羅刹伝 雪華

こうた

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第二十八章-新たな副隊長-

第189話「部隊あいさつ(千尋編)」

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 真哉同様、騎士団の副隊長の座についた千尋。
 千尋もまた、自身が所属することになる第三霊隊の詰所を見て回っていた。
「どーも、新しい副隊長の桜庭千尋でーす」
 廊下ですれ違う隊員に声をかけてみる。
「あっ、ど、どうも。これからよろしくお願いします……! 桜庭副隊長」
「んー。階級はオレが上で、歳はそっちが上だし、ここは敬語ナシでいかない?」
「い、いえ、そのような恐れ多いことは……。自分たちなど、桜庭副隊長の実力を考えれば、ただの雑兵にすぎませんし……」
「いやー、いらない人員ならそもそも入団させないだろうし、君らだって騎士団に必要な存在じゃない? まあ、敬語は無理に使うなとは言わないけどね」
 フランクな性格で、気楽な人付き合いを好む千尋だが、同じことを他人に強要するほど自分勝手ではない。
 詰所の中を見渡してみる。
「ところで、オレの執務室ってどこだっけ? なんか聞いたよーな気もするんだけど、忘れちゃって」
「はっ。ご案内いたします」
 隊員の一人の後についていき、騎士団における自分の部屋を確認する。
「おー。やっぱ副隊長の執務室ともなると立派な作りしてんなー。デスクも広いし、ソファなんかもふかふかじゃん」
 試しに勢いよくソファに腰を下ろしてみる千尋。硬さがなく、包み込まれるような感覚だ。
 ホテルでもこんなにいい家具を揃えているとは限らないのではないだろうか。
「騎士たちが平時に英気を養えるようにというのが惟月様のご意向でしたから。自分たちの部屋も以前より整っています」
 第三霊隊の詰所は改装されており、前任の副隊長・朝霧大和はこんなに快適な部屋は使っていなかった。
「ふーん。オレ一人ぜいたくするんじゃないってのは安心だな。副隊長だからとか準霊極だからとかいってふんぞり返るのはどうかと思うし」
 千尋としては、平隊員と隊長格は役目が違うだけであって、本質的にはどちらが偉いということはないと考えている。
 もちろん、努力したから上の階級になれた者や、努力を怠って昇進できていない者もいるが、そうでない例はいくらでもあるのだ。第五霊隊で平隊員をやっている優月などはその好例といえる。
「んじゃあ、隊長んとこにも連れてってもらおうか。重光隊長の名前は聞いてるけど、まだお互いよく知らないしな」
「了解いたしました」
 隊員は、終始恭しい態度で千尋を案内した。
「自分はここで失礼いたします」
 重光の執務室前で、隊員は礼をして去っていく。
「せっかく案内してくれたんだから、三人でお茶でも飲んでってもいいじゃねーかー?」
 軽い調子で言ってみたが、もう聞こえてなさそうだ。
 とりあえず、ドアをノックしてみる。
「新任の副隊長の桜庭千尋です」
 敬語は得意でない千尋だが、さすがに相手が隊長ということもあって、多少はかしこまった口調で声をかけた。
「カギは開いている入ってくれ」
 中からは、低い男性の声が聞こえた。
「失礼しまーす」
 話に聞いた分だと、重光はやや堅苦しい人間ということだ。
 軽薄な態度を咎められないか、ちょっと心配になりながらドアを開いた。
「君が桜庭君か。惟月様が直々に推薦されたぐらいだ。頼りにさせてもらうよ」
 壮年の姿をした隊長・重光かいは椅子から立ち上がって、部下である千尋と向かい合った。
 少なくとも前任の隊長だった遊仙ゆうせん隼夫はやおのように気難しい性格ではなさそうだ。
「その惟月サマに許可もらってるんで、適当な言葉遣いでしゃべってもいいっすか?」
「ああ、構わない。変に気を使わないでもらえた方が助かる」
 堅苦しいとはいっても、自らそれを良しとしているのではないように見受けられる。もしかしたら優月と似たタイプか。
「そういえば、なんとなく詰所内の空気が重いような気がしたんすけど、騎士団ってこんなもんっすか?」
 羅仙界を守護する使命を持った組織なのだから、学生サークルとは気風が違うのも当然だが、それでももう少し明るくなってほしい気がする。
「それとも――沙菜に一度壊滅させられた隊だからっすか?」
 人羅戦争において、第三霊隊は沙菜の手によって皆殺しにされた。
 第四霊隊は女性部隊のみ壊滅。他の隊は死者がほとんどいなかった。
 それらと比べると、隊長・副隊長含め、全員が死んだ隊は不吉と思われても仕方ない。
 そもそも沙菜が第三霊隊を敵視していたのは、囚人だった真田達也――沙菜の兄貴分――を虐待し自殺に追い込んだ過去があったため。今の騎士団に罪人を裁く権限はないが、当時はそのようなこともあったのだ。
 その他にも、隊長の遊仙がサブカルチャーを排除しようとしていたこと、副隊長の大和が女性を守ろうというスタンスだったことなども理由だ。
 現在の第三霊隊は、新入隊員と他の隊から異動してきた隊員で構成されているが、沙菜に知己ちきを奪われた者は少なくない。
 巨悪から目をつけられているというのは、精神衛生上良くはないだろう。
「いや……。これは私のせいだろう。私は本来隊全体を引っ張るほどの力を持っていない」
「重光隊長が力不足だったら、隊長になれる人ほとんどいないっすよ」
「言い方が悪かったか。隊員同士の人間関係を円滑にするすべを知らないのだ。戦う能力を高めることに囚われ人付き合いをおろそかにしてきたツケではあるが……」
 この手の自虐は、やはり見覚えがある。
 優月と似たタイプなら、何が助けになるかも見えてくる。
「そういうことならオレに任せてください。こういうのはバカの方が得意だったりするんで」
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