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学園編
45.忘れられない
しおりを挟むその夜、僕は久しぶりに夢を見た。
前世の、一度目の人生の夢だ。
幼い頃から孤独に至る運命を強制され、最期は処刑という最悪の結末を迎えた。
処刑場の中央へ進む途中、無数の視線が僕に突き刺さった。その視線の全てに嫌悪や憎悪が含まれていて、憐憫なんてものは一つもない。
処刑台に上がる。
走馬灯は短かったけれど、それでも僕にとって大切な記憶しか蘇らなかった。
僕を『弟ではない』と突き放した兄達。でも、彼らは死んでも僕にとっての愛おしい家族だ。
僕を愛さない両親も、炎に焼かれて死んでしまった罪のない愛猫も。
そして何もなかった僕に唯一、最期に夢を見させてくれた彼……シモンも。
そういえばシモンは無事だろうか。
僕みたいな疫病神からは無事に逃げ延びて、どこかで平穏な人生を送れているだろうか。
そんなことを考えながら膝をついて、それで……──
『これより、大罪人フェリアル・エーデルスの処刑を執り行う!』
処刑人の高らかな宣言で観衆が沸き立つ。
ふと空を見上げようとして、気付いた。
処刑の見物席に並んでいる椅子が、一つだけ空席になっている。
『……あそこ、は』
数日何も飲まず食わずで、とうに嗄れ切った声が掠れ出た。
中央は皇族、その右隣は僕の親族である公爵家の家族。ということは、左側のあの空席は皇族の身内、つまり……。
そう、大公の席だ。
『……大公』
その時、何かが頭の片隅を過ぎった。
蹲る青年。静かに靡く艶やかな黒髪。虚無に支配された金色の瞳。
一筋の滴が彼の頬を伝った時、僕は無性に叫び出したくなった。苦しくて、悲しくて。
『もしも、全てをやり直せるのなら──……』
彼の紡いだ一言が脳裏を過ぎる。
仮に奇跡というものが存在するとして、全てをやり直せるのなら。
その時は。
身の程知らずの考えが巡りそうになった直後、真上から勢いよく刃が降ってきた。
***
「フェリアル、おはよう」
ゆっくりとした足取りでリビングに出ると、既にローダが朝食を作り終えてテーブルについていた。
「……おはよう、ローダ」
目元を擦りながら席に着く。
美味しそうな朝食を前に「今日もご飯ありがとう」と言ってから、両手を合わせる……その時、ふと向かいに座るローダが目を細めた。
「悪い夢でも見たか」
「……え?」
「薄いが、隈が出来ている。フェリアルにしては元気もなさそうだ」
その言葉を受けて咄嗟に瞼に触れる。
視線を横に向けると、窓に映る自分が見えた。確かにローダの言う通り、ほんの少しだけれど隈が出来ている。
元気がない……か、どうかはわからないけれど、夢見が良くなかったのは事実かもしれない。
「ううん、大丈夫。今日、最終日だから。緊張しちゃったのかな」
文化祭。一時の楽しみの終わり。
だから知らず知らずのうちに緊張でもしてしまったのだろう。そう言うと、ローダは僅かに眉を寄せた。
「……無理はするな。俺はそのための護衛でもある」
そういえば、と思い出した。
そうだ、ローダは僕の護衛だったんだ。友達として過ごす時間が長くて、すっかりそのことが頭から抜け落ちていた。
それなら、いつもと様子が違って見えるらしい僕を放っておくのは、ローズにとってはむず痒いことかも。
「ごめんね、ローダ。でもね、本当に大丈夫なの。ほんとだよ」
「……だが」
顰められた表情にぱちくりと瞬く。
ローダがこんなに引き下がろうとしないのは珍しい。
ローズの一件で、こうして強く心配してくれるくらいに仲が深まった……と思ってもいいのだろうか。
でも、今は少しその心配が心苦しい。
僕はローダの何か言いたげな視線から逃れるようにそそくさと朝食を食べ終えると、静かに立ち上がって笑ってみせた。
「そうだね。たしかにちょっと、気分がよくないかも。まだ時間あるから、お散歩でもしてこようかな」
僕がそう言うと、ローダは流石に諦めたのか「……そうか」と頷いた。
こればかりは僕の気持ちを察してくれたのか、護衛だからと同行しようとすることはなかった。
部屋を出ると、どこかの窓が開いているのか、外の空気が頬を撫でた。
早朝の寮内はまだ人通りもまばらだ。
それでも僕が通ると皆こちらに視線を向けてくる。その視線は大抵好奇心とか憧れとか、そういうものばかりだけれど……。
中には、罪悪感のようなものが滲んで見える人もいた。
「……っ」
いつもなら流してしまえる視線も、なんだか今朝はすごく気になる。
僕は俯いたまま、半ば無意識に医務室へと足を速めた。こういう時、なぜだか無性に泣き出してしまいそうになった時、迷わず頼りたくなる彼の元へ。
まだ早朝だし、医務室に居るかどうかは分からないけれど。
それでも衝動のままにそこへ向かい、扉をノックすることも忘れて駆けこむと……優しい木の葉の色を持った彼は、確かにそこに居てくれた。
「フェリアル様?」
こちらに気怠そうな視線を向けてきた養護教諭は、駆け込んできたのが僕だと気付くなり大きく目を見開いた。
ガタッと勢いよく立ち上がると、壁に凭れ掛かって息を切らす僕の元へ駆け寄ってくる。
「フェリアル様!?どこか痛むんですか!?」
あぁ、自分でも気付かなかったけれど、どうやら頭痛もしていたらしい。
自覚すると強く痛みを訴えてくる頭を抱えて、目の前に立つシモンに思わずぎゅっと抱きつく。
すると当然のように、シモンの両腕が背に回った。
「シモン……ちょっとだけ、ここで寝てもいい……?」
重い瞼はとっくに視界を閉ざしてしまっている。
シモンが何度も頷く気配がして、同時に軽々と身体を抱き上げられた。
「もちろんです。俺が傍についていますから、気分が良くなるまで眠ってください」
心地の良い揺れがしたかと思うと、そっとベッドに下ろされる。
寮の自室にあるそれよりも少し固い感触が背について、けれど不思議と今朝の寝覚めよりも快適な感覚があった。
それはきっと、シモンがいるからだ。
「シモン、シモン……」
「大丈夫。俺はここにいますよ。どこにも行きません」
手を伸ばすとすぐにその手を掴まれる。
大きな手に頭を撫でられると、さっきまでの頭痛が嘘みたいに引いていって、深い睡魔が襲ってきた。
──あぁ、せっかく今日はライネスに会えるのに
登校の時間までには起きないと。
そんな焦燥を抱えながらも、意識は深い底へと沈んでいった。
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