双子のヒロイン〜可愛い妹のため姉がんばります！〜

姉の密かな決意

若干心の重荷になっていたお礼の品の件を頼むことが出来て
私は内心ルンルンで渡り廊下を歩いていた
今にも鼻歌でも歌いながらスキップを始めてしまいたい気分だが淑女としての理性がまだ息をしているためにそんなことは出来ない

ふと前を見れば結構な距離があるが見覚えのある男女が歩いている
深緑の髪の背の高い男性と⋯ミラだ！

イベントだろうか？
何もやましいことはしていないが近くの柱に慌てて隠れてしまった
ちらりと遠目から様子を伺う
あの深緑の髪からするとリアム・ギルベルトだろう
長い髪を首のあたりで纏め
低めのポニーテールになっている
何を話しているのかはよく聞こえないがくすくすと楽しそうなミラの笑い声が聞こえてくる
徐々にこちらに近づいて来るので
思わず息を潜めてしまう
ミラは嬉しそうな笑顔を浮かべて何かを話している
それにしても　なんて可愛いのかしら⋯！

「⋯ねぇなにしてるの？」
隠れて眺めているのを察してか
声を潜めながら後ろから声をかけられた
しかし今は相手をしている暇はない
天使の笑顔を目と言う名のカメラに映すのに忙しい
「お構い無く⋯うちのて⋯妹を見守ってるだけなので」
リアムの方の表情は背を向けられているためわからないが
声色から察するに嫌がってはいなさそうだ
実に穏やかな空気である
二人の微笑ましい光景にほっこりしながら見送っていると
ミラは途中でリアムとは別れ3年の教室に行くようだ
「⋯君の妹さん　可愛ものねぇ」
同意しかない
「えぇ！本当に！最高にかわい──っ！？」
うんうんと頷くと途中で我に返る

バッと後ろを振り返れば至近距離に黒髪の端整な男性の顔がある
長めの前髪からルビーのように濃く赤い瞳が覗いている少しところどころはねている癖っ気が特徴的だ
魔術師のリオ・クリントだった
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」
「えっ⋯今更？」
私の叫びに先程の楽しそうな表情とは打って変わって困惑顔だ

恥ずかしい⋯
夢中になりすぎて周りに
人がいることにすら気が付いていなかった
「⋯⋯失礼しました⋯」
「いえいえ⋯お気になさらず。こちらこそ驚かせてしまったようで⋯」
クスクスと楽しそうに笑いながら謝罪するリオ
「⋯⋯いえ」
まだ心臓がバクバクと早鐘を打っている
本当にびっくりした⋯
「姉様！？どうしたの！？」
私の叫び声が聞こえたのだろう
ミラが駆け寄ってくる
「大丈夫よ⋯ちょっと驚いちゃっただけなの⋯」
まさかあなたを観察していたら後ろに居た人に驚いたなんて言えるはずもない

「はぁ⋯良かった⋯もう！授業終わったのに食堂にいないからどこに行ったのかと
⋯まだ3年生の教室に居るかと思ってここまで探しに来たのよ！⋯ところで、姉様なんでクリント様といるの？」
「えっ」
なんてこと⋯！私を探しに来ていたのか！
それにもう出会っていたようだ
そりゃそうか
リオ・クリントは高い魔力と水属性と闇属性という2つの学科を受けている1年生だ
ニーナではここじゃなく図書室の隣の部屋にある木漏れ日の間という
常に晴天の広めの庭の様な場所で出逢うのだ

ど真ん中には太い樹木がそびえ立っており
日影になっているところにベンチとハンモックがいくつかと
太い木の枝にブランコが設置されているここで飼育されている小動物も時々やってくる生徒達の憩いの広場なのだ

「はじめましてミラ嬢の姉君⋯僕はリオ・クリントよろしくね」
新しいおもちゃを見つけたようなミラとは違うタイプの笑顔で手を差し出すリオ
「いつも妹がお世話になっております⋯ニーナ・コーリーです　こちらこそよろしくお願いします」
差し出されたので笑顔で握手はする⋯
ギュッと握られ全身から冷や汗が出てくる
ミラでもニーナでも出会った後は気まぐれな性格で攻略自体もなかなかに難しいこの男
一度気に入られるとものすごい勢いで距離が縮まるのだが
交際が始まった後は他の攻略対象の高感度が少しでも上がれば
どんなに彼の高感度をあげていようと
バットエンド確定するのだ
この場合では監禁され
彼の家の地下の部屋から一歩も出してもらえなくなる
打って変わりハッピーエンドではお互いに信頼があるので
溺愛され心から幸せそうに笑う二人が見られるのだが

他の男に目移りしたと勘違いされるのがアウトなのだ
目から光がなくなり表情の消えるヒロインは一部プレイヤーに人気ではあったものの

正直この人のルートには行ってほしくはないな⋯リスキーすぎる

でもミラがこの人のことを好きになってしまったら⋯
不本意ではあるが姉として応援しよう
幸い私には前世の知識がある
この男に勘違いされないようにフォローすれば良いだろう
双子とはいえ今の私は姉なのだ
幼い頃から一緒に育ってきた大事な家族の光溢れる笑顔ほど私にとって価値のあるものはない

絶対に守らなければ⋯！

固く決意するニーナだった