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悪役令嬢による過保護

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「今日は午後からか⋯憂鬱だな」
この数日ケイラとペアになってからはほぼ毎回すぐに取り巻きたちとのお茶会に誘われたり、「花を見に行こう」と温室の植物園のような場所に連れ出されたりとすごかった

今度は前のペアだった彼がこちらを時折見てくるが、いつものへらりとした笑みはそこにはなく無表情だ

あの顔はゾクッとするものがある
もちろん良い意味ではない
底の見えない穴を覗いているような感覚になるのだ

ケイラとペアになってからケイラは睨むのを辞めて
時たまアールの方を見ていることもあるが殆どは「入学式に倒れたと聞いたが具合はどうか」とか「どこか怪我などしていか」とまるで過保護な親のように私のことを心配してくる「アールとはどんな関係か」も聞かれたな
授業後はほぼ毎回一緒に連れ出されるがミラを見掛ければ
「あら…あなたの妹さんじゃない…行ってらっしゃいな」とすぐ開放されることもあった

そんな不可解な行動ばかりする彼女と今日もこの時間がやって来くる
他のペアも雑談をしたりしているので今日も多少ざわざわしている
「…何か変わったことは…ありまして?」
今日も聞かれた…ここ数日お決まりのセリフだ
いつも心配そうな顔をされる
流石にたった半日視界に入らなかったというだけでこれはどうなのか
ミラでも拾い食いはしないというのに
同じ血が流れているから変な疑惑でもかけられているのか?
彼女にとって私はどのような人間に映っているんだ
赤子?赤子だと思われてる⋯?
「いえ、特にはありませんわ」
「そう⋯ならいいの」
私の言葉に心底ホッとしたような顔をしている

⋯今更ではあるものの、これは異常だ

ゲームの彼女はもっとこう
綺麗だけど少し冷たい印象で婚約者であるルークの前とヒロインの行動を邪魔するときくらいしか感情を表に出さない人だった気がする

王太子妃教育も幼い頃からされていて
「人形のように完璧で美しい」と田舎の私の実家の方にも噂が流れているくらいだ
普段は噂通りの人のようだが
私と話すときは何故かこんな風に顔がコロコロと変化する彼女

色々と気になるがなんて聞けばいいのか分からないのでそっとしておくしかない
個人的には好かれるようなことはした記憶がない…
短いようで長いが適当に話題を振り
思考を放棄することで今日を凌いでいると

「今日は、まだ少し早いですがここまでにしましょうか。皆さん順調なようですし」
終わりの時間からまだ一時間ほど早いのに教師が言い出した
やった!とあちこちから歓喜の声がする

みんなも退屈だったようだ
「ニーナさんは⋯この後はどうなさるの?」
「特には決まってませんね、ケイラ様はどうされます?」
「ケイラで構わないわよ…それに敬語もいらないわ私達、友達でしょう?」
「⋯畏れ多いですから」
「まだだめなのね…残念だわ」
これもこの数日言われてきたことだ

どんだけ気に入ってるんだ⋯私のこと
「…お待たせいたしました。ケイラ様」
「私は先に帰ることにするわ…では、ご機嫌よう…あなたも暗くなる前に帰りなさいね」
「えっ⋯はい、そうします」
早めに終わったというのにいつの間にか現れたいつもの人達を引き連れ帰って行く、釣られるように他の生徒もぞろぞろと解散していった

窓を見ればまだ夕方に差し掛かり始めた頃だ
まだまだ明るいというのにこの発言

「ここは城下街より安全だと思うんだけどなぁ⋯」

ポツリとつぶやいても誰も聞いてはいなかった
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