90 / 220
第78話 名前の由来
しおりを挟む激しいやり取りで顔につたローションをタオルで拭き取る。
立ち上る魔力を抑えきったところで、パトレシアがふぅと息を吐いた。彼女に真実を伝えると、驚愕して叫んだ。
「嘘!? 嘘なの!? その『ナース服姿の女の子と看病ごっこをしながら密着していないと死んじゃう病気』って!?」
「デジャブやめて」
パトレシアもナツと全く同じことを吹き込まれて、同じように信じていたようだった。
「おまえ、そんなに騙されやすい性格だったか……」
「騙されやすくないわよ。でも、やっぱり好きな人のこととなると、動転しちゃったみたいね」
「……お前ももしかして高い壺とか買ってないか?」
「ツボ? あ、3個持ってるよ。想い人と必ず結ばれるって言うから、3個セットでお買い得だった」
「それ効果あったのか?」
「今、結ばれた」
何も言えねぇ。
「そもそも俺がナース服をチョイスするのもおかしいだろ」
「あ、そうか、それもそうだった。アンクはメイド服好きだもんね」
ポンと手を打って、パトレシアはあっさりと納得した。この共通認識があるというのも、どうもおかしい気がするが。
パトレシアは乱れた服を直すと、今度はほっとしたように息をついた。
「……でも良かった。アンクが大変なことになっていなくて」
「あぁ、魔物に襲われた訳でもないし、ナンパに失敗して頭を打ち付けたんでもない」
「それで、本当のところはどうしたの? わざわざシュワラの病院に泊まって。それなりの事情があるんでしょう?」
「あぁ、実はそれが……」
パトレシアにレイナが居なくなったことを説明する。どこか行き先に心当たりがないか聞いたが、彼女も当然のように何も知らなかった。
「うーん、分からないな。最近は少し浮かなげな顔はしていたけど、私と話すときは相変わらずだったし、どこかに行くとかは何も聞いていないよ」
「だろうな……」
「それにしても『異端の王』が生きていたって言うのは、本当なの? しかもそれがレイナちゃんの弟だったなんて」
「生きていたかどうかは別にして、弟っていうのは本当らしい。倒したはずの『異端の王』はレイナの弟だった」
「そっか……じゃあレイナちゃんも辛かっただろうね」
パトレシアは下を向きながら、言葉を続けた。
「私もリタがいるから……もし、レイナちゃんと同じ立場にいたら、私だったらすごい辛いと思う。だって彼女は実の弟を手にかけなくちゃいけなかったんでしょ。私だったら、それはすごく悲しい」
「そう……だよな」
あぁ、俺はそのことにも気がつくべきだった。
レイナは、あの山の中で自分の弟を殺すことと、世界を救うこと、そんな残酷な選択を迫られていた。
心を抉られるような天秤の果てに、彼女はどちらを選んだのだろうか。
「俺だったら選べないな……」
「それが普通だと思う」
「でもレイナはどちらかを選んだ。あいつは強い。俺は……そんなことにも気がつかなかった。情けないし、無責任だな」
「……そんなことないよ」
パトレシアはニコッと笑って、俺の腕をつかんだ。
「無責任で良いんだよ。選べないことは選べない。それが普通の人だと思うし、そういうところがアンクの良いところでもあるんだよ」
「俺の良いところ?」
「そう。世界を救ったからと言って、アンクはほとんど誰にも言わなかったじゃない? 普通なら吹聴するはずなのに、あなたはさして自慢もせずに、国からもらったお金もほとんどサラダ村の復興資金に回してくれた」
「そりゃあそうだろう。俺の故郷なんだから」
「うん、私はそれが嬉しいの。私の知っているアンクのままでいてくれて、とても幸せ」
パトレシアはそう言って、俺の頭を優しく撫でてきた。石鹸をたっぷり浴びたあとの彼女の身体は、爽やかな良い匂いがした。ヒマワリの咲く野原に立っているようで、気のせいか、元気が出てきた。
「そうだ、パトレシア、子供さらいって知っているか?」
「子どもさらい? うーん知らないなぁ……聞いたことがない」
「昔、イザーブに出没していたらしいんだが、聞き覚えがないかと思ってな」
「……孤児たちの間だけで噂になっていたのなら、私は分からないかも。そういう都市伝説の類なら、沢山あったけど。私が大人になってから、子どもさらいなんて奴は聞かなかったわ」
「そうか……ありがとう」
情報を得られなかったことは残念だが、パトレシアが知らないならば、子どもさらいはもう存在していないことは分かった。やはりあの時期のイザーブだけに存在していていた何かであることは間違いなさそうだ。
何か他の角度から情報を集められれば良いんだが。
「ねぇ、役に立つかは分からないけれど、どうして『異端の王』っていう名前になったのかは知っている?」
パトレシアはタオルで自分の髪を拭きながら、そんな質問をした。
「名前の由来? いいや。俺も女神……じゃない神託で聞いただけだから、良く知らない」
「そうなんだ。私たちも大本山からのお触れで今回の騒動の発端が『異端の王』だってことしか知らなかったから」
「本山の神託でも名前の由来までは言っていなかったよな」
「でも、不思議だなぁと思って。だって彼は国も持っていたわけではないのに『王』と名付けられている。従えていたのは魔物だけなのに、『異端の王』なんだよ。それなら普通『魔物の王』とか『魔王』って名前になるじゃない?」
「……言われてみればそうだ」
その件で名付け親がいるとしたら、サティだ。
あいつが『異端の王』と名付けて、女神の神託として大本山に流した。それをお触れとして頒布したから、『異端の王』としてプルシャマナに広まった。
なぜ彼女がそんな名前を名付けたのか、理由は聞いたことが無い。
「それでね、私、少し調べてみたの」
パトレシアは胸の隙間から、紙を取り出すとペンで綺麗な五芒星を描いて見せた。この世界で知らない人はいない有名なマークで、それはプルシャマナの魔力5大元素を表していた。
「異端とはつまり異なるもの、端にいるもの。私の認識から離れた人間を指して『異端』と言っていたのよ」
五芒星から離れた場所を指差して、パトレシアは話を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる