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課外授業

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とうとう本日は、課外授業という名目の学園長によるお使いデーである

ラルフとライリーを追加したいつものメンツで行くのだ

場所は転移陣に乗りここから
少し遠い比較的安全な森だ
今日は葉っぱとか枝が長い髪の毛に絡まることもあるので、女子の皆は髪をまとめている子が多い
私も例に漏れず1本の三つ編みにしている
リリィはお団子にしていて
ミラは短いが後ろに纏めている
サイドは編み込みだ

大変可愛らしい
私にもカメラがあればいいのに

学園の生徒を全員森に飛ばすくらいなら
魔法で種から育てたほうが良いのでは?
とも思うのだが、魔法で育てると次に繋げる種が出来ない為にデメリットもあるらしい
こんな狭い箱庭にばかり詰められては息苦しいだろうから息抜きして来いといわれたが⋯

おそらく息抜きしたいのは学院長の方だな

「頼んだよー!」
拡声器で話す学院長
無事にチーム編成され、それぞれ自己紹介も終わったので
皆、散り散りになっていく

ライリーの存在が若干不安だが、別に彼のルートに入ったわけじゃないので大丈夫だろう

「じゃあ行こうか!」
ニカッと笑う彼は今日も眩しい
ここまで元気な人間もなかなかいない
先頭はライリーだ。最後尾はラルフになっており
今日はリオがミラの手綱を握っている
私の隣にはリリィ
怖がっていたリリィは案外慣れるのが早かった 

挨拶するときに「こいつ、こんなだけど悪いやつじゃないんだ!なっ?アハハッ!」と
バシバシと背中を叩かれるラルフを見たからだろうか
不思議と猫と犬のじゃれ合いを見ている気持ちになる

少し歩けば
案外あっさりと薬草も見つかった
崖がすぐそこにあるが近づかなければ落ちることもない
支給されたスコップで根っこ部分を傷つけないよう丁寧にくり抜き布で包んだ
簡素な苗みたいな感じになった

1チーム3個で人数が少ないチームは2つでいいらしい、案外緩くて助かる

見つから無くても時間が来たら戻らないといけないが⋯この分で3個目だ。

ライリーに苗を渡し、さぁ帰ろうかと動き出した時
「案外あっさり終わって良かった───」
ですね!とラルフに話掛けようと振り返れば

ズザザザッッと音を鳴らしながら
崖までズルズルと何かに引きずられているではないか

本人が静かすぎて全然気が付かなかった
なぜ緊急事態に叫ばないのか
他のメンバーも気がついていない
もう帰り始めている

そこまで高くはないがあの下は流れの早い川だ。流石に落ちたらいくら何でもただではすまないだろう

「待って!!!」
そう言っても引っ張っている力は弱まってはくれない
おまけに皆も気がついてないのかそのまま帰っていってしまっている

とりあえずラルフを助けなければと走り出すが間に合うか…結構ギリギリのところだ

「⋯!来るな!」
こちらに気がついたラルフがそう叫ぶ

そう話しているうちも勢いは収まらず崖までもうすぐというところだ

来るなとはどういうことなのか今は考えている暇はない

「馬鹿なこと言わないで!」
あと少し…間に合え!!

パシッ

なんとか手を掴めた
安心したのもつかの間
ラルフはもう全身投げ出されている
私は這いつくばりなんとか耐えている状態だ

今は引っ張られていないようだ
小柄な私では気がついた人が戻ってくるまで耐えられるかどうか怪しい⋯

なんなら私が軽すぎるために少しずつ落ちかけている
でも耐えなければならない。人命がかかってる

「…ぐっ」

「俺なら大丈夫だ!離してくれ!」
こいつ⋯まだ言うか!
自殺願望でもあるっての!?

「いやよ!!!」
もはや意地だ
私の魔力で縄で縛るように蔦を絡ませる
別に杖がなくても簡単な魔法なら私も使える
地面と体も固定するがそう長くは持たないだろう

杖で魔法を安定させながら使えばもっと楽に維持できたはずなのに⋯
来年から配られるので今更どうしようもないのだが

本来ならば周りの木に絡ませてラルフごと引っ張り上げたかったが、私の魔力では足りない。木まで届かないのだ

それよりラルフだ、もう助からないことを悟り諦めているということなのだろうか
なんとか気を持ち直してもらわなければ困る

こういう時どうするんだっけ!?
なんて言って気を立て直させればいいんだ
「わ、私…」

「⋯?」
私が離さなくても今、彼はどちらにしろ時間が経てば落ちるしかない状態
そんなに時間は経ってないというのに、もう腕は限界に近い

死にたくない
ラルフにも死んでほしくない

「わたしっ!生きてほしいっ!あなたとっ生きたい!だからっ諦めないでよ!」
自分でも何言ってるのか分からないがせめて何か言いたい、叫ばずには居られない

「…はぁ」
私の言葉にため息をつくラルフ

私なんかの言葉ではだめなようだ
もう駄目かと諦めかけたその時

メキメキッパキッ

「!?」
突然奇っ怪な音とともに
ものすごい勢いで掴んでる手が冷たくなる

「⋯うそ!?」

死んじゃった!?川にまだ落ちてないのに!!

