魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

文字の大きさ
45 / 220

第40話 大英雄、カルカットを歩く

しおりを挟む
「良い匂いがするな……」

 ナツが進んでいった通りは、食べ物の取引が多く行われる場所だった。
 食糧品店やレストラン、酒場などが多く並んでいる。果物の甘ったるい匂いから、何かを調理する香ばしい匂いが胃袋を刺激する。

 窓の向こう側に見える人々は、美味しそうな料理を食べて、見るからに幸せそうにしていた。

「うまそう……」

 キョロキョロと辺りを見回していたサティも、よだれをらしながら飢えた獣のような視線を向けていた。ナツはおかしそうに笑って、少し離れた路地を指差した。

「お腹空くよねー、大丈夫、もうすぐ着くから」

「へぇ、オシャレな店だな。こんなところに卵をおろしているのか」

「うん、お父さんの時からの付き合いで、うちの卵を定期的に仕入れてくれるの」

 ナツが指差したのは、赤、白、黄と原色の看板で彩られたポップな店構えのレストランだった。「イエローダイニング」と書かれたその店は、お昼を過ぎたにも関わらず、たくさんの人たちで混み合っていた。相当な人気店だ。

「ちょっと遅れちゃったけど、大丈夫かなー。おーい、ベネディおじさーん」

 路地から裏口の方に回り込んで、コンコンとノックすると、コック帽をかぶった人の良さそうなシェフが出てきた。タヌキのように丸々としたお腹を出している。

 ベネディと呼ばれたその人はナツの顔を見ると、にこやかに微笑んだ。

「あぁ、ナツちゃん。遅かったから心配したよー」

「ごめんなさい、ちょっとトラブっちゃって」

「良いよ、良いよ。ディナーの時間には全然まだだし……おや、そちらの方は……」

 ベネディは俺に視線を向けると、目を細めた。

「アンクです。ナツがいつもお世話になっています」

「……だ、大英雄さま?」

 そう言うと、彼は慌てて姿勢を正して敬礼した。
 美しい直立姿勢のまま、さっきまでとは打って変わってベネディは張りのある声で言った。

「こ、これは大変、失礼しました! お勤めご苦労さまです!」

「いや、こちらこそ……今日は単なる付き添いなんで、そんなにかしこまらなくても……」

「そうなの、慌てなくても良いよ、ベネディおじさん。アンクは私の幼馴染で、今日は一緒に買い物に来ただけ」

「そうでしたか……つい……」

 ベネディは緊張した様子で、ハンカチで汗を拭いていた。その様子を見て、サティがツンツンと俺の肩を叩いてささやいた。

「君も随分と名が売れているみたいじゃないか。国が配っていた君の肖像画しょうぞうがが似ても似つかなかったから、少し心配していたんだよ」

「あれか……本当に良い迷惑だった」

「まるで少女漫画のヒーローみたいだったね」

 サティがからかうのも無理はない。
 王国に女神討伐の功労者として、肖像画を描いてもらったのだが、それのイケメン度が10割増されていた。血色は良く、目もパッチリと開き、不健康そうなクマも省かれている。あらゆる顔の特徴を浄化されて、肖像画の中の「俺」はもはや別人と化している。

 そのお陰で街を歩いていても、声をかけられることは少ない。だが、このベネディという人は俺の顔を見ただけで、気がついたようだった。

 その理由を彼は変わらず緊張した様子で話し始めた。

「実は私、かつて私設兵としてイザーブまで援軍に行ったのです。そこで大英雄さまたちをお見かけして……」

「そうか……あの時に」

「はい、あなたたちはまるで鬼神のようでした。強靭きょうじんな魔物たちを相手に一歩も退かず……あの魔物災害を終わらせてくれたことの感謝の念しかありません。1度会ってお礼を言いたかったのですが、まさかこんなところで会えるなんて……」

 帽子を取って、深々と頭を下げたベネディは、俺たちを店の中に招いてくれた。

「私が今こうして生きて、菓子屋なぞやっていられるのも大英雄さまのおかげです、良かったら何か食べていってください。もちろんお代はいただきません」

「良いんですか?」

「はい、もちろんです。ちょうど予約のキャンセルが入ったものですから」

「ベネディおじさんの作るプディングは絶品なんだよー、私も食べるのは久しぶりかなー」

「プディング……」

 俺の後ろでサティが、ゴクリと唾を飲み込む。
 店内にふんわりと香るバターと砂糖の甘い匂いに抗えなかったのか、サティは「行こう行こう」と言って俺たちの背中を押した。

 店の隅っこに座ると、綺麗な中の様子を見渡すことが出来た。
 店内は比較的裕福そうな人や、流行りのファッションに身を包んだ若者たちがほとんどだった。

「プディングとは」「あれもうまそう……」「なんだあれは」「良い匂い」「あれも……」「うまそう」「うま……」「そう」「はやく」「たべた」「い」

 甘味はほとんど口にしたことが無いと言ったサティは、他の客が食べている料理を見て語彙を喪失そうしつしてしまっていた。

 色とりどりに輝く料理と、それを食べながら幸せそうに語り合う人々。これらの光景もまた『異端の王』を倒して、ようやく戻ってきたものだった。

「そうだよ。こうやって、プディングが食べられるのもアンクのおかげだね」

 ナツはそう言って微笑んだが、俺は何も言い返さずに首を横に振った。否定しようと言葉にしようとしたが、幸せそうに笑う彼女には言えなかった。

 ……救えなかったものもたくさんある。手のひらからこぼれ落ちてしまったものは、数え切れないほどに。

 俺たちの今を支えているのは、無数のしかばねだ。
 彼らの悲しみの上で俺たちは幸福だと言っている。そう考えると、どうしても悔やまずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...