異世界召喚闘争記~俺とビキニと七つの剣王~

うえじ

文字の大きさ
11 / 16
第一章

第二節 物語は未だ好転せず2

しおりを挟む
「私から離れるなイチロー!」
 ビキニの霊剣が輝いた。手に取る細剣をしならせ自信の周囲の中空に円を描くように振り抜いていく。
「囀ずるものよ。彷徨い、嘆き這いずるもの。その目と耳と首と肺より理性と洗礼、誘惑と混濁の四戒を禊ぎ祓い清め改めよ……」
 言葉が終わると同時に、剣の軌道をなぞるように青白い光が生れた。
「四族結界(トレス・アレスフィア)!」
 詠唱とともに光は二人を球体状に包み込んだ。
 即席ではあるがビキニが得意とする守護魔法の一つが発動した。防御力こそ高くはなくも、全方位に展開し強襲の際一撃くらいであれば防ぐことが可能な魔法である。
 ビキニは結界の中で再び剣を構え直し、全方位に警戒を強くはる。
「気を付けろイチロー。あれは魔道術の一つ、闇討ちを得意とするものの仕業。一旦体制を整えるぞ!」
 そういうと眼前より全身をフードで隠した者が走って来るのが見えた。
「~~~~~~~!」
 何かを叫んでいるようであるが、結界内には敵性因子となりうるものは一切遮断されるため聞こえてこない。
「気を付けろイチロー、奴一人だけなら私が何とかする。だが、やつらは複数人で必ず行動するはずだ。周りに気配がないかだけでも気を配ってくれないだろうか?」
 イチローは無言ながらも優しく頷く。フードの人間は影のように定まらぬ容貌で結界に近付く。依然並々ならぬ声で何かを叫んでいるようだ。
「あの容貌、あの魔道術。あれは暗殺を生業とする邪教系集団『逆剥』だろう。噂でしか聞いたことがなかったが、まさかここに来ていたとは思わなんだ……」
 結界に接触した逆剥。何か短剣のようなもので必死に叩いて割ろうとしている。叫び声は鳴り止まないようだ。
「しかし僥倖だぞイチロー!奴はこの結界すら破れぬ半端者らしい。辺りに注意さえすれば切り抜けられそうだぞ!」
 冷や汗を拭いつつもビキニは頬が弛むのを感じた。敵は一向に吠え続ける。何を吠えるのか。疑問すら抱かない。
 イチローは笑顔を絶やさない。

「目を覚ませビキニっ!!!」


 それは数秒間の出来事であった。
 アスピスの騎士達が一斉に散った直後のこと。一狼は周囲への警戒を最大限引き上げた。今までとは気色の異なる攻撃は明らかに闇討ちに近いもの。
 ビキニを脇に添えたままに辺りを警戒すると、背後にわずかな気配を感じた。
「誰だ!」
振り返ったと同時にその足の甲に小さな魔方陣が浮かび上がっているのを確認した。
(なっ、いつの間に……!?)
 まるで杭を打ち付けられたかのように脚が地面から離せない。
 が、驚いたのはそのあとであった。目の前には例の兜を被った騎士が立っていた。森への入り口に立ち、その手に意識を失ったビキニを担いでいる。
「ッッッ!!!」
 すぐ隣にいたはず。連れ去られた感覚も時間もないはずだ。
 意識が現実を受け入れる前に声が出た。それは辺り一帯を震わせる怒声。

「テメービキニから手を離せッッッ!!!」

「………………」
 依然として騎士は黙したまま、ただこちらを見続ける。
「テメーいい度胸してんじゃねぇか!」
 その様子に、一狼は自身でも内心驚くほどに感情が揺さぶられているのを感じた。これほどまでに心が怒りに支配されたのは久しぶりだとどこかで考えていた。
「今の俺なら様子見てから逃げたって余裕ってか?」
 ズ……とその足元が僅かに震えた……と、次の瞬間。

「なめんじゃねーべや!!!」

 パキン、ボゴォッッッ!
 足の術式がガラスのように砕け宙に霧散すると共に、その勢いでじめんが砕け隆起した。
 魔術など知らないし考えもしない。ただの力わざで足の術式ごと砕いたのだ。
 その鬼気迫る迫力はアスピスと対峙した時よりも数段高く、満身創痍であることすら忘れているような凄烈さをもっていた。
 その様子を見た騎士は、ついにその姿を前に口を開けた。
「……なるほど。同門…それも鬼道界ときたか」
 男とも女とも、若者とも中年とも言えぬ濁った声が兜の中から漏れだした。明らかに仕掛けが施されたような声が。
 決して話しかけたわけではない。ただ独り言が不意に口から漏れたような一言。そのため一狼の耳まで届くほど大きくはなく、さらに兜の中で反響し聞き取れるようなものではないはずだった。

「なんだ?少しはやる気になったかよ」
 しかし一狼はすべて聞き取った。限界を越えてもなお滾る血潮が全身の感覚を限界まで跳ね上げていく。
「……ふ、なるほど。王剣の巫女は本当に当たりを引いたのだな」
「話す気がねえってか。残念だが俺が当たりってんなら俺の世界にゃ大当たりがわんさかだぜ?」
「ふ、ふふ……なるほど。なるほどなるほど。」
 騎士はそういうと踵を返す。徹頭徹尾一狼を見ていながら、その実一狼を眼中にいれずに。
 しかしそんなことこちらも知らんと。一狼はその前に走り出していた。
 騎士が二歩目を地につける前には背後に拳を振りかぶる一狼。既に一手先を押さえていた。
「勝手に納得すんのは勝手だが、そこの少女は置いてけよな……」
 体の配慮を完全に無視した全力のコブシガ放たれる……
 ……その、一手前……

「!?」

 一狼の周囲に六つの影が現れた。
 それは首のとれた甲冑姿の人間。つい今しがた散っていったアスピスの従者達であった。
 従者達は首から上を失いつつもその手に剣を構えて一狼に襲いかかった。
「……ぐ、ぐぐ、グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!」
 咄嗟に騎士への一撃を無理やり軌道を修正し、背後の一体へ撃ち放った。
 声もなく砕け散る従者。その隙をついて一狼は体勢を整えつつもあの騎士へ視線を移す。
「……くそ!」
 その一言が出る程度に、奴の姿は気配ごと消え去っていた。
「……くそ」
 絞るように、声が流れた。
「起きろ……目を覚ませ、ビキニーーーーーッッッ!!!」
 悲痛な叫びは、丘を越えた山の先まで轟いた。
 彼女の意識は未だ戻らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...