内心大パニックだが急に重かったラルフの体が軽くなる

「だから、大丈夫だと言っただろう⋯!手は?」
困った子を見るような顔をされ
手の心配をされた

何故…?

「⋯て?は…平気だけど⋯」
びっくりした⋯死んだのかと思った

ラルフの足元には氷が生えている
呆然とする私の両脇に手を入れて起き上がらせてもらった
小さい子扱いだがそれよりも気になるのは足場だ

持ち上がった時にちらりと崖を覗けば
崖から生えている大きな氷が

さっきの大丈夫ってそういうこと…?
杖も使ってないのにこの威力
もはや必要ないのでは

そのままの状態で
縁際から内側の方へ連れ出される
「⋯もっと早く…それ…やって下さい…怪我はありませんか?」
私は完全に無駄な努力を晒しただけじゃないか

降ろされたが恥ずかしくて上を見れない

「⋯ない。…でも、嬉しかった」
頭上からボソッと言われた

バッと顔を上げれば口を隠しながら今度は逆に目をそらされた

「⋯ちっちが…さっきのは…忘れて…欲しいんだけど…」
なんてこと叫んだんだ私は!!
実質告白じゃないの!

「⋯⋯無理だ」

「「⋯⋯」」

⋯さっきこの人『嬉しかった』って言ってた…よね

「⋯う…嬉しいって」
みるみるうちに顔に熱が集まってくる二人


「姉様!!」
「二人とも!いないと思ったら⋯何があったの!?ボロボロじゃない二人とも」
みんなが戻ってきた
「大丈夫?」と皆口々にきいてくれる

軽く制服のスカートを叩いて砂を落とした
そうだ!この人、何に引きずられてたんだっけ…?

「先輩⋯それ…どうしたんですか?」
リオが何かに気がついたようだ
彼の目線を追うように見れば、ラルフの右足首のあたりの制服に焦げた跡がついている
紐で縛られていたかのようなシワとくっきりと焼き跡がある
絡みついていたであろう物体がほとんど焦げて灰になっている。

いつ焼けたんだろう
ラルフは水と氷で、私は木だ
焦げる要素といえばライリーくらいだが…
さっきはいなかった

ちょうどラルフが口を開くタイミングでライリーが戻ってきた
「おー!大丈夫か!?」

事の顛末を私が説明すると
「崖から落ちかけた!?何してんだよお前⋯お前ならそこら辺の魔物くらい倒せるだろ?」
と呆れるライリー

「⋯⋯」
ラルフはそんな彼を睨みつけている

「⋯お前、まさかまだ気にしてるのか!?」
何かを思い出したようだ
二人の間に何があったというのか

ライリーが言うには去年の課外授業時も
魔法を使ったらしく終わったあとラルフの肩に手を置いた際軽い凍傷を負ったらしい
その時に「お前⋯人前で魔法使わないほうがいいな。触れた人間全員凍るぞ」と言ったらしいのだ

「冗談だったのに⋯」
まさか、本気にしてると思ってなかったようだ

こいつのせいか⋯
火と氷じゃ相性が余程悪かったんだろう

「でも珍しいな、魔物が出たのか?」
あんたのルートでは出るけどな、魔物

「⋯違う、あれは…」
そう言いかけて、こちらを見ている

「⋯?」
なぜこちらを見るんだ

「⋯なんでもない。よく見えなかったんだ、魔物かもしれない…早く行こう」

「そうだな!今度こそちゃんと付いてこいよ!二人とも無事で本当に良かった!」

何を言いかけたんだろう…気になるがとても聞けるような雰囲気ではない
機嫌が悪いのか眉間に皺が寄っているラルフとみんなと一緒に帰った

「アハハハ八ッ!いやぁ~ありがとうありがとう!皆のお陰で助かったよ!というわけで午後は休みでーす!はい!解ー散っ!良い休日をー!」
軽快な笑い声と共に感謝を述べて拡声器を持って生徒に伝えている

マイクあるだろ…なんで使わないんだ
見るたびに思うが、こんな癖の強い人が学園長だとはとても思えない

「姉様お風呂行こ!」
まだまだ元気そうなミラ
「私も疲れたからはやいけど行くわ…」
げっそりしているリリィ

「⋯姉様のチョーカー色変わったね?光のあたり具合かな?」

「…えっ?」
外して見ればチョーカーの色が少し薄くなっていている

今日は不思議なことばかり起きる…
あと2日はゆっくり過ごしたいところだ
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