293 / 423
【聖者の薔薇園-終幕】
328.おふろでぺちぺち
しおりを挟むあの後、陛下宛ての手紙を回収しようとしたけれどそれは出来なかった。
気まずそうにグリードが答えた内容は、手紙は既にディラン兄様が燃やしてしまったというもの。何やらとんでもない激おこ具合だったらしく、止めることは出来なかったらしい。
残したと言っていたのに……とちょっぴりむーっとする僕にグリードはお得意の土下座を披露した。シモンに怒られるのが怖くて咄嗟に残したとふわふわした言い方をしてしまったみたい。こんなに優しいシモンが怖いだなんて、グリードはおかしなことを言うのね。
何はともあれ、僕だけ状況の把握が追い付いていないだけで、陛下はよっぽど大変なことを仕出かしてしまったようだと不意に理解した。考えてみれば、確かお父様も兄様同様ぷんすかしていた気がする。
陛下がしたやらかしとやらについて説明がほしいところだけれど、まずは今この瞬間に直面している難局に立ち向かわねば。
そんなことを緊張しつつ考える。
シモンにすっぽんぽんで抱っこされながら見つめた先はたっぷりお湯の張った浴槽……そう、湯浴みである。どどん。
「うーん、どうしたものか……」
もこもこタオルで僕の体を包んで眉を下げるシモン。
例の鼻血は数十分前に無事止まったようで、二箇所に突っ込んでいた栓は既に消えている。出血多量でちーんしなくてよかったよかった。
ちっちゃくなった体は半日で戻る。グリードは夜には戻ると言っていたから、体が無事元に戻ったら湯浴みをしましょうとシモンに言われ承諾したのが鼻血事件の直後のこと。
既にご飯は済ませたし、ぐーすかすぴーの準備も出来た。あとは湯浴みだけ……なのだが、一向に体が元に戻る気配がない。
しかしそろそろ眠気が襲ってきたところ。流石にこれ以上は僕が待てないということで、仕方なくこの体のまま湯浴みをすることに。
そうして今、シモンがすっぽんぽんの僕を抱えたまま悩み込んでいるという所だ。
「だー、ぶぅ。あーく、あいっ」
「危なくないから大丈夫、ですか?確かに危険なことではありませんが……ただでさえちっちゃなフェリアル様がいつも以上にちっちゃくなった状態なので不安ですよ……」
すりすりと頬擦りしてくるシモンをぺちぺち。大丈夫!と根気強く伝えて数分。やがて覚悟を決めたらしいシモンが重い足を動かした。
いつも入っている湯舟はスルー。僕の体より少し大きいくらいの綺麗な桶を棚から引っ張り出し、そこにお湯を入れて床にぽすっと置いた。
まさか……と思ったがそのまさかである。シモンは小さな即興湯舟にゆっくりゆっくり僕を下ろし、自分で支えるにはちょっぴり重い僕の頭を片手でしっかり支えた。
「うー」
「えッえッ、なにこれきゃわっ……こほんこほんッ!うーん、こっちの方が安全そうで良いかもですね。こっちでいきましょう!」
桶の縁にちょこんと手を置きふすーっとお湯に浸かる。そんな僕を見て一瞬あわあわと頬を紅潮させたシモンだったけれど、僕がきょとんとすると直ぐにハッと我に返って笑顔を浮かべた。
何処から取り出したのか赤ちゃんサイズのふわもこタオルを折って僕の頭へ。温泉でよくいるタオルを頭に乗せたおじさんみたいになった僕を見下ろし、シモンは何故かグハッと嗚咽を漏らして心臓を抑えた。
どうやら突然発作が起こってしまったらしい。夕方も鼻血を垂れ流していたし、今日のシモン大丈夫だろうか。
桶の水面にぽちゃんと手を入れ、ふと気になって水面を手のひらでぺちぺち。いつもは気にならないのにどうしてか好奇心が驚くくらい湧き上がって、跳ね上がる飛沫にぱぁっと瞳を輝かせた。
水面ぺちぺち、ぺちぺち。やがてぴゅっと飛んだ飛沫が顔に跳ねて「ぶぅ!」とぷるぷる頭を振ると、シモンが突然うぎゃーっと更に呻きだした。
「ぐッ、グアァッ!いつにも増して破壊力が強過ぎる!」
お風呂場の床で悶えのたうち回るシモン。大丈夫かなとそわそわしていると、すぐに復活したシモンが地獄から生還した武士みたいな形相で僕の頭を支え直してくれた。ありがとシモン。
「お湯ぺちぺちは危ないからぶーですよ。目なんかに入ったらびっくりしちゃって泣いちゃうかもしれません」
「なー、ないっ!ぶぅ!」
「泣かない、ですか?本当かなぁ」
「んっと!」
怒りのぶぅぶぅを叫びながら水面ぺちぺち。
すると飛沫の一部がピンポイントで顔に跳ねてきて、これまた見事に瞳にクリーンヒットした。ぴゅっと突然お湯に目を攻撃され、びっくりした体が理性を押しのけ勝手に反応してしまう。
顔が真っ赤になり、えぐえぐと漏れる嗚咽。滲む視界の中、シモンがあわわっと慌てる様子が辛うじて見えた。
「うー、うっ……ぁー」
「あぁもう言わんこっちゃない、かわいすぎる……。ほぉらよしよし、抱っこしてあげましょうねー」
びゃーっ!と泣き始める僕をひょいっと桶から抱き上げて取り出すシモン。
ぴとっと肩に顔を埋める僕を、シモンはあやすようにしてよしよしと撫でる。そんなシモンを見上げ、溢れていた涙が徐々に止まってきた。
重い頭を肩に預けてふすふすと嗚咽を堪えること数秒。不意にどくんと心臓が高鳴り、なにごと!と目を見開いた瞬間みるみる体がおっきくなり始めた。
目を丸くするシモンの腕の中でぐんぐん大きくなる体。やがて成長が止まり自分の体を見下ろすと、確かに十三歳の体に元通りになっていた。
「むっ!もどった!」
すっぽんぽんのまま目の前のシモンにむぎゅーっと抱き着く。
途端に二度目の鼻血事件を起こしたシモンが、出血多量でちーんとしかばねになってしまった。
563
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。