらいだし、ゴツゴツした岩壁を探さないとだね」 

 しばらく都市とは反対側に歩いて行くと、レアは小さな洞窟どうくつを見つけました。 
 洞窟の中では、頭に鉢巻のように捩じった手ぬぐいを巻いた、採掘士風のNPCがツルハシをカツカツと振り下ろし、リズミカルな音を奏でていました。如何いかにも採掘場といった様子です。 
 許可なく入っていいものかと、一瞬だけ考えたレアですが、ゲームの世界なので利権問題などもありませんし、勝手に掘って良さそうです。 
 爽やかな汗を額に光らせる屈強な男達に混じって、レアは岩壁に向かい合いました。 
 一応きょろきょろと辺りを見回しましたが、モンスターの気配はなさそうです。 
 仮に出てきたとしても、今は一目散に逃げることくらいしか出来ませんが。

「——よし、やるぞい!」 

 壁に向かって意気込んだレアの背後から、 

「おっ、お嬢ちゃんも採掘かい?」 

「ほぁ⁉」 

 不意に声が降ってきました。 
 驚きのあまり、ツルハシを手から落としかけたレアが振り返ると、そこに居たのは作業員の一人です。 
 すすけた白のタンクトップと作業ズボン身に着け、前照灯ぜんしょうとうの付いたヘルメットを被っていました。 
 日焼けしたゴツゴツの肩にかついでいるのはツルハシ。
 レアの物より一回り大きなものです。 

 一瞬、プレイヤーキャラかとも思えましたが、頭上に表示されているの名前の横に〝NPC〟と書いてあることから、まあ、NPCなのでしょう。 

 少し話は脱線だっせんしますが、現代日本において、VR技術に追従して発展した技術があります。それは——、コンピューターAI、人工知能です。 
 今では、VRゲームに登場するNPCは全て、意思を持った存在と見分けがつかない動作を取り、会話することももちろん可能です。 

 そんな、現実の土木作業員と見分けのつかないNPCが、

「はっはっはっ! 脅かせちまって悪いな!」 

 武骨な手でレアの頭をガシガシでます。

「い、いや別にいいんだけど……。んっと、おじさんも頑張って!」 

「おう!」 

 元気に返事をしてNPCのおじさんは、自分の仕事に戻りました。 
 やれやれと気を取り直したレアは、手にした【鉄屑のツルハシ】で岩壁を叩きます。 

「それっ!」 

 カツーン! 
 痛快な音と共に、

『 【砂利】と【石ころ】を入手しました。 』 

 そんな、システムメッセージ。
 そして——、
 パリーン! 

「…………はい?」 

 

『 【鉄屑のツルハシ】の破損ブロークンが確認されました 』 

 

 システムメッセージが腹立たしい程に無機質に、無感情に、淡白たんぱくに表示されました。 
 それと同時にレアが持っていたツルハシがポリゴン——、光の粒子りゅうしとなって消えてしまいました。 

「なんで⁉ まだ一回しか使ってないのに⁉ 流石にもろすぎだよ!」 

 思わず叫んだレアに、 

「はっはっはっはっ! 嬢ちゃんも運が悪かったな!」 

 話しかけてきたのは先ほどのおじさんNPC。 
 元気を出せとバシバシ背中を叩いてきます。 
 レアはHPをけずられるかと思いましたが、なんとか無事でした。 

「私のツルハシがぁ……。どうしてこんな簡単に壊れるの? もしかして……、これが普通……?」 

「嬢ちゃんが使ってたのは、鉄屑のツルハシつって、一番ボロのやつだが……、それでも流石に一発で壊れるなんて話は……、そうそう聞かねえなぁ……」 

「ぬぐ……、そんなぁ……」 

 悲嘆ひたんに暮れるレアですが——、
 ふと気になったことがあったので、ステータス画面を確認しました。



名前:Rea 
種族/〈獣人種セリアンスロープ〉 性別/♀ 
【LV】1 《EXP》20/30 

【HP】100/100 
【MP】20/20
【STR】8 
【DEF】12(+9) 
【INT】10 
【RES】13(+6) 
【DEX】8 
【AGI】10 
【LUK】8 
【FAI】14 

スキル:【変身】 

装備 
武器:【鉄屑のツルハシ(破損)】 
頭:【なし】
手:【グローブ(左右共通)】 
腰:【旅人の長ズボン(脚腰兼用)】《DEF+2》《RES+2》 
脚:【旅人の長ズボン(脚腰兼用)】 
足:【旅人の靴】《DEF+2》《RES+1》 

装飾品A:【なし】 
装飾品B:【なし】 

「んー、ステータスの中に〝運〟ってあるのかな? 英語が沢山並んでて、見方がよく分からないなぁ……」 

 レアは英語表記されているステータスの意味を、ほとんど知りません。
 上から順にヒットポイント(体力値)、マジックポイント(魔力値)、ストロング(腕力)、ディフェンス(防御力)、インテリジェンス(知力)、レジスト(魔法耐性)、デックス(器用さ)、アジリティー(敏捷性)、ラッキー(幸運)、フェイス(信仰)の十項目のステータス。 

 一見すると幸運値を示す〈LUK〉が関係していそうですが、武器の破損率など具体的な数字が明記されている確率に、この項目は作用しない仕様になっているようです。
 やはり、この世界に存在する〝レア〟ではなく、現実での〝玲愛〟の不運が作用し、よくない方向へと傾いているのでしょう。
 そう結論付けたレアは気付きませんでした。
 



アビリティ
A【獣角をたまわりし者】(種族固有)
B【無限の可能性】(職業固有)
C【極運渙発フォル・トゥーナ】(プレイヤー固有)
D【なし】
※スロットC、【極運渙発フォル・トゥーナ】は一部プレイヤーだけが所持する唯一無二の固有アビリティです。
誤って忘却ぼうきゃくした場合、二度と再習得することは出来ません。

 

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