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第1章:王家、国を出る
第2話:『王家全員、玉座を降ります』
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母さんが放った言葉は、俺や家族の想像を遥かに超えるものだった。
「……いっそのこと、私たちが王家を辞めて、権力を手放してしまえばいいんじゃないかしら。そうすれば、何の問題もなく私たちはシイラと一緒に王宮を出て、自由に暮らせるでしょう?」
「……え?」
耳を疑った。
その声音は普段と変わらず穏やかで、声量も大きくなかった。だがその場にいた全員の頭と心にありありと届いた。
俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。冗談だと思った。だが、母さんの瞳は曇りなく真剣で、その一言が決して戯言でないことを告げていた。
周りを見渡せば、父さんもイリスも、弟のレイも妹のヒラも、皆が目を輝かせていた。
「その手があったか」と言わんばかりに、今すぐにでも王位と特権を捨てて俺について来そうな勢いなほどだ。。
「お、おい……。王が居なくなったらこの国はどうするんだよ。王家ともあろう者が、無責任なことを言うなよ……!」
俺は必死に反論した。
だが、心の奥底では……正直嬉しかった。
血の繋がらない俺のために、ここまで考えて、付いて来てくれようとするなんて。
「この家族の中に俺は確かに居るんだ」と、胸が熱くなるのを止められなかった。
そう考えていた時、父さんが静かに言葉を重ねる。
「その点は問題ない。もうハイルに話は通してある」
「……っ! まさか……!」
嫌な予感が背筋を走る。
国王陛下の弟であり、俺の叔父でもあるハイル。
民からの信頼も国王陛下ほどではないが、相当に厚い人物だ。
父さんは淡々と告げた。
「おそらくシイラが思っている通りだ。王位は弟のハイルに任せることにした。すでに王国に報じられている」
「……っ!」
頭が真っ白になった。
もう既成事実なのか。母さんの口から出なくても、父さんは俺が出ていくまでに、この話をするつもりだったのだろう。
父さんは自ら築いた王座を、あまりにもあっさりと手放そうとしていた。だが、ただこの国を捨てようとしているわけではない。
「じゃあ……僕たちも兄上と一緒に暮らせるの?」
赤く腫れた目元のレイとヒラが、小走りで駆け寄ってきた。無邪気な瞳をこちらに向けて、期待を込めて問いかける。
「ああ……これからもずっと一緒だよ」
俺がそう答えると、2人は「やったー!」と跳ねて喜んだ。
だが街に出れば、王宮とは比べ物にならない危険が待ち受ける。
……それでも、俺は。
俺は誓った。
命を懸けても、この笑顔を守り抜くと。
王宮を捨ててまで俺について来てくれる家族を、絶対に守ると。
その夜。
天井を見上げ、目を閉じながら「これが王宮で過ごす最後の夜だ」と静かに噛みしめた。
◇◇◇
翌朝、俺たちは使用人たちと別れを告げた。
長年仕えてくれた執事やメイドには心から感謝している。幸い、叔父である新国王ハイルが彼らを引き取ってくれることになったため、みんなが俺らのせいで職を失ってしまうことは無くなった。
彼らも涙ながらに見送ってくれたが、俺や家族を思ってくれていると思うと、涙が出できそうになった俺は言葉を返すことができなかった。ただ、深く頭を下げることしか。
そうして馬車に乗り込み、ランフォール王国を後にする。向かう先は隣国ガルティア王国。片道3日、長い旅路だ。
馬車に揺られる道中、俺はレイとヒラに文字や算術を教えたり、夜には家族で焚き火を囲んで語り合ったりした。
王宮では味わえなかった、ささやかだが温かい日々。
「家族と一緒に生きる」と決めたことで、見える景色はどれも新鮮で、美しく思えた。
だが、2日目の夜──
◇◇◇
焚き火に使う薪を取りに行っていた俺の耳に、鋭い悲鳴が突き刺さった。
「キャァァァァッ!」
──ヒラだ!
反射的に薪を捨て、地面を蹴った。
爆発するように地を踏み込み、常人の目では追えない速度で家族の元へと駆け戻る。
目に飛び込んできた光景に、息が詰まった。
父さんが震える手で、刃こぼれだらけの剣を握りしめていた。
その剣先が向けられたのは、背丈の三倍はあろうかという、巨大な影。
月明かりに照らされ、その姿が露わになる。
全身を鎧のように覆う黒毛。血走った目。鋭い牙。
大地を踏みしめるたびに震える大質量。
「こいつは……魔獣か……っ!」
魔王が居なくなった今、魔獣の被害は少なくなったていたから油断した……!
