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10 焦燥 ~海棠~
しおりを挟む正輝が何者かに連れ去られた。
その一報を受けて、私は動揺した。
彼をあのアジトの地下室に監禁していることを知っている者は少ない。
私の側近と、幹部の中でも二人ほどしか知らないはずだ。
私は出来る限り急いで帰った。
それでも仕事をひと段落させて戻れたのは、その報告を受けた翌日だった。
アジトに残っていた食事を担当していたものに確認をとると、彼は怯えたように土下座してきた。
幹部の一人に脅され、正輝の食事に睡眠薬を混ぜたらしい。
その幹部の名を聞いて、私は歯ぎしりした。
佐倉和之。先代から特に目をかけられて幹部になった男で、私が会長になってからも陰日向なく支えてくれていると思っていた。
だから信用して、正輝を監禁していることを知らせていた。
当然、苦言を呈してきたが・・・。
当たり前だ。刑事を監禁することはリスクが高い。
私を思っての諫言だったとは思っている。
私もいつまでも正輝を監禁するつもりはなかった。
沢渡組の一件が片付いてから、開放するつもりだった。
その男が勝手に正輝を連れ出した...。
すぐさま佐倉を呼び出したが、掴まらない。
私は念のため、沢渡組の動きも探らせた。
以前から監視はさせていたが、主だったものだけでなく下っ端の動きも調べさせた。
すると、下っ端の男たちが港の廃倉庫に入り浸っているという。
更に調べさせると、その廃倉庫は沢渡組の闇金部門が素人のAV撮影に使用している場所らしい。
そこに誰かを連れ込んで、撮影しているらしいとのこと。
ただ、それにしては組のチンピラたちの出入りが多いそうだ。
素人の女相手にその手の撮影をするなら、男数人で事足りる。
だが、十~二十人ほどが出入りしていると聞いて、嫌な予感がした。
更に調べさせた部下からの報告に、正輝がそこに囚われていると確信した私は、自ら組員を引き連れて向かった。
廃倉庫を襲撃し、沢渡組のチンピラどもを伸していった。
廃倉庫の中に作られた小部屋。この中に正輝が・・・?
部下が鍵もかかっていない扉を勢いよく開いた先に見えた光景に、私は我を忘れそうになった。
部屋の中心で巨漢の男に貫かれ、引き裂かれている正輝を見た瞬間、私は巨漢を殴りつけ、正輝を抱きしめた。
「・・・正輝っ!」
腕の中の正輝に反応はなく、目の焦点はあっていない。
「遅くなって・・・すまなかった」
聞こえていたかどうか判らないが、身じろぎすらせず正輝は目を閉じた。
力なく、たった二日でやせ細った身体。
身体中精液まみれで、どんな目にあったのか容易に察せられた。
このまま連れ帰りたい心を押さえつけ、私は正輝の同僚に知らせるよう、側近に指示した。
黄龍会にも子飼いの医者はいるが、明らかにヤクを使用された形跡のある正輝は警察病院に任せたほうがよい。
断腸の思いで、私は現場を後にした。
沢渡組・・・どう処理してくれようか。
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