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24.導かれる刻(とき)
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どこからか聞こえてくる時計の針の音が、静寂の中で響いている。
時を刻む音は、確実に過ぎていく時間を知らせていた。
何も分からないまま、時間だけが過ぎていく。
ここがどこで、どうしてここにいるのかわからない。
自分が誰なのかもわからないまま、なぜか、取り残されたような寂しさに囚われていた。
どこかへ行きたいと願っていた。誰かに会いたいと、求めていた。そのはずだった。
不確かな想いがぐるぐると思考を巡らせる。
もう、どうでもいいのに、何も考えたくないのに、針の音が時を刻むと、沈む意識を引き上げる。
独りの殻に閉じこもっていたいのに、そうはさせてくれない音が、煩わしく思えた。
カチ……針の音が、心の奥底に刻まれた想いを呼び起こす。
(……やめてくれ)
思い出したくない。忘れていたい。
つらい、寂しいだけの時間を過ごすことが悲しい。
求めて止まない想いを抱えて生きていくことが、ひどく虚しいあのときに戻りたくないと拒んでも、湧き上がるそれが止まってくれない。
カチ……針の音が止まずに時を刻むと、記憶の欠片が積み重なっていく。
(もう、いいんだ……)
叶わないなら、もういい。
全部、なくなってしまえばいい。
要らない。記憶も感情も、自分自身でさえ――。
『初めまして、ミラ・バンズです』
記憶が呼び起こされると聞こえてきた。澄んだ声。
紅茶色の髪の少女が、蜂蜜色の瞳で微笑みを向けてくれた。その可愛らしさに胸が締め付けられて、その場を逃げ出した、淡い思い出が蘇った。
(なんで……)
カチカチと鳴る音が、針の音から欠片が重なる音に変わって、記憶の欠片が形を作ると、勝手に映像が流れていく。
あの人を思い出したところで、意味なんてない。
記憶にしか存在しない人に想いを馳せるだけの日々なんて、意味がないのに――。
『小公爵様は、花がお好きですか?』
記憶の中の少女が、隣から声を掛けてきたけど、これがただの幻聴であることは分かっていた。
振り向いても、そこに彼女がいないことも知っていた。
いつも、そうだ。
テーブルを挟んだ向かいの席にいるはずの彼女は、いない。
パーティー会場で隣にいたはずの彼女が、いない。
そこにいたはずの人が、どこにもいない。
いつも、期待をして振り向くけど、そこにいない人に向ける想いだけが取り残されて虚しくなるだけだった。
それでも、会いたいと願う。
幻想でもいいから、会いたい。
(ミラ……)
叶わない願いであることをわかっていながら、どうしても求めてしまう心に突き動かされて、隣の少女に振り向いた。
カチ……カチ……時計の針の音が、ゆっくりと静かに鳴り響いていた。
(……ここは、どこだ……?)
薬の匂いが充満した空間で、意識が現実に引き戻された。
視界に広がるのは、白い景色。天井も、壁も、奥に見えるドアや家具も白い。
それと、そこに佇んでいる人も、白衣を着てこの白い世界に溶け込んでいた。
紅茶色の髪が、ひと際鮮やかに見える。
ぼやけた景色が、鮮明に映し出されると、蜂蜜色の瞳と目が合った。
(ミ……ラ……?)
白衣を着たミラが、そこにいる。
彼女を最後に見た姿も、白衣を着ていた。
そのときの彼女は遠くにいて、微笑むとすぐに去ってしまったけれど、今、アレクシスの目に映るその人は、手を伸ばせば届くほど近くにいて、こちらを見つめる蜂蜜色の瞳を揺らしている。
(これも、幻想か……)
現実の彼女が、ここにいるはずがない。
彼女は――ミラは、アレクシスを置いて去ったのだから。
「アレクさん……?」
澄んだ声が、耳に懐かしく響くと、アレクシスの胸を震わせた。
幻影ではないのか?夢では、ないのか?
まさか……いや、違う、きっと触れたら消えてしまう。あの日のように、目の前からいなくなるんだ。
「……っ」
アレクシスは、手を伸ばして彼女を捕らえようとした。けれど、背中に激痛が走って、手足も縛り付けられているみたいに動かなかった。
その痛みが、これが現実であることを教えてくれた。
それなら、今ここにいる、近くにいる人は――。
「――」
(!……なんで)
その人の名を呼びたかった。なのに、声が出ない。
(……どうして、行ってしまったんだ)
僕を置いて、どうして……?
