魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

文字の大きさ
203 / 220

第168話 くらやみの住人

しおりを挟む
 俺の隣に座った女に問いかける。
 かつて『子供さらい』として、無垢むくな人間を殺戮さつりくしてきたラサラという女の隣に腰を下ろす。

「どうして……お前がこんなところにいるんだ?」

「さぁ、どうしてでしょうね。全てのことに理由はあるはずなのですが、私にもさっぱり分かりません」

「……悪いけれど、俺は急いでいるんだ。早くこの森を抜けて、あいつのところに行かなきゃいけないんだ」

「森? そうですか、あなたにはこの場所が森に見えているのですか」

「お前、一体何を言って……」

 そう言われて、自分の周囲に起きた異変に気がつく。
 さっきまで踏みしめていた地面とは様子が違う。肌を突き刺す風もやんでいる。異常なまでの静寂があたりを包んでいた。

「……ここはどこだ?」

「さぁ、分かりません。全ての空間には名前が付けられているはずですが、私にはさっぱり見当がつきません」

「頼むから教えてくれよ。問答をしている場合じゃないんだ。俺は急いでいる」

「知りませんと言ったら知りませんよ」

 釈然しゃくぜんとしない。
 これは夢か? 俺はまた意識を失ったのか?

「意識ならあるじゃないですか。そこに。少し自分で考えてみれば良いんですよ」

「……そうか、じゃあ勝手にやる」

「はい、お好きにどうぞ」

 回りくどい返答ばかりで、ラサラは何の手がかりも渡そうとしなかった。
 何かに寄りかかったまま、ぼんやりとした返答をするラサラに背を向けて、奇妙な空間を歩き始める。

 索敵サーチを使いながら歩いているが、不思議と障害物と言ったものはなかった。森の中を歩いていたはずなのに、草木の影すら見当たらない。

 前方にようやく障害物が見えたと思って、ホッとすると、それはたたずんていたラサラだった。

 同じ場所に戻ってきている?
 俺が感知したさっきと寸分違わない場所だった。

「…………もしかして、催眠魔法とか使っていないよな?」

「使っていませんよ」

「じゃあどうなっているんだ」

「知りません」

「……くそっ」

 今度は来た方向を索敵サーチしながら進んでいく。
 歩いてきた方向に向かっていく。障害物のない道を早足で進んでいくと、やはりそこにはラサラの気配があった。

 同じ場所をぐるぐると回っている。

「なんだこれはコントか!?」

「何をイライラしていらっしゃるのですか。はい、ホットミルクでもいかがですか」

「いらねー!」

 やけっぱちになって、いろいろな方向に走ってみる。左に言って右に言って、回れ右して、斜めに走る。目が回るような工程を繰り返したあとでも、結局もとの場所に戻ってきている。

 やることなすことが徒労とろうに終わる。

「ぜぇぜぇ……」

「こればっかりはこの空間の仕様みたいですね。1度冷静になってみたらどうですか」

「……急がなきゃ……いけないんだ」

「頭を柔らかくして考えてみれば良いのです。空間が回っているのならば、時間もまた循環していると、前向きに考えましょう」

「時間が回っている……それは本当か?」

「さぁ、本当かどうかはあなたが決めることです」

 さっきから会話が要領を得ない。
 1度冷静にならなければ。自分に言い聞かせるように頬を叩いて、頭を冷やす。

 このムードに飲み込まれてしまっては、本当に立ち行かなくなってしまう。

「ホットミルク飲みます?」

「よし、飲む」
 
 今の俺には刺激が必要だ。

 ラサラが差し出してきたホットミルクは、いつか地下祭壇で飲んだものと寸分たがわぬ味だった。どういう訳かは知らないが、ほのかに暖かく飲みやすい温度になっていた。

「私が知っている心を落ち着かせる飲料はこれしかないですから。何度飲んでも、飽きない味で本当に重宝しています。この場所に来てからこのホットミルクを34951回飲みました」

「気が狂いそうだな。お前はいつここに来たんだ? 『死者の檻パーターラ』が解けて、死んだんじゃないのか」

「そうですね。私は死にました」

「ひょっとして俺も死んだのか?」

「知りません。思えば、死んだわたしが、あなたと一緒にいるというのは、ずいぶんと不思議なことですね」

 答えになっていない。

「……なぁ、他には誰かいるのか」

「さぁ……少なくとも私がホットミルクを分け与えたのはこれが初めてです」

 だとしたら状況は最悪だ。
 誰もいないし、助けを呼ぶこともできない。かなりまずい。ラサラは積極的に協力する気はない。

 唯一の救いがあるとしたら、ホットミルクがそこそこ美味しいことくらいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...