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【共犯者たちのまどろみ(No.15)】
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ヒビが入った音がした。
「あ……」
上空を見上げると、青い空にまっすぐな亀裂が入っていた。
「レイナちゃん、忘れ物だよ」
茶色い髪の少女が、亀裂を見上げていた私の横に腰掛けた。彼女はアンクからもらった髪留めを持っていた。
「もしかして、わざと?」
私に向かっていたずらっぽく微笑んだ彼女の名前を思い出す。かつてナツと呼ばれていた女の子だ。
「わざとではありません。つい、うっかりしていたみたいです」
「……もう、レイナちゃんは嘘が下手だなぁ。はい、しっかり回収してきたよ」
「ありがとうございます」
手のひらに置かれた髪留めを握りしめて、私はゆっくりと目を開けた。久しぶりに見る外の景色は、変わらないまま、白い霧に包まれていた。雲の上に来たような浮遊感があって、少し眠気がやってきた。
神の座。
かつてサティ・プルシャマナの本体が存在していたこの空間は、サティ・プルシャマナが眠りについたことにより、緩慢な崩壊が始まっていた。
柱の幾つかにはヒビが入り、時折ポロポロと雪のように破片が落ちてくる。ステンドグラスには割れ、壁と天井には大きな穴が空いていた。外の景色は室内のどこにいても、否応無く目に飛び込んでくる。
「ねぇ、これで本当に良いの?」
私を挟むようにして、もう1人の人間が腰掛ける。鮮やかな金髪をくるくるとカールさせた彼女。かつてパトレシアと呼ばれていた女の子だ。
「レイナちゃんこそ後悔していない?」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「みんなの記憶から消えたままで良いのかなって。本当は髪留めだって、ちょっと思い出してもらいたくて置いていったんじゃないの?」
パトレシアの言葉に「それは単なる見落としです」と答える。
「私の気持ちは以前、お話した通りです。女神に最初の魔法が看破された時点で、攪亂輪天具足を発動することでしか、アンクさまを助けることは出来ませんでした」
「そりゃあ、そうなんだけどさぁ……」
悩ましげに「うーん」と言いながら、パトリシアは口を尖らせた。
「もう後戻りは出来ない。これだけは確かです」
攪亂輪天具足の発動はまだ達成されていなかった。新しい次元を発動するためには、女神サティの完全封印が不可欠だ。
それがまだ出来ていない。
全力の魔力を注いで、催眠をかけ続けていたが、サティはなかなか眠りについてくれなかった。
「サティちゃんがまだ抵抗しているってことだね」
「はい、瞑世の魔法自体の基盤が危うくなっています。予断を許さないというのが本音なのです」
単なる記憶の改ざんとは違う。私たちがやろうとしていることは世界の創造だった。神の座に来てみて分かったが、この魔法に重要になってくるのは整合性だ。
ナツが空の景色に入った裂け目を見て言った。
「さっきのはちょっと危なかったね」
「なんとか……。ヒビは完全に修復しておきましたから」
「私たちが人間であったっていう事実を消さないと、新たな女神として君臨できないだっけ?」
「はい、それが攪亂輪天具足の発動条件です。人間であったものは神であってはならない。これはかなり強固なルールのようです。ですから、前の女神もサティと名前を変えて生活していたのでしょう」
「面倒な魔法だね」
「新たな次元を敷くのですから当然です。新たに作る世界は、より強固な整合性を保っていなければ、魔法として成り立ちません……から」
言葉の途中で意識が遠くなる。魔力炉に強い痛みが走る。
「レイナちゃん?」
「女神の力が入り込んできたようです。少し……頭が」
サティが持っている力を彼女を眠らせながら、なんとか奪っていく。
新しい世界の女神となるために、サティの魔力の全てを取り込むことは必須だった。あの力がなければ、瞑世の魔法を保てない。
サティの力を取り込む過程は苦痛でしかなかった。
彼女の力は膨大で、自分の魔力炉が激しく軋む。取り込むごとに身体の皮が剥がれていくような痛みを感じていた。
しばらくすると、人間という身体から離れて、世界の一部になっていく不思議な感覚が身体を包み始める。
「もう……大丈夫です。この兆候は良い方向に進んでいるという証拠ですから……サティを取り込むまでにはもうそこまで時間はかかりません」
それを聞いたパトレシアは残念そうにため息をついた。
「私たちがこうやって話せるのも、それまでってことか」
「実際どうなるのかはなってみなければ分かりませんが、この身体は必要なくなるのだと思います。私たちは人間でなく、本物の女神になるのですから」
「レイナちゃん、かわいい声しているのに勿体ない」
「……それも必要ないものです」
「レイナちゃん、綺麗な身体してるのに」
「それも……もう、必要無いものです」
私が返答すると、パトレシアとナツはにやりと笑みを浮かべた。そして私の手を握ると、ほのかに魔力を立ち上らせた。
途端に身体中をまさぐられるような感覚が襲った。魔力の波にくすぐられて、ぞわぞわと鳥肌が立った。
「ひゃあっ! な、なにするんですか!?」
「えー、だって暇だし」
「わ、わたしは今集中しているんですよ!」
「まぁ、そんなこと言わずに。ほら、アンクの手を再現してみようか」
「きゃああっ……!」
服の内側でうねうねと魔力が変化する。人の手のような形になったそれは、胸のところを撫でるように滑っていく。
「ほれほれ」
「や……ぁ!」
声をあげる私に、2人はますます調子にのって攻勢を強めてきた。身体をぴったりとくっつけて、ギュウっと抱き寄せてきた。
「かわいい。もっといじめちゃおう」
「良いね」
ナツとパトレシアはにやりと笑って、さらに私の身体に触れてきた。
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