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一章
24.すれ違う兄弟愛
しおりを挟むむにゅっとほっぺクイされること数秒。
間近で恐ろしいほどの美貌を見せつけられ、感動と恐怖でさっきから大混乱中だ。
瞳に涙を溜めてうるうる攻撃を仕掛けると、やがてようやくアンドレアの手がほっぺから離れる。どうやら同情を誘う作戦が効いたようだ。プライドなんてものはとっくに捨てた。
俺のことをいつ手に掛けるか分からない主人公を前に、小心者の俺が気丈で居続けるなんてことはもちろん出来るはずない。
というわけで、主人公サイドのくせにめちゃくちゃ安心感のあるミケのもとへてくてくっと駆け寄った。
「えっ、なんですかコレ。ちょこんって俺の裾掴んで背後に隠れて……えっ、うそ、もしかして……俺、天使に懐かれちゃってる……!?」
爽やか紳士なミケの背後に隠れて、そろーりとアンドレアの方へ顔を出す。ちょこんと裾を掴んで、いざとなった時に縋りつける対象の確保もばっちりだ。
何やらミケが忙しなくブツブツと呟いているような気がするけれど、たぶん絶対気のせいだろう。俺の理想と言うに相応しいスマートお兄さんなミケが、俺みたいにアワアワと動揺するわけがない。
「クソミケ……貴様、俺のルカに手を出すとは何事だ……」
「え、ちょまっ!違うだろ!俺じゃねーだろ!天使の方から来たって絶対!」
ミケの広い背中おちつくーなんて思いながら、だらーんと覆い被さるような形で抱き着く。
すると何やらアンドレアの怖い声が聞こえてきたので、知らないフリしてあわわっとミケの背に顔を埋めた。
なんだなんだ、何が気に食わなかったんだ、ぶるぶる……。
俺、殺さちゃうのかなぁ……とぷるぷる震えること数秒。やがて突如伸びてきた腕にひょいっと軽々抱き上げられたかと思うと、包容力のある腕の中にぎゅっと包み込まれた。
なにごとかね?と顔を上げてびっくり仰天。ミケにくっついていた俺を抱き上げたのは、またもや兄のアンドレアだった。さっきから何がしたいんじゃ……。
「あ、あの、はなして……」
「あ?……ミケは良いのに俺は嫌なのか」
「めめめっ、滅相もないっ!とっても好きですっ!嬉しいですぅっ!」
普通に考えて、大嫌いでめちゃんこ恨んでいる相手をぎゅーなんてするだろうか。
よほどのドМさんじゃない限りは、嫌いな相手を抱き締めて喜ぶなんてことはないはず。アンドレアはどちらかと言えばドSな方だから、その可能性は無に等しい。
となると……やっぱり、何かしらの嫌がらせの類だろうか。確かにアンドレアと接触すること自体、俺にとってはハイリスクでとっても嫌な出来事だけれど。
なんてことをむーんと考えながらアンドレアの反応を待つ。
とりあえず死にたくないので好きとか嬉しいとか心にも無いことを言って誤魔化してみたけれど、アンドレアの反応はどうだろうか。
「……。……そうか。好きか。嬉しいか」
……む?なんだこの妙な空気は……。
きもいこと言ってんじゃねーよチビ、くらいは言われると覚悟していたのに。
予想とは裏腹に、返ってきたのはなんだか妙にぽわぽわした空気と短くカタコトな反応。何がそんなに嬉しいのか、アンドレアの声音からは隠し切れない喜びさえ感じた。
「……抱っこくらい、俺でも出来る。いつでも言え」
ぽわぽわした雰囲気のままそう呟いたアンドレアは、何やら満足した様子で俺を地面に下ろしてくれた。よく分からんけど助かったぜ。
今の言葉には正直驚いたけれど、なるほど罠か、と今度はすぐに理解した。
これはアレだ。この言葉を鵜呑みにして『おにーさま抱っこー』なんて言ってしまった日には『抱っこなんてするわけねーだろバーカ』と嘲笑われ、恥を掻かされるに違いない。
ふぅ、危なかったぜ。俺ってばアンドレア……というより、血の繋がった家族からの抱っこの誘いに浮かれて勘繰りを放棄するところだった。
もう理解したから大丈夫。アンドレアに抱っこをせがむことは絶対にしない。よし、これでおーけーだ。
「わかりましたっ!寂しくなったら、ぜーったいお兄さまに抱っこをお願いしますっ!」
「……ん」
よしよし、と頭を撫でられピタッと硬直する。たとえ罠だとしても、まさかなでなでまでしてくれるとは思わなかった。
相手が自分を殺す主人公だと分かっていても、実の兄に頭を撫でられてぎゅーをしてもらった、という事実が胸の内を温かく火照らせる。
ぽっと赤く染まった頬をふにゃりと緩めると、それを間近で見たアンドレアが真ん丸に目を見開いて息を呑んだ。
バッ!と突然俯いたアンドレアに首を傾げるが、その表情は隠されていて全く見えない。
仕方なく覗くことは諦めて後退ろうとした瞬間、ふとあることを思い出し、慌ててアンドレアの肩を掴んだ。
「そ、そうだっ!お兄さま、ケガはありませんかっ!?ぼくを助けるために湖に……!」
ふと走馬灯みたいに思い出したのは、湖に落ちて意識を失う直前に見えたアメジストの瞳。
慌ただしくひょいひょいっと動いてアンドレアの全身を確認する。見る限り目立った傷はなさそうだけれど……本当に大丈夫なのかな、俺を助ける時に無理をしたとか……。
アンドレアを助ける為に動いたのに、俺は結局展開を変えることは出来なかった。
アンドレアは湖に飛び込む破目になったし、むしろ展開は原作よりも悪化したと言っていいだろう。本来濡れるはずなかった俺までずぶ濡れになってしまったのだから。
「……何故俺の心配をする。落ちたのはお前だろう」
ぴんっと額を突っつかれて「ぴゃっ!」とおかしな声を漏らす。
ちょっぴり赤くなった額を指先でさすさすしながら、ついさっきまで浮かべていたしょんぼり顔をふにゃりと微笑みに変えた。
「ぼくはお兄さまを守りたかっただけだから、ぼくのことはいいんですっ!」
無表情が珍しく驚いたような顔に変わる。
あのアンドレアを揺さぶることが出来た、という事実に自信が湧いて、思わずふふんっとドヤ顔を浮かべながら言葉を続けた。
「お兄さまにケガがなくて、本当によかった!」
柔らかく綻んだアンドレアの表情に、微かな愛情のようなものを感じたのは……。
「──……本当に、馬鹿な奴だ」
全部、きっと都合の良い錯覚だ。そう自分に言い聞かせて、温かく火照る心には気付かないフリをした。
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