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第二十八章-新たな副隊長-
第188話「部隊あいさつ(真哉編)」
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霊京一番街。霊神騎士団第一霊隊の修練場。
着任初日、城で久遠へのあいさつを済ませた真哉は、部下となる隊員たちの様子を見にきていた。
第一霊隊は騎士団の中でもエリートとされているだけあって、隊員は皆、真剣な表情で鍛錬をしている。
座禅のような体勢で己の魂装霊倶と向き合う者、霊気をまとった刀で素振りをしている者、霊法の構成式を記した本――法術書――を読み込んでいる者など。
「新たに就任された草薙副隊長ですね」
黒髪の青年が真哉の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「あなたは――」
「第一霊隊第三位・蘇芳伊織です」
「草薙真哉です。若輩者ではありますが、よろしくお願いいたします」
階級はこちらが上だが、相手の方がかなり年上で騎士としても先輩に当たる。真哉は深々と礼をした。
「こちらこそ。草薙副隊長の実力は聞き及んでいます。自分は、先の人羅戦争で己の不甲斐なさを痛感させられました。今は一から鍛えなおすべく修行に励んでおります」
伊織は、裏切り者で準霊極だった鳳昇太に瞬殺された。無論、伊織自身は準霊極ではない。
客観的に見ると、伊織より真哉の方が強い。
「俺もまだまだ道半ば、お互いがんばりましょう」
真哉と伊織があいさつを交わしていると、女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「何度言ったら分かるのです! 刀の握り方は、そうじゃないでしょう!」
指導役の騎士が部下を叱りつけているらしい。
叱られている男性隊員は萎縮してしまっている。
そこへ第五位の階級を持つ昇太が近づいていく。
「どうしたんです? そんな大声を出して」
「鳳さん。いえ、彼の剣の腕がいつまで経っても上達しないので」
「それは聞こえていました。僕はあなたを注意しにきたんです」
昇太は、叱られていた隊員を一瞥して彼への評価と指導役の女性への戒めを口にした。
「彼は向上心のある人です。褒められて慢心するようなことはありません。あなたの叱責は部下のやる気を削ぐだけでは?」
「しかし、あまり甘やかしては――」
「若菜先輩なんて褒める以外なにもできてませんでしたけど、僕の能力は伸びましたよ?」
昇太が入団した直後に指導役としてついたのが、第四位の東雲若菜だった。
実力を隠して入団したため、昇太は若菜よりはるかに強かった訳だが、若菜と一緒に鍛錬をしていて成長したのは事実だ。
「ですが……」
あくまで厳しい指導をしたがる女性騎士を見て、昇太は目を細めつつかすかな喜色を浮かべた。
「僕に言わせれば、あなたの指導内容には間違いが五点あります。まず、霊剣術における刀の握り方について、わざわざ決まった型を使う必要性がありません。それから対喰人種の戦闘を想定するなら霊子構成の一番目にベータ群のものを持ってくるのも良くありません。これは雷斗様の得意技と重複するため、無効化される確率が上がります。残りも全部説明しますか?」
丁寧な口調ながら容赦なく相手の非を並べ立てる昇太。
今度は女性騎士の方が萎縮することになる。
「い、いえ、私の勉強不足でした……。我が身を省みることからやり直します……」
女性騎士はすごすごと引き下がった。
やる気を取り戻した男性隊員は、昇太に尊敬の眼差しを向ける。
「ありがとうございます、鳳さん! 人羅戦争の時は裏切られて絶望しましたけど、優しいんですね!」
一介の平隊員の努力まで把握しているのは、上官として徳がある方だといえよう。
「別に優しくはありませんよ。単にあの人をやり込めたかっただけです。それにあなたのやり方は間違っていませんでしたからね」
「では自分が上達しないのは……」
「指導役との相性が悪かったせいでしょう。正しいことをしようとしているのに、いちいち間違った方向に誘導されたのでは、できることもできません。配置変えを検討しましょう」
「はっ! ありがとうございます!」
昇太からの配慮に部下も感激していたが、見ていた真哉も感心させられた。
