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春祭【後編】

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私達は今広場の時計台にいる

ミラの格好をした女の子は雇われていた
髪の毛もカツラだったようだ
地毛は茶色の女の子だった
高谷くんもといアール・ヘデラからお金を受け取ったあとすぐに走り去ってしまった

去り際こちらを一瞬心配そうな顔をしていたが呼び止めることもできなかった

それからなぜか「ここは危ないから」とアールに魔法の蔦で手を縛られハンカチで口をふさがれ路地裏を通り時計台に連れて行かれた訳だ

足以外は何もできない
手綱を持っているのが彼なのでおとなしくついていくしかない

こいつのほうが危ないじゃないか
なんで旧友を連れ出すのにこんな方法を使うんだ



しかもなぜこんな高いところに



「これで、やっとゆっくり話せるね」
ニコニコとしているアール

「⋯縛ってまで連れてこなくても話せたのに」

「邪魔が入って、なかなか話せなかったんだ。手荒な方法でごめんね?それから、僕のことも思い出してくれて嬉しいよ」

さっぱり何を考えているのかわからない

「⋯」
記憶の彼との印象があまりにもかけ離れすぎてている
以前の爽やかさなど微塵も見かけられない
影が射し込んでいるような笑顔だ

こんな人だっけ⋯
ケイラも多少奔放になったが何があったらこんなに変わってしまうんだ

「まぁ…あまり時間もないんだ。本題に行こうか」

「⋯?」
こんなところに連れて来てまでなんの話があるんだ
絶対ろくなことじゃないのだけは分かる

「今まで君に危害を加えていたは僕なんだ。ごめんね」

手足縛られた時点で確定したもんだけど聞いてもいないのに自分から暴露し始めるアール

「ごめんねって⋯」
ごめんね で済む問題ではないだろう

「⋯でも、もうそれも、今日で⋯これで最後だから…安心して」
何か吹っ切れたように笑うアール

何をするつもりだ

なんか不安定な危うさを感じるから何をしでかしてもおかしくは無いこの状況

かなりまずい

「こんな状態じゃ何も安心できないんだけど…」

手足縛られてて私は逃げられないし
少し離れた柵にもたれかかりながら立っているアール

「それもそうだね」
そういうとすんなりと拘束を解いてくれた

「⋯」
一体何を考えているんだろう

ものすごい勢いで階段を駆け上がる音がする

「ニーナ!!!」
ちょうど私が立ち上がったところで
ラルフがものすごい勢いで入ってくる

「ラルフ!」
彼の登場に内心一安心する
チョーカーつけてないのによく分かったな…
どうせ離れないだろうからってつけずに来てしまった

私が悪いんだけど

「⋯お前!」
すぐに私に駆け寄り
地を這うような声を出して怒っているラルフ
今にも掴みかがりそうだ

「残念…彼が先に来ちゃったのか」
眉を下げているが彼に対しては気にも留めていない

「大丈夫か!?」

「うん…まだ何もされてない」
手足縛られて転がされてたと言ったら殺しに行きそうな勢いだな


「ずっと嫌いだった⋯君のこと」
スッと無表情になるアール

「⋯殺すほど?」

私が何したっていうんだ

私の前にはラルフが立っているが安心はできない

「元から殺すつもりは無いよ…口止めはしたかったけど」

「⋯??」

「僕、大きな嘘をついたんだ」

「⋯え?」
その口止め?
死んだ後についた嘘なんて私は知りようがない

「⋯なんのことだ?」
ラルフにも問われるが心当たりなんて無い
ふるふると首を振る事しかできなかった

知らないです

「あの日から僕と彼女は変わったんだ…君が事故死した、あの日から」

「⋯話が見えてこないんだけど…」

「僕が君を殺したことしたんだ」

「え!?」

なんでわざわざわ無い罪を被るようなことをしたんだ

「⋯どうして?私は自分で足滑らしたんだよ?」
そんな嘘つく必要がそもそも無い上に仲直りを頼まれていたはず。なのに、これじゃあ、悪化の一途を辿ろうとしているじゃないか

