4 / 10
第4話 エデンデマイズ
しおりを挟むドアの方を向いてみると、電話ボックスを教えてくれた赤髪の女性が。
「あら、どうだった?」
やけにニヤニヤしているが、俺の姿を見てわかったらしく、声をかけてくれた。
もしかしてこの人酔ってるのか? 顔は赤くないけど。
「アステガは行けないらしいです」
「そう、でもここはアステガじゃないわよ」
どういう事だ?
「え?」
女性がクツクツ笑い始める。手で上品に口元を隠しているのは幸い。
俺はようやく、騙されたことに気づいた。
「本当はエデンデマイズ、日本語で言うと普通の街よ」
「嘘ついたのか……!」
「まあまあ落ち着いて、どうせコインは1枚か2枚がいい所でしょう? その程度じゃ通話はそんなに出来ない」
「…………」
たしかにその通りだ、他人の助け無しでは出れなくなるかもしれない。ログアウトは出来ても、初めからになる。
普通の街ということは、ある程度の強さが必要で段階的に厳しくなる位置にある。レベリングがこの辺で始まるのはどんなゲームでも鉄板だ。
「どう? 私の肉壁になるつもりはない? ギルドカードはもちろん、その友達との通話用硬貨も出してあげる」
「つまり、ナイトをしろっていうのか?」
「クラスは好きなの使っていいわ、肝心のとあるクエストをクリアしたくてね……」
どうして俺なんかを拾うんだ、普通の街だろ。他にもユーザーはいてもいいはずだ。
実際に辺りを見回してみると、クラスが見える人が好きな様に過ごしている。
しかし、闇雲に聞き返して話が無くなったら……目も当てられない。
「分かった、初心者だから色々教えてくれよな」
素直に引き受けよう。
「はいはい、さっさとギルドカード作るわよ」
「よろしく、ヴァイパー」
「初心者だったら、さんくらい付けたらどう?」
「絶対にイヤだな」
不機嫌になられたヴァイパーの後を追いながら、どうして初心者の俺をクエストに誘うのか考えてみた。
明らかに強そうなプレイヤーを見ていると、なんらかの条件が働いて俺を選んだのかもしれない。だが、白線を辿るような重心がブレない歩き方をするヴァイパーに、そんな都合があるようには見えなかった。
どうして見えないかって? なんとなくだな、最初に俺を騙した違和感もあるけど。
仮定の話だが、俺を知っているとしたらどうだろう。アバターは、現実そっくりの俺だ。
どう考えても、知り合いならすぐわかってしまう。
タイミング良くVR機器をくれた姉が俺に気づき、助け舟を出していたり……なんてな。モノは試しだ。
「ヴァイパーって弟とか妹居る?」
俺はカマをかけてみることにした。
「突然ね……言うわけないでしょ」
ヴァイパーは見向きもせずに歩く速度を早めた。初心者の俺は駆け足で近寄る事が限界だ。
そんなに怒らなくてもいいだろ。
「待ってくれよ、俺のレベルは多分1なんだぞ」
「変な事言うから」
「いやーそれにしてもさ……」
血縁関係は聞けそうにない、俺だけが知る姉の秘密を出してみよう。
「ヴァイパーのパンツってクマ柄しかないよな?」
「殺すわよ?」
数歩離れてたのに、急に近づくや否、胸ぐらを掴まれてしまった。ゲーム的な補正が掛かっているのか、俺の体は容易く持ち上がり、ランニングシャツに亀裂が入る。
「悪かったって! シャツがちぎれる!」
「また冗談言ったらPK持ち込むわ」
「で、合ってる?」
「合ってるわけないでしょう?」
ヴァイパーの右手が腰の柄を握りしめていた。
「すみません」
俺は祈るように謝った。
もしかしたら、本当に姉じゃないかもしれない。とても申し訳ないことをした気がする。
「そんなことより、ギルドカードってどこで作るんだ」
「ここ」
不機嫌なのか、一言と共に顎でしゃくられた。大きな建物が立っていて、丁寧にギルド荘って書いてある。
「ギルドカードってお金かからないよな?」
「かかるわよ」
「どこまで初見殺しなんだ」
ユーザーだと認められる手段まで金を取るのか。
「言っとくけど、あの居酒屋はギルドカードを作ってないだけで全員プレイヤーよ」
「無くてもいいじゃねえか」
「クエストを受けれないからかなり困るんだけどね」
「必須か……いくら?」
「5万ガール」
俺は絶望した。今、手に持っているコインは1ガール程度の価値だということにも絶望したし、これからこき使われる事にも絶望した。
ヴァイパーに前借りという形で払ってもらうことになった。
今気づいたんだが、ヴァイパーが最初にくれたコインと今払われたコインの色が違う。最初から通話用通貨だったんだな。
「助かる」
「その気持ちがあるだけマシね」
ギルドアンケートに作成の為に必要な情報を打ち込んでいく。名前、クラス、性別、カードの色、ちなみに絶対要らないであろう性癖という項目があった。
「へー、リュウキって言うのね」
「あっすみません、カードの色は青で……え? 性癖って必要項目なんですか?」俺は必須項目に驚きつつ、後ろを向いた「悪いか?」。
ヴァイパーの素っ気ない返事をよそに性癖について考える。恥ずかしくないモノを書かないとな……。
恥ずかしくないものってなんだ?
堂々と書かないことが恥ずかしいと俺は思う。
「じゃあこれで」
「それでは、アンケート回答を繰り返させていただきます!」
女性のギルド役員はにっこり笑ってから息を大きく吸う。
「は? 繰り返すなよ! おいやめ」
繰り返す事は聞いてない!
「名前、リュウキ。
クラス、アタッカー。
性別、男。
カードの色、青。
性癖、スカトロ全般!!
以上でよろしいですか?」
後ろのヴァイパーは盛大に吹き出した。
「良いから早く作れ……!」
役員が引っ込んだあと、思いっきりヴァイパーを睨んだ。
「フフッ、アハハハ!」
人目もはばからずに一段と高い声で笑われたらうるさく感じる。CPUギルド役員しか居ないけど、CPUにまともだと思われないのは恥ずかしい。
「いつまで笑ってるんだ」
「だってスカ、スカ……意外ねふふっ」
言いきれずに、口元を隠して笑い始めるヴァイパーに腹が立つ。この復讐はいつかしよう。
だが、その前にログアウトがしたい。その意思は伝えておく。
「もう勝手に笑ってていいけど、俺はログアウトするぞ」
「ギルドカードは代わりに受け取るから安心して、スクリーンショットしてから返すわね」
「クソ野郎だな」
俺はメニューウィンドウを呼び出す。このメニューでは、装備を変えたり、所持品を確認する事が出来る。その下のオプションからログアウトが可能って今さっき説明文が。
キャラメイクの段階で教えて欲しかった。
オプションを押し、ログアウトボタンを押す。
【ログアウトできませんでした】
「なっ……!」
「どうしたのかしら?」
偶然だと思い、連打してみる。
【ログアウトできませんでした】
【ログアウトできませんでした】
【ログアウトできませんでした】
まさか、メンテナンスの時間だったのか! 見たかったドラマの再放送があるのに!
俺は縋るようにヴァイパーを見た。
「ヴァイパー……ログアウト出来ない」
0
あなたにおすすめの小説
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる