魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第7話 大英雄、傷心する

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 ナツの依頼でタソガレグマを倒した午後、俺は1人、とぼとぼと飲み屋に向かっていた。

 人口約300人のカサマド町は、サラダ村から少し歩いたところにある。村で手に入らない日用品は、ここに来れば大概は手に入る。

 到着したのは夕方過ぎ。煉瓦れんが造りの建物が夕焼けに照らされていて、石畳の大通りは人で賑わっていた。

 カサマド町には冒険者も多く立ち寄る。ここから南にある港湾都市に向かう前の宿場町として、多くの人が利用するからだ。

 『異端の王』が倒されて以降は人の行き来もますます活発になっている。

「おぉ、大英雄さん久しぶり!  どうだい、可愛い女の子そろってるよ!」

「あー、良いや。帰るのが遅くなると悪いし」

「そうかい、気が変わったら、いつでも来てくれよな!」

 下品なジェスチャーをする客引きに、手を振って別れを告げる。中心部から少し離れた路地に入ると、小規模だが繁華街の様相を見せ始める。 

 1番多いのは酒場で、その次はさっきみたいな色街もポツポツと区画を占拠し始めていた。

「確かこの辺だったような」

 入り組んだ路地を右に曲がる。
新しい建物が次々とオープンするなか、パトレシアの妹のリタも半年ほど前に酒場を開いた。

 陽の当たらない薄暗い路地を、ゆらゆらと揺れるあかりを頼りに歩いていく。目的地の酒場は路地の奥まったところにぽつんと建っていた。

 引き戸を開けると、長い黒髪をバンダナで巻いた若い女店主が、元気よく声をかけてきた。

「いらっしゃーい。おっ、アンクじゃん」

「久しぶりだな、リタ。景気が良さそうで、何よりだ」

「おかげさまでね。あれ、今日は1人? レイナちゃんは?」

「レイナはちょっと都合が悪いみたいだ。だから今日は軽く済ませて、早めに帰るよ」

「そっかー、残念」

 リタに促されて、カウンターの隅に座る。オープンから半年も経っていないにも関わらず、店内は客で混雑していた。厨房に入ったリタは手際よく、フライパンを動かしていた。

「なんか食べたいものとかある?」

「ないかな。リタに任せるよ」

「はいよー」

 そう言って、リタはグラスを運んできてきた。
 グラスにはなみなみと泡立つ金色のビールが注がれていた。発酵の技術が発達しているこの国では、香りの強い濃いビールが特徴だ。最初は苦味が強く感じたが、慣れるとこれより旨いものはない。

「はぁ……」

 仕事を終えた一杯。
 普段なら、至福の時であることは間違いなかった。今日の俺の頭を悩ませていたのは、何を隠そうメイドのレイナのことだ。


 …………。


「触らないください」

 今日のレイナは一段と冷たかった。
 朝ごはんを食べた後でレイナと一緒に家の掃除をしようとしたが、取り付くしまもなく断られてしまった。

「掃除は私がやりますから、大丈夫です」

 彼女は冷ややかな口調で俺を追い払おうとした。
 掃除は2人の仕事だと言うと、ほうきを持った俺にレイナは少し困ったような顔をして言った。

「では、ご勝手に」

 レイナは俺に背を向けてモップをかけ始めた。粛々しゅくしゅくと淡々と。まるで俺がいないかのように作業をしている。お互いに何か声をかけるでもなく、掃除は進行していった。
 
 気まずい空気の中で俺は、レイナがはめている白い手袋に視線を送った。最近になって付け始めた手袋で、腕まで覆うアームカバーになっている。

 触らないでください……とはどういう意味だったのだろう。

「それ、いつ買ったの?」

「それ、とは?」

「手袋っていうか、アームカバーだよ。前までそんなもの付けていなかったじゃないか」

「あ……」

 掃除の手を止めて、レイナは改めて自分のアームカバーを見た。

「最近です。自分で買いました。似合わないですか?」

「そう言うわけじゃないけど、暑くないのかなぁ……と」

 夏の季節は終わったとは言え、まだまだ外は暑い。冷房設備もろくに整っていない俺の家は蒸し暑かった。そんな中でわざわざアームカバーを付け始めるのは、どうにも納得いかない。

「暑くありません。むしろ寒いくらいです」

「寒い……?」
 
「はい」
 
 おかしい。あからさまに何か隠している。
 悩んでいる俺を不審に思ったのか、レイナは俺とアームカバーの間で視線を行ったり来たりさせたあとで、再び口を開いた。
 
「まだ、なにか?」

「いや……何も……」

 なんと突っ込んで良いのか分からない。結局、俺が折れることになった。
 再び掃除を再開したレイナは、それ以上俺と視線を合わせることもなく、モップをかけ終えて2階の寝室へと上がっていった。

「なにか……なにか隠している」
 
 あるいは何か気に触るようなことをしたのだろうか。知らないうちに嫌われるようなことをしたのかもしれない。

 だが、思い当たる節はない。
 ちらっと様子を見ると、レイナは黙々とシーツを回収してたたみ始めていた。

「ひょっとして匂い……匂いとか」

 自分の服の匂いをいでみるが、そんなことはない。
 この世界での俺の年齢はまだ20代だ。加齢臭が出るには早過ぎるし、毎日ちゃんと風呂にも入っている。強いて言うなら、無精髭ぶしょうひげが生え始めているくらいだ。

「ヒゲをってみるか」

 清潔感が問題なのかもしれない。
 黒々と生えているヒゲは、少しボサボサとした印象を与えている。たわしのように生えているヒゲを、カミソリを使って切っていく。

 鏡を見ながら、つるつるとした肌を撫でる。清潔感が出た。これなら良いかもしれない。意気揚々いきようようとリビングへ戻る。

「どうだ、レイナ」

「どうだ……とは?」

「ヒゲをってみたんだけど」

「……??」

 首をかしげたあと、レイナは「そうですか」と言って、再びシーツをたたみ始めた。俺に興味を示さない。そっけない感じは変わらないままだ。
 
「もっと……こう、なにか」

 なんだ、この虚しさは。
 いや、ちょっと前だってそんな明るい娘ではなかったが、もう少しマシな反応をしてくれた。
 
 ……どうして、最近のレイナはあんなに冷たいのだろうか。
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