彼女に問いかけたかった。
(寂しかった……君に、会いたかった)
訴えかけたいと、何度か声を発しようとするのに、どうしても声が出せない。
「……痛いの?」
優しい声が、アレクシスの心を揺さぶって切なくさせると、感情がごちゃ混ぜになって、積もり積もった想いが溢れて止まらなくなる。
(そうだよ……痛くて、苦しくて……君が恋しかった)
ミラの手の温もりが、愛しくて仕方ない。
このまま、彼女に縋りついてしまいたかった。
それなのに、体が痛くて、動かなくて、声も出せなくてもどかしい。
せっかく、彼女が触れてくれているのに、自分はそれを許されない。
手を伸ばせばすぐに届くところにいるのに、自分だけが触れない。
ぶつけようのない感情が溢れて、止まらなかった。
時を刻む音は、確実に過ぎていく時間を知らせていた。
何も分からないまま、時間だけが過ぎていく。
ここがどこで、どうしてここにいるのかわからない。
自分が誰なのかもわからないまま、なぜか、取り残されたような寂しさに囚われていた。
どこかへ行きたいと願っていた。誰かに会いたいと、求めていた。そのはずだった。
不確かな想いがぐるぐると思考を巡らせる。
もう、どうでもいいのに、何も考えたくないのに、針の音が時を刻むと、沈む意識を引き上げる。
独りの殻に閉じこもっていたいのに、そうはさせてくれない音が、煩わしく思えた。
カチ……針の音が、心の奥底に刻まれた想いを呼び起こす。
(……やめてくれ)
思い出したくない。忘れていたい。
つらい、寂しいだけの時間を過ごすことが悲しい。
求めて止まない想いを抱えて生きていくことが、ひどく虚しいあのときに戻りたくないと拒んでも、湧き上がるそれが止まってくれない。
カチ……針の音が止まずに時を刻むと、記憶の欠片が積み重なっていく。
(もう、いいんだ……)
叶わないなら、もういい。
全部、なくなってしまえばいい。
要らない。記憶も感情も、自分自身でさえ――。
『初めまして、ミラ・バンズです』
記憶が呼び起こされると聞こえてきた。澄んだ声。
紅茶色の髪の少女が、蜂蜜色の瞳で微笑みを向けてくれた。その可愛らしさに胸が締め付けられて、その場を逃げ出した、淡い思い出が蘇った。
(なんで……)
カチカチと鳴る音が、針の音から欠片が重なる音に変わって、記憶の欠片が形を作ると、勝手に映像が流れていく。
あの人を思い出したところで、意味なんてない。
記憶にしか存在しない人に想いを馳せるだけの日々なんて、意味がないのに――。
『小公爵様は、花がお好きですか?』
記憶の中の少女が、隣から声を掛けてきたけど、これがただの幻聴であることは分かっていた。
振り向いても、そこに彼女がいないことも知っていた。
いつも、そうだ。
テーブルを挟んだ向かいの席にいるはずの彼女は、いない。
パーティー会場で隣にいたはずの彼女が、いない。
そこにいたはずの人が、どこにもいない。
いつも、期待をして振り向くけど、そこにいない人に向ける想いだけが取り残されて虚しくなるだけだった。
それでも、会いたいと願う。
幻想でもいいから、会いたい。
(ミラ……)
叶わない願いであることをわかっていながら、どうしても求めてしまう心に突き動かされて、隣の少女に振り向いた。
カチ……カチ……時計の針の音が、ゆっくりと静かに鳴り響いていた。
(……ここは、どこだ……?)
薬の匂いが充満した空間で、意識が現実に引き戻された。
視界に広がるのは、白い景色。天井も、壁も、奥に見えるドアや家具も白い。
それと、そこに佇んでいる人も、白衣を着てこの白い世界に溶け込んでいた。
紅茶色の髪が、ひと際鮮やかに見える。
ぼやけた景色が、鮮明に映し出されると、蜂蜜色の瞳と目が合った。
(ミ……ラ……?)
白衣を着たミラが、そこにいる。
彼女を最後に見た姿も、白衣を着ていた。
そのときの彼女は遠くにいて、微笑むとすぐに去ってしまったけれど、今、アレクシスの目に映るその人は、手を伸ばせば届くほど近くにいて、こちらを見つめる蜂蜜色の瞳を揺らしている。
(これも、幻想か……)
現実の彼女が、ここにいるはずがない。
彼女は――ミラは、アレクシスを置いて去ったのだから。
「アレクさん……?」
澄んだ声が、耳に懐かしく響くと、アレクシスの胸を震わせた。
幻影ではないのか?夢では、ないのか?
まさか……いや、違う、きっと触れたら消えてしまう。あの日のように、目の前からいなくなるんだ。
「……っ」
アレクシスは、手を伸ばして彼女を捕らえようとした。けれど、背中に激痛が走って、手足も縛り付けられているみたいに動かなかった。
その痛みが、これが現実であることを教えてくれた。
それなら、今ここにいる、近くにいる人は――。
「――」
(!……なんで)
その人の名を呼びたかった。なのに、声が出ない。
(……どうして、行ってしまったんだ)
僕を置いて、どうして……?
彼女に問いかけたかった。
(寂しかった……君に、会いたかった)
訴えかけたいと、何度か声を発しようとするのに、どうしても声が出せない。
「……痛いの?」
優しい声が、アレクシスの心を揺さぶって切なくさせると、感情がごちゃ混ぜになって、積もり積もった想いが溢れて止まらなくなる。
(そうだよ……痛くて、苦しくて……君が恋しかった)
ミラの手の温もりが、愛しくて仕方ない。
このまま、彼女に縋りついてしまいたかった。
それなのに、体が痛くて、動かなくて、声も出せなくてもどかしい。
せっかく、彼女が触れてくれているのに、自分はそれを許されない。
手を伸ばせばすぐに届くところにいるのに、自分だけが触れない。
ぶつけようのない感情が溢れて、止まらなかった。
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