「君が死んで⋯もう、どうしようもなかったんだ。どうやっても彼女の一番にはなれなかった」

「⋯」

「生まれ変わってもだめだったよ。彼女は、僕じゃない人を選んだ」

記憶持ってりゃそうなるわな

「だから⋯思ったんだ」

「せめて…彼女の人生で一番の悪者になろうって」
低めの柵に登り心底嬉しそうな笑顔で話すアール


「⋯うそ…!」
後からボソリと声がする

振り向けばいつの間にかケイラがいた

「最期にひと目見れて嬉しいよ 七々瀬さん」

「えっ」
ハッとなり前を見れば
昔よく見せていたいつもの笑顔をしてそのまま外側に傾くアール

「キャアアアアアアアア!」
「だめ!!!」

「ニーナ!!」
飛び降りるアールに驚いて叫ぶケイラ
助けに来てくれた彼を退けて走り出す私

ラルフの手を掴んだあの日のような気分だ

パシッ


なんとか掴むことはできた
勢い余って自分までずり出てしまったのは誤算だ


手すりまで蔦を伸ばそうとしたが魔力が足りなくてとどかない

「あっ」
だめだった

空中で大好きな彼と目が合う

手を伸ばされたがとどかない

「ニーナァァァァ!」
彼が叫んでいるところ初めて聞いた
心底驚いた顔になんだか笑ってしまう

下を見ればかなり遠くにレンガの床が見える

また死ぬのか

妙に冷静な自分がいた

「なんで…」
二人で仲良く落ちているとアールが話してくる
「⋯僕はあのとき君を助けられなかった。⋯間に合わなかったんだ…どうして助けるんだよ…」

勝手に体が動いてしまっただけなので特に理由はない

「私達が友達だから?」

私の言葉にくしゃりと顔を歪ませるアール

「⋯本当に…ごめん…」
なぜかボロボロと泣き出すアール

「泣かないでよ」
釣られて私まで泣いてしまう

短かかったけど…いい人生だった
後悔は無いわけじゃないけど…

もっと長く彼と皆と居たかったな
今更どうしようもないか

私達の人生を奪うレンガの床がきっとそろそろ来るだろう

ちらりと見れば下は真っ白
さっきまであったレンガの床などまるで無かった

「え!?」

あっ当たる!と目をつぶれば来るはずの衝撃はない


ボフッ


⋯ボフ??

全身がひんやりとしている体温がどんどん奪われていくが

痛くはない

し、死んだ?

ゆっくりと目を開ければ
視界は満点の星空だ

ニュッと出てくるのは突然視界に入ってくるのは見知らぬおじさん

「何してんだぁ?あんたら」

「⋯⋯へ?」

「おかあさーん!みて!雪だよ!」

だんだんザワザワと人が集まってきている

「さっきすごい叫び声したな…」
「なんでこんなところに雪の塊があるのよ」
「さっきまでこんなのあった?」

起き上がれば町の人の囲まれ注目を浴びている

「???」

なに?何が起きたの?

「雪で助かったみたいだね、僕達」

「⋯ゆき?」
これ雪だったのか

「ありゃ!昨日のよく食べるお姉さん!大丈夫かいこんなに雪まみれで」
昨日ミラが大量買した屋台のおじさんが手を差し伸べて立ち上がらせてくれた
それ私じゃないんだけどな

「ありがとうございます…」

起き上がったところで彼が駆けてきた
「ニーナ!」

時計台から降りてきたラルフに抱きしめられる

「あっ今雪まみれだから…」

「そんなの構わない!!⋯無事で良かった⋯!」
グスッとすすり泣く音がする

「⋯ごめんなさい」


「謝るのは!!!!!!こいつでしょーーーー!!!!!!!」
ケイラの声と共にスパーーーン!っと何かを叩く音が鳴り響く

「「⋯⋯」」
なんの音かと見れば
ケイラがアールをぶん殴っている

「ちょ…まって…」
アールの話す隙を与えずに殴っているケイラ

1発…2発…5発目あたりで止めに入る人が現れた


「ケイラ、そのへんで⋯気持ちはわかるけど、死んじゃうよ」

「やだ!でんっ…ルーク…」

いま殿下って言いかけたな⋯

ルークの先導もありとりあえず5人で生徒会室で話し合うことになる
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