「鳳さん。副隊長に着任した草薙です。あなたを差し置いて俺ごときが副隊長というのもおかしな話ですが」
「ああ。あなたが。見たところ準霊極のようですね。重光副隊長の後任が務まる方が現れて良かったです」
「しかしなぜ、鳳さんが副隊長ではないのでしょうか? 俺よりずっと早く準霊極に至っていたというのに」
「僕は若菜先輩の次の階級がいいのですが、先輩に副隊長は務まらないですからね」
昇太は若菜を慕っているのか慕っていないのか、よく分からないようなことを言う。
「そういうものですか」
騎士団に入ったばかりの真哉には、彼らの関係性についてどうこうは言えない。
真哉の隣にいる伊織にも目を向ける昇太。
「蘇芳さんも一緒ですか」
「鳳、貴様、部下に対するのと東雲君に対するのとで、ずいぶん態度が違わないか?」
人羅戦争前は、昇太のことも優秀な部下として目をかけていた伊織だが、雷斗に追い詰められた状況での若菜への仕打ちを見て以来、『貴様』呼ばわりするようになっている。
恋人の若菜を乱暴に扱い、単なる部下を丁重に扱っているのだから、常識人からすると疑問しかないだろうが。
「なになに? あたしの名前聞こえたけど」
他の隊員の様子を見て回っていた若菜が、こちらへ駆けてくる。
「こちらが新しい副隊長の草薙真哉さんです」
昇太に紹介されて、真哉は若菜にも頭を下げる。
「どうも。みなさんより経験は浅いですが、副隊長にふさわしい活躍ができるよう尽力します」
「あー、君が。その歳でいきなり副隊長なんだから、昇太君と同じで天才肌なのかな? あたし、第四位の東雲若菜ね」
「先輩、上官に向かって失礼ですよ」
昇太に口の利き方をたしなめられる若菜。
「東雲君……。本気でこの男の相手を続ける気か……? 騎士団には、もっと女性を大切にする男性騎士がいくらでもいるというのに」
「ちょっと、昇太君のことバカにしたら蘇芳さんでも怒りますよ!?」
「いや……、君を怒らせるつもりはないんだが……」
伊織は純粋に若菜の心配をしているのだが、当の若菜は自分に対して厳しく接する昇太の味方をしている。
(この人たちが俺の部下になるのか……)
これから管理することになる第三位から第五位の騎士たちを見て、上手く取り持っていけるだろうかと一抹の不安を覚える真哉であった。
着任初日、城で久遠へのあいさつを済ませた真哉は、部下となる隊員たちの様子を見にきていた。
第一霊隊は騎士団の中でもエリートとされているだけあって、隊員は皆、真剣な表情で鍛錬をしている。
座禅のような体勢で己の魂装霊倶と向き合う者、霊気をまとった刀で素振りをしている者、霊法の構成式を記した本――法術書――を読み込んでいる者など。
「新たに就任された草薙副隊長ですね」
黒髪の青年が真哉の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「あなたは――」
「第一霊隊第三位・蘇芳伊織です」
「草薙真哉です。若輩者ではありますが、よろしくお願いいたします」
階級はこちらが上だが、相手の方がかなり年上で騎士としても先輩に当たる。真哉は深々と礼をした。
「こちらこそ。草薙副隊長の実力は聞き及んでいます。自分は、先の人羅戦争で己の不甲斐なさを痛感させられました。今は一から鍛えなおすべく修行に励んでおります」
伊織は、裏切り者で準霊極だった鳳昇太に瞬殺された。無論、伊織自身は準霊極ではない。
客観的に見ると、伊織より真哉の方が強い。
「俺もまだまだ道半ば、お互いがんばりましょう」
真哉と伊織があいさつを交わしていると、女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「何度言ったら分かるのです! 刀の握り方は、そうじゃないでしょう!」
指導役の騎士が部下を叱りつけているらしい。
叱られている男性隊員は萎縮してしまっている。
そこへ第五位の階級を持つ昇太が近づいていく。
「どうしたんです? そんな大声を出して」
「鳳さん。いえ、彼の剣の腕がいつまで経っても上達しないので」
「それは聞こえていました。僕はあなたを注意しにきたんです」
昇太は、叱られていた隊員を一瞥して彼への評価と指導役の女性への戒めを口にした。
「彼は向上心のある人です。褒められて慢心するようなことはありません。あなたの叱責は部下のやる気を削ぐだけでは?」
