誰も火力をやりたがらないVRMMO

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第4話 エデンデマイズ

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 ドアの方を向いてみると、電話ボックスを教えてくれた赤髪の女性が。

「あら、どうだった?」

 やけにニヤニヤしているが、俺の姿を見てわかったらしく、声をかけてくれた。

 もしかしてこの人酔ってるのか? 顔は赤くないけど。

「アステガは行けないらしいです」

「そう、でもここはアステガじゃないわよ」


 どういう事だ?


「え?」

 女性がクツクツ笑い始める。手で上品に口元を隠しているのは幸い。

 俺はようやく、騙されたことに気づいた。


「本当はエデンデマイズ、日本語で言うと普通の街よ」

「嘘ついたのか……!」

「まあまあ落ち着いて、どうせコインは1枚か2枚がいい所でしょう? その程度じゃ通話はそんなに出来ない」

「…………」

 たしかにその通りだ、他人の助け無しでは出れなくなるかもしれない。ログアウトは出来ても、初めからになる。

 普通の街ということは、ある程度の強さが必要で段階的に厳しくなる位置にある。レベリングがこの辺で始まるのはどんなゲームでも鉄板だ。



「どう? 私の肉壁になるつもりはない? ギルドカードはもちろん、その友達との通話用硬貨も出してあげる」

「つまり、ナイトをしろっていうのか?」

「クラスは好きなの使っていいわ、肝心のとあるクエストをクリアしたくてね……」

 どうして俺なんかを拾うんだ、普通の街だろ。他にもユーザーはいてもいいはずだ。

 実際に辺りを見回してみると、クラスが見える人が好きな様に過ごしている。

 しかし、闇雲に聞き返して話が無くなったら……目も当てられない。


「分かった、初心者だから色々教えてくれよな」

 素直に引き受けよう。

「はいはい、さっさとギルドカード作るわよ」

「よろしく、ヴァイパー」

「初心者だったら、さんくらい付けたらどう?」

「絶対にイヤだな」


 不機嫌になられたヴァイパーの後を追いながら、どうして初心者の俺をクエストに誘うのか考えてみた。

 明らかに強そうなプレイヤーを見ていると、なんらかの条件が働いて俺を選んだのかもしれない。だが、白線を辿るような重心がブレない歩き方をするヴァイパーに、そんな都合があるようには見えなかった。

 どうして見えないかって? なんとなくだな、最初に俺を騙した違和感もあるけど。


 仮定の話だが、俺を知っているとしたらどうだろう。アバターは、現実そっくりの俺だ。

 どう考えても、知り合いならすぐわかってしまう。

 タイミング良くVR機器をくれた姉が俺に気づき、助け舟を出していたり……なんてな。モノは試しだ。

「ヴァイパーって弟とか妹居る?」


 俺はカマをかけてみることにした。


「突然ね……言うわけないでしょ」

 ヴァイパーは見向きもせずに歩く速度を早めた。初心者の俺は駆け足で近寄る事が限界だ。

 そんなに怒らなくてもいいだろ。


「待ってくれよ、俺のレベルは多分1なんだぞ」

「変な事言うから」

「いやーそれにしてもさ……」

 血縁関係は聞けそうにない、俺だけが知る姉の秘密を出してみよう。

「ヴァイパーのパンツってクマ柄しかないよな?」

「殺すわよ?」

 数歩離れてたのに、急に近づくや否、胸ぐらを掴まれてしまった。ゲーム的な補正が掛かっているのか、俺の体は容易く持ち上がり、ランニングシャツに亀裂が入る。

「悪かったって! シャツがちぎれる!」

「また冗談言ったらPK持ち込むわ」

「で、合ってる?」

「合ってるわけないでしょう?」

 ヴァイパーの右手が腰の柄を握りしめていた。

「すみません」

 俺は祈るように謝った。



 もしかしたら、本当に姉じゃないかもしれない。とても申し訳ないことをした気がする。

「そんなことより、ギルドカードってどこで作るんだ」

「ここ」

 不機嫌なのか、一言と共に顎でしゃくられた。大きな建物が立っていて、丁寧にギルド荘って書いてある。

「ギルドカードってお金かからないよな?」

「かかるわよ」

「どこまで初見殺しなんだ」

 ユーザーだと認められる手段まで金を取るのか。

「言っとくけど、あの居酒屋はギルドカードを作ってないだけで全員プレイヤーよ」

「無くてもいいじゃねえか」

「クエストを受けれないからかなり困るんだけどね」

「必須か……いくら?」

「5万ガール」

 俺は絶望した。今、手に持っているコインは1ガール程度の価値だということにも絶望したし、これからこき使われる事にも絶望した。

 ヴァイパーに前借りという形で払ってもらうことになった。

 今気づいたんだが、ヴァイパーが最初にくれたコインと今払われたコインの色が違う。最初から通話用通貨だったんだな。

「助かる」

「その気持ちがあるだけマシね」

 ギルドアンケートに作成の為に必要な情報を打ち込んでいく。名前、クラス、性別、カードの色、ちなみに絶対要らないであろう性癖という項目があった。

「へー、リュウキって言うのね」


「あっすみません、カードの色は青で……え? 性癖って必要項目なんですか?」俺は必須項目に驚きつつ、後ろを向いた「悪いか?」。

 ヴァイパーの素っ気ない返事をよそに性癖について考える。恥ずかしくないモノを書かないとな……。


 恥ずかしくないものってなんだ?

 堂々と書かないことが恥ずかしいと俺は思う。


「じゃあこれで」

「それでは、アンケート回答を繰り返させていただきます!」

 女性のギルド役員はにっこり笑ってから息を大きく吸う。

「は? 繰り返すなよ! おいやめ」

 繰り返す事は聞いてない!


「名前、リュウキ。
 クラス、アタッカー。
 性別、男。
 カードの色、青。
 性癖、スカトロ全般!!

 以上でよろしいですか?」


 後ろのヴァイパーは盛大に吹き出した。

「良いから早く作れ……!」

 役員が引っ込んだあと、思いっきりヴァイパーを睨んだ。

「フフッ、アハハハ!」

 人目もはばからずに一段と高い声で笑われたらうるさく感じる。CPUギルド役員しか居ないけど、CPUにまともだと思われないのは恥ずかしい。

「いつまで笑ってるんだ」

「だってスカ、スカ……意外ねふふっ」

 言いきれずに、口元を隠して笑い始めるヴァイパーに腹が立つ。この復讐はいつかしよう。

 だが、その前にログアウトがしたい。その意思は伝えておく。

「もう勝手に笑ってていいけど、俺はログアウトするぞ」

「ギルドカードは代わりに受け取るから安心して、スクリーンショットしてから返すわね」

「クソ野郎だな」

 俺はメニューウィンドウを呼び出す。このメニューでは、装備を変えたり、所持品を確認する事が出来る。その下のオプションからログアウトが可能って今さっき説明文が。


 キャラメイクの段階で教えて欲しかった。



 オプションを押し、ログアウトボタンを押す。


【ログアウトできませんでした】


「なっ……!」

「どうしたのかしら?」

 偶然だと思い、連打してみる。
 

【ログアウトできませんでした】

【ログアウトできませんでした】

【ログアウトできませんでした】


 まさか、メンテナンスの時間だったのか! 見たかったドラマの再放送があるのに!


 俺は縋るようにヴァイパーを見た。

「ヴァイパー……ログアウト出来ない」









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