余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

285.一番やばめな人

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 ドタドタと聞こえる複数の足音。
 ローズが片腕に抱いていた僕を床に下ろすと、さっきまでの微笑を消して無表情で立ち上がった。さっきの妖艶な笑みは夢だったのだろうかと疑う程切り替えが俊敏だ。
 僕もよっこらせと立ち上がりぱふぱふと膝についた汚れを拭う。それと同時に、さっきから物凄い勢いで近付いてきていた足音が部屋の目の前でぴたりと止まった。

 僅かな躊躇の気配の後、扉がゆっくりと開かれる。よっ、と手を挙げて入ってくるトラードの後ろには、最後に会った時よりずっと大人っぽくなった彼らの姿が見えてぎょっと目を見開いた。


「兄様、ライネス……?」


 呆然と名を呼びかけながら一歩前へ出る。同じく唖然としていた三人のうち、手前にいたディラン兄様とガイゼル兄様が初めにふらりと動き出した。

 ガイゼル兄様は以前より更に体格が大きくなり、何やら強そうな騎士の制服を着ている。ディラン兄様は表情が更に大人っぽく怜悧になり、服の上にペリースを羽織って上位貴族のような上品な雰囲気が更に増していた。
 そんな二人が僕の数歩先まで辿り着き、ふとぴたりと立ち止まる。頭のてっぺんから足の爪先まで全て見つめたかと思うと、同時にがばっと抱き着いてきた。


「むぐっ」


 両側からむぎゅむぎゅと抱き締められると少し苦しくて、ぐえっと蛙さんみたいな声を出しながらぱたぱた腕を動かした。
 するとほんの少しだけ力が抜けてほっと安堵の息を吐く。なんだか潤んでいる二人の瞳を見るなり、兄弟での思い出が走馬灯みたいに一気に蘇ってきた。

 思わず僕の眉もへにゃあと下がる。普段は涙が枯れているのかと勘違いしそうな二人の涙が流れている、その事実に感動が止まらなくなってきた。


「に、にいさま……っ」


 ぽろぽろ。大粒の雫が頬に伝う。体感ではほんの数日ぶりの再会である僕がこんななのだから、二年越しの再会である二人の気持ちは一体どれほどのものなのだろうと気になった。
 一向に動かない二人を心配しつつ、ガイゼル兄様のほっぺをむにゅっと包み込んだりディラン兄様にうりうりと頬擦りしたりする。やがて二人がぴくりと動き出し、ゆっくりと視線を下ろして僕の顔をじーっと見つめた。

 無言で見つめられているからか威圧感が物凄い。気を張ってぴしっと立っていると、スッと目を細めた二人にまたもやむぎゅっと抱き締められた。


「……もう駄目だ。もう我慢ならねぇ。いいよなディラン」

「あぁ。異論は無い。これ以上の苦痛と後悔は御免だからな」


 なにごとじゃろかと首を傾げる。何やら真剣そうな顔で頷いた二人は、僕を見下ろして至って真面目な声でとんでもないことを言いだした。


「チビ、今からお前に枷と鎖を付ける。邸で一番良い部屋に閉じ込めてやるからな。安心しろ」

「仮に力が失せて歩けなくなっても問題ない。兄様がフェリを抱っこして足になってやる」


 首輪も付けるか?ととんでもなく物騒なことを語り始める二人。
 感動の再会のはずなのにどうしてこんなことに……?とぷるぷる震えつつ、さっきとは別の意味の涙が滲んだ瞳をおろおろと彷徨わせる。

 このままでは本当に枷と鎖で拘束されて首輪まで付けられそうな勢いだ。あわわーっと一番近くにいたローズをふと見つめて、この人はだめだとすぐに目を逸らした。
 ローズも拘束とか監禁とかちょっぴりやばめな発言をしていたんだった。そのローズに助けを求めるのは逆効果でしかない。あぶないあぶない。

 うーんとえぇっと、この中で一番まともそうな人は……。


「はっ……!」


 必死にきょろきょろ。そして見つけた救世主にぱぁっと目を輝かせた。
 何故か部屋には入らず、室内を覗き込むようにして遠くから見つめてくる彼。艶やかな黒髪に獅子のような金の瞳、以前より更に凛々しく、大人っぽくなった端正な顔。
 絶対的な安心感。信頼と安全の優しいお兄さん、ライネスだ。


「ららっ、らいねす!」


 ふえぇと情けない声を上げながら涙ぐすぐす。
 四方八方から鎖やら枷やらを僕に付けたがる怖い人達に囲まれている現在。安心できる味方は優しいお兄さんのライネスだけだ。

 あばばっと両手を伸ばして助けてアピールをすると、何やらぐっと息を呑んだライネスがぱちくりと瞬いた。
 まるで僕の姿を隅々まで確認しているかのような視線だけれど、それよりも今は助けてほしいでござるふすふす。
 ぽろりぽろりと涙を零しながらぱたぱた抵抗。ぐぬぬーっと前進して兄様達の隙間からぴょこっと抜け出すと、その勢いのままとたとたーっとライネスに駆け寄った。


「らいねす!ぎゅー!」


 むぎゅーで僕を匿ってくれと両腕を伸ばす。するとライネスは呆然とした顔のまま、無意識の反射神経なのかひょいっと当然のように僕を抱き上げた。
 むぎゅむぎゅとする間にようやく実感が追い付いてきたのか、不意にライネスが瞳を潤ませてぐっと表情を歪める。
 心配になって手のひらで涙を拭ったりと色々していると、ライネスは柔い笑みを浮かべてへにゃりと眉を下げた。


「フェリ、本当にフェリなんだね……」

「ライネス……!」

「やっと会えた……やっと……」


 何処からどう見ても優しいお兄さんの笑顔。けれど直後にライネスが紡いだのは、およそ優しいお兄さんっぽい発言ではなかった。



「……もう逃がさないよ」



 ぎゅっと強まる抱擁はまるで拘束みたい。ライネスの指先が首輪に触れるみたいに首筋を撫でて、優しい笑みは黒い感情が少なからず籠った歪な笑顔に変わる。
 額に触れるか触れないかの口づけが落とされた時、ふと気が付いた。


「あ、あわ……」


 もしかすると僕は、一番やばめの人に助けを求めてしまったのかもしれない……なんて。
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