父さんは足を震わせながらも、剣を構えていた。狙いも定まらず、腕もおぼつかない。
それでも立ちはだかるのは……その背後に震える家族を守るため。
そうだ。
この姿があったからこそ、父さんは民に慕われ、王として頂点に立ち続けられたのだ。
「ただ……俺は誓ったんだ!」
俺は腰の剣を抜き放つ。
心臓が爆ぜるほどの鼓動を胸に響かせながら、全身に力を込めた。
「何があっても、この家族を守り抜くと! 俺の家族には……指一本触れさせないッ!」
地面をありったけの力を足にこめ、蹴る。轟音が鳴り、大地が裂けた。
迫りくる巨体に、ただ一直線に斬撃を叩き込む。
刹那。
視界を覆った巨体が、あまりにも容易く両断される。
「……ッ!」
月光の下、魔獣は呻き声を上げる暇もなく、頭と胴が切り離され、その場に崩れ落ちた。
ただ、誰も知らなかった。
シイラも含めて。
Sランク討伐対象である、《エンペラーボア》を、
シイラが一刀のもとに葬り去ったことを──────
「……いっそのこと、私たちが王家を辞めて、権力を手放してしまえばいいんじゃないかしら。そうすれば、何の問題もなく私たちはシイラと一緒に王宮を出て、自由に暮らせるでしょう?」
「……え?」
耳を疑った。
その声音は普段と変わらず穏やかで、声量も大きくなかった。だがその場にいた全員の頭と心にありありと届いた。
俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。冗談だと思った。だが、母さんの瞳は曇りなく真剣で、その一言が決して戯言でないことを告げていた。
周りを見渡せば、父さんもイリスも、弟のレイも妹のヒラも、皆が目を輝かせていた。
「その手があったか」と言わんばかりに、今すぐにでも王位と特権を捨てて俺について来そうな勢いなほどだ。。
「お、おい……。王が居なくなったらこの国はどうするんだよ。王家ともあろう者が、無責任なことを言うなよ……!」
俺は必死に反論した。
だが、心の奥底では……正直嬉しかった。
血の繋がらない俺のために、ここまで考えて、付いて来てくれようとするなんて。
「この家族の中に俺は確かに居るんだ」と、胸が熱くなるのを止められなかった。
そう考えていた時、父さんが静かに言葉を重ねる。
「その点は問題ない。もうハイルに話は通してある」
「……っ! まさか……!」
嫌な予感が背筋を走る。
国王陛下の弟であり、俺の叔父でもあるハイル。
民からの信頼も国王陛下ほどではないが、相当に厚い人物だ。
父さんは淡々と告げた。
「おそらくシイラが思っている通りだ。王位は弟のハイルに任せることにした。すでに王国に報じられている」
「……っ!」
頭が真っ白になった。
もう既成事実なのか。母さんの口から出なくても、父さんは俺が出ていくまでに、この話をするつもりだったのだろう。
父さんは自ら築いた王座を、あまりにもあっさりと手放そうとしていた。だが、ただこの国を捨てようとしているわけではない。
「じゃあ……僕たちも兄上と一緒に暮らせるの?」
赤く腫れた目元のレイとヒラが、小走りで駆け寄ってきた。無邪気な瞳をこちらに向けて、期待を込めて問いかける。
「ああ……これからもずっと一緒だよ」
俺がそう答えると、2人は「やったー!」と跳ねて喜んだ。
だが街に出れば、王宮とは比べ物にならない危険が待ち受ける。
……それでも、俺は。
俺は誓った。
命を懸けても、この笑顔を守り抜くと。
王宮を捨ててまで俺について来てくれる家族を、絶対に守ると。
その夜。
天井を見上げ、目を閉じながら「これが王宮で過ごす最後の夜だ」と静かに噛みしめた。
◇◇◇
翌朝、俺たちは使用人たちと別れを告げた。
長年仕えてくれた執事やメイドには心から感謝している。幸い、叔父である新国王ハイルが彼らを引き取ってくれることになったため、みんなが俺らのせいで職を失ってしまうことは無くなった。
彼らも涙ながらに見送ってくれたが、俺や家族を思ってくれていると思うと、涙が出できそうになった俺は言葉を返すことができなかった。ただ、深く頭を下げることしか。
そうして馬車に乗り込み、ランフォール王国を後にする。向かう先は隣国ガルティア王国。片道3日、長い旅路だ。
馬車に揺られる道中、俺はレイとヒラに文字や算術を教えたり、夜には家族で焚き火を囲んで語り合ったりした。
王宮では味わえなかった、ささやかだが温かい日々。
「家族と一緒に生きる」と決めたことで、見える景色はどれも新鮮で、美しく思えた。
だが、2日目の夜──
◇◇◇
焚き火に使う薪を取りに行っていた俺の耳に、鋭い悲鳴が突き刺さった。
「キャァァァァッ!」
──ヒラだ!
反射的に薪を捨て、地面を蹴った。
爆発するように地を踏み込み、常人の目では追えない速度で家族の元へと駆け戻る。
目に飛び込んできた光景に、息が詰まった。
父さんが震える手で、刃こぼれだらけの剣を握りしめていた。
その剣先が向けられたのは、背丈の三倍はあろうかという、巨大な影。
月明かりに照らされ、その姿が露わになる。
全身を鎧のように覆う黒毛。血走った目。鋭い牙。
大地を踏みしめるたびに震える大質量。
「こいつは……魔獣か……っ!」
魔王が居なくなった今、魔獣の被害は少なくなったていたから油断した……!
父さんは足を震わせながらも、剣を構えていた。狙いも定まらず、腕もおぼつかない。
それでも立ちはだかるのは……その背後に震える家族を守るため。
そうだ。
この姿があったからこそ、父さんは民に慕われ、王として頂点に立ち続けられたのだ。
「ただ……俺は誓ったんだ!」
俺は腰の剣を抜き放つ。
心臓が爆ぜるほどの鼓動を胸に響かせながら、全身に力を込めた。
「何があっても、この家族を守り抜くと! 俺の家族には……指一本触れさせないッ!」
地面をありったけの力を足にこめ、蹴る。轟音が鳴り、大地が裂けた。
迫りくる巨体に、ただ一直線に斬撃を叩き込む。
刹那。
視界を覆った巨体が、あまりにも容易く両断される。
「……ッ!」
月光の下、魔獣は呻き声を上げる暇もなく、頭と胴が切り離され、その場に崩れ落ちた。
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シイラも含めて。
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