余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

328.おふろでぺちぺち

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 あの後、陛下宛ての手紙を回収しようとしたけれどそれは出来なかった。
 気まずそうにグリードが答えた内容は、手紙は既にディラン兄様が燃やしてしまったというもの。何やらとんでもない激おこ具合だったらしく、止めることは出来なかったらしい。
 残したと言っていたのに……とちょっぴりむーっとする僕にグリードはお得意の土下座を披露した。シモンに怒られるのが怖くて咄嗟に残したとふわふわした言い方をしてしまったみたい。こんなに優しいシモンが怖いだなんて、グリードはおかしなことを言うのね。

 何はともあれ、僕だけ状況の把握が追い付いていないだけで、陛下はよっぽど大変なことを仕出かしてしまったようだと不意に理解した。考えてみれば、確かお父様も兄様同様ぷんすかしていた気がする。
 陛下がしたやらかしとやらについて説明がほしいところだけれど、まずは今この瞬間に直面している難局に立ち向かわねば。

 そんなことを緊張しつつ考える。
 シモンにすっぽんぽんで抱っこされながら見つめた先はたっぷりお湯の張った浴槽……そう、湯浴みである。どどん。


「うーん、どうしたものか……」


 もこもこタオルで僕の体を包んで眉を下げるシモン。
 例の鼻血は数十分前に無事止まったようで、二箇所に突っ込んでいた栓は既に消えている。出血多量でちーんしなくてよかったよかった。

 ちっちゃくなった体は半日で戻る。グリードは夜には戻ると言っていたから、体が無事元に戻ったら湯浴みをしましょうとシモンに言われ承諾したのが鼻血事件の直後のこと。
 既にご飯は済ませたし、ぐーすかすぴーの準備も出来た。あとは湯浴みだけ……なのだが、一向に体が元に戻る気配がない。
 しかしそろそろ眠気が襲ってきたところ。流石にこれ以上は僕が待てないということで、仕方なくこの体のまま湯浴みをすることに。

 そうして今、シモンがすっぽんぽんの僕を抱えたまま悩み込んでいるという所だ。


「だー、ぶぅ。あーく、あいっ」

「危なくないから大丈夫、ですか?確かに危険なことではありませんが……ただでさえちっちゃなフェリアル様がいつも以上にちっちゃくなった状態なので不安ですよ……」


 すりすりと頬擦りしてくるシモンをぺちぺち。大丈夫!と根気強く伝えて数分。やがて覚悟を決めたらしいシモンが重い足を動かした。

 いつも入っている湯舟はスルー。僕の体より少し大きいくらいの綺麗な桶を棚から引っ張り出し、そこにお湯を入れて床にぽすっと置いた。
 まさか……と思ったがそのまさかである。シモンは小さな即興湯舟にゆっくりゆっくり僕を下ろし、自分で支えるにはちょっぴり重い僕の頭を片手でしっかり支えた。


「うー」

「えッえッ、なにこれきゃわっ……こほんこほんッ!うーん、こっちの方が安全そうで良いかもですね。こっちでいきましょう!」


 桶の縁にちょこんと手を置きふすーっとお湯に浸かる。そんな僕を見て一瞬あわあわと頬を紅潮させたシモンだったけれど、僕がきょとんとすると直ぐにハッと我に返って笑顔を浮かべた。
 何処から取り出したのか赤ちゃんサイズのふわもこタオルを折って僕の頭へ。温泉でよくいるタオルを頭に乗せたおじさんみたいになった僕を見下ろし、シモンは何故かグハッと嗚咽を漏らして心臓を抑えた。
 どうやら突然発作が起こってしまったらしい。夕方も鼻血を垂れ流していたし、今日のシモン大丈夫だろうか。

 桶の水面にぽちゃんと手を入れ、ふと気になって水面を手のひらでぺちぺち。いつもは気にならないのにどうしてか好奇心が驚くくらい湧き上がって、跳ね上がる飛沫にぱぁっと瞳を輝かせた。
 水面ぺちぺち、ぺちぺち。やがてぴゅっと飛んだ飛沫が顔に跳ねて「ぶぅ!」とぷるぷる頭を振ると、シモンが突然うぎゃーっと更に呻きだした。


「ぐッ、グアァッ!いつにも増して破壊力が強過ぎる!」


 お風呂場の床で悶えのたうち回るシモン。大丈夫かなとそわそわしていると、すぐに復活したシモンが地獄から生還した武士みたいな形相で僕の頭を支え直してくれた。ありがとシモン。


「お湯ぺちぺちは危ないからぶーですよ。目なんかに入ったらびっくりしちゃって泣いちゃうかもしれません」

「なー、ないっ!ぶぅ!」

「泣かない、ですか?本当かなぁ」

「んっと!」


 怒りのぶぅぶぅを叫びながら水面ぺちぺち。
 すると飛沫の一部がピンポイントで顔に跳ねてきて、これまた見事に瞳にクリーンヒットした。ぴゅっと突然お湯に目を攻撃され、びっくりした体が理性を押しのけ勝手に反応してしまう。
 顔が真っ赤になり、えぐえぐと漏れる嗚咽。滲む視界の中、シモンがあわわっと慌てる様子が辛うじて見えた。


「うー、うっ……ぁー」

「あぁもう言わんこっちゃない、かわいすぎる……。ほぉらよしよし、抱っこしてあげましょうねー」


 びゃーっ!と泣き始める僕をひょいっと桶から抱き上げて取り出すシモン。
 ぴとっと肩に顔を埋める僕を、シモンはあやすようにしてよしよしと撫でる。そんなシモンを見上げ、溢れていた涙が徐々に止まってきた。
 重い頭を肩に預けてふすふすと嗚咽を堪えること数秒。不意にどくんと心臓が高鳴り、なにごと!と目を見開いた瞬間みるみる体がおっきくなり始めた。

 目を丸くするシモンの腕の中でぐんぐん大きくなる体。やがて成長が止まり自分の体を見下ろすと、確かに十三歳の体に元通りになっていた。



「むっ!もどった!」



 すっぽんぽんのまま目の前のシモンにむぎゅーっと抱き着く。
 途端に二度目の鼻血事件を起こしたシモンが、出血多量でちーんとしかばねになってしまった。
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