「しかし、あまり甘やかしては――」
「若菜先輩なんて褒める以外なにもできてませんでしたけど、僕の能力は伸びましたよ?」
昇太が入団した直後に指導役としてついたのが、第四位の東雲若菜だった。
実力を隠して入団したため、昇太は若菜よりはるかに強かった訳だが、若菜と一緒に鍛錬をしていて成長したのは事実だ。
「ですが……」
あくまで厳しい指導をしたがる女性騎士を見て、昇太は目を細めつつかすかな喜色を浮かべた。
「僕に言わせれば、あなたの指導内容には間違いが五点あります。まず、霊剣術における刀の握り方について、わざわざ決まった型を使う必要性がありません。それから対喰人種の戦闘を想定するなら霊子構成の一番目にベータ群のものを持ってくるのも良くありません。これは雷斗様の得意技と重複するため、無効化される確率が上がります。残りも全部説明しますか?」
丁寧な口調ながら容赦なく相手の非を並べ立てる昇太。
今度は女性騎士の方が萎縮することになる。
「い、いえ、私の勉強不足でした……。我が身を省みることからやり直します……」
女性騎士はすごすごと引き下がった。
やる気を取り戻した男性隊員は、昇太に尊敬の眼差しを向ける。
「ありがとうございます、鳳さん! 人羅戦争の時は裏切られて絶望しましたけど、優しいんですね!」
一介の平隊員の努力まで把握しているのは、上官として徳がある方だといえよう。
「別に優しくはありませんよ。単にあの人をやり込めたかっただけです。それにあなたのやり方は間違っていませんでしたからね」
「では自分が上達しないのは……」
「指導役との相性が悪かったせいでしょう。正しいことをしようとしているのに、いちいち間違った方向に誘導されたのでは、できることもできません。配置変えを検討しましょう」
「はっ! ありがとうございます!」
昇太からの配慮に部下も感激していたが、見ていた真哉も感心させられた。
「鳳さん。副隊長に着任した草薙です。あなたを差し置いて俺ごときが副隊長というのもおかしな話ですが」
「ああ。あなたが。見たところ準霊極のようですね。重光副隊長の後任が務まる方が現れて良かったです」
「しかしなぜ、鳳さんが副隊長ではないのでしょうか? 俺よりずっと早く準霊極に至っていたというのに」
「僕は若菜先輩の次の階級がいいのですが、先輩に副隊長は務まらないですからね」
昇太は若菜を慕っているのか慕っていないのか、よく分からないようなことを言う。
「そういうものですか」
騎士団に入ったばかりの真哉には、彼らの関係性についてどうこうは言えない。
真哉の隣にいる伊織にも目を向ける昇太。
「蘇芳さんも一緒ですか」
「鳳、貴様、部下に対するのと東雲君に対するのとで、ずいぶん態度が違わないか?」
人羅戦争前は、昇太のことも優秀な部下として目をかけていた伊織だが、雷斗に追い詰められた状況での若菜への仕打ちを見て以来、『貴様』呼ばわりするようになっている。
恋人の若菜を乱暴に扱い、単なる部下を丁重に扱っているのだから、常識人からすると疑問しかないだろうが。
「なになに? あたしの名前聞こえたけど」
他の隊員の様子を見て回っていた若菜が、こちらへ駆けてくる。
「こちらが新しい副隊長の草薙真哉さんです」
昇太に紹介されて、真哉は若菜にも頭を下げる。
「どうも。みなさんより経験は浅いですが、副隊長にふさわしい活躍ができるよう尽力します」
「あー、君が。その歳でいきなり副隊長なんだから、昇太君と同じで天才肌なのかな? あたし、第四位の東雲若菜ね」
「先輩、上官に向かって失礼ですよ」
昇太に口の利き方をたしなめられる若菜。
「東雲君……。本気でこの男の相手を続ける気か……? 騎士団には、もっと女性を大切にする男性騎士がいくらでもいるというのに」
「ちょっと、昇太君のことバカにしたら蘇芳さんでも怒りますよ!?」
「いや……、君を怒らせるつもりはないんだが……」
伊織は純粋に若菜の心配をしているのだが、当の若菜は自分に対して厳しく接する昇太の味方をしている。
(この人たちが俺の部下になるのか……)
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番外編①~2020.03.11 終了
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