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さあ、決戦の日だ!
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合コンの日はあいにくの雨になった。急に大気が湿っぽくなり、それでも店につくまでには降られないだろうとたかをくくったが、結局は間に合わなかった。
僕は二階にあがる細い階段を昇りながら、ハンカチで拭いていく。とてもじゃないが拭ききれないと思いつつ。
店のドアを開けて、左手のテーブル席に目をやると、すでに皆さん御揃いのようで。
僕は知り合いのオーナーに軽く挨拶をして、テーブルに向かう。
座る前に、皆さんに謝辞を述べる。
「すみません、遅れてしまって。今日はよろしくお願いします」
女性陣からのよろしくお願いしますとの声を聞きながら、角さんと西さんの間に座る。座りながら、何で真ん中開けてんの? ちょっとは場を温っめといてよと、遅れた分際で心の中で呟く。
だが、座って顔をあらためて女性陣に向けた時、この配置に感謝した。こんな場所での感謝は一つしかない。目の前の女性があまりにもタイプ過ぎたのだ。年齢は三十代後半、細身で影のある美人。僕はこういうタイプに目がないし、それに滅法強い。また心の中で呟く。気を利かせてくれてありがとうございますと。
乾杯も終わり、料理も運ばれてきて、一通りの自己紹介に入った。
ここでの仕切り役は必然的に僕であった。何故なら、角さんは酒が入らないと喋らないスロースターターだし、西さんは大人の男風に斜に構えるから。
先ずは、左隣の角さんを紹介する。
「こちらは、前に僕が勤めていた会社の先輩の角田さんです」
「角田です。よろしく。アンちゃんの先輩で飲み仲間です」
さすがスロースターター。淡白な自己紹介ありがとうございました。
声にはもちろん出さずに、右隣の西さんの紹介に移る。
「こちらは、西山さんです」
「西山です。大学の研究室で働いてます。今日はよろしくお願いします。アンマスの店の常連です」
西さんは今日も決まっていた。薄い青のセットアップにインナーは黒のTシャツ。胸にはもちろんチーフも。夏が始まるこれからの時期を意識したのだろう。
女性陣の研究者だってというもの珍しげな声をよそに僕は思う。それにしてもまた買ったんですか。
最後は僕の紹介である。
「この近くで、アンソニーというバーをやってる、近藤と申します。今日はよろしくお願いします」
女性陣から納得の声があがる。
「だからアンちゃんとか、アンマスなんですね」
目の前の女性からの声に、僕はラッキーとばかりに食いつく。
「そうなんです。誰も名前で呼んでくれなくて。皆さんも好きに呼んでください」
そうすると目の前の女性がまた話しかけてきた。あれ? 何か幸先良いのか?
「何でお店の名前はアンソニーなんですか? 」
「僕の好きなバンドのボーカルの名前です」
女性は目を輝かせて、僕の好きなバンドの名前をドンピシャで当てて、私も好きなんですと返してきた。
僕は両隣の刺すような視線を感じながらも、余裕の態度で女性陣に自己紹介を求める。今日は絶対いける。
女性陣は角さんの対面から始まった。
「佐々木です。今日はよろしくお願いします。仕事は販売員です」
佐々木さんは通りの良い明るい声で紹介を終えた。ひょっとしたら、この人が女性陣の仕切り役かもと僕は察した。まあ、始まったら分かることだが。
次は僕の対面。見た瞬間に僕の本命の女性の紹介に。
「斉藤です。佐々木さんと同じ販売員です。社は違うんですけど、同じフロアで働いてます」
なるほど。デパートですね。佐々木さんはアクセサリー系、斉藤さんは化粧品系とみた。
それにしても美しい。今年で三十になる僕よりも、ヘタをすると十近く上かもしれないが、なに。まったく問題ない。
最後は西さんの対面の少し地味目な女性の自己紹介が始まった。僕の読みでは看護士とみた。
「新井と申します。看護士をやっております」 やはり。今日は勘が冴えている。
新井さんの短い自己紹介の中にも、育ちの良さを感じさせる物言いを聞き終えながら、ますます今日の成功を確信する。この勘の冴えと、斉藤さんとの始まりの会話の良い流れ。今日はいかせていただきます。端からみれば愚にもつかない根拠を信じて、僕は心の中で笑った。
大分皆さんお酒も入り、角さんもエンジンがかかり始めて来た。
西さんはまだ斜に構え中。
女性陣との会話も滞りなく弾み始めてきた。女性陣の仕切り役はやはり佐々木さんだった。会話の入りかたも上手いしノリもいい。
斉藤さんは僕との会話をメインにお酒の飲みもいい。あれ?本当にいけるかも。
新井さんは上品に料理を食べながら、みんなの話を聞いている感じ。
ちょっと全体の一体感が欲しいかな。バラけるにはまだ早すぎる。
僕は話の流で女性陣に質問した。
「まあ、見ての通り僕らは彼女いなそうでしょ?もうどれくらいいないか忘れたけど、皆さんは因みにいつくらいまでいたんですか? 何か普通にいそうなんだけど」
この質問に西さんが噛みついてきた。
「アンマス何でそんなこと聞くの? どうでもいいだろ。俺は合コンの場で女性が本当のこと言うとは思わないし、別に言わなくてもいいし、その質問くだらなくない? 」
「いや、流でなんとなく聞きました。あれ? 駄目ですか? 」
僕は答えながら、この人は何を当たり前のことをと憤る。そんなのは言われなくても分かってますよ。本当のことなんてどうでもいいんですよ。要は流れでしょ! 会話なんて、とりとめのない無駄話の積み上げで構築していけばいいし、無駄のない会話はその後に本命とするもの。無駄が無いと疲れるでしょ!
とは思ったものの、場面的には一応謝る。
「すいませんでした。まあ、確かに余計なことですね」
言い合って空気が悪くなるのもなんだしね。
とはいっても、やはり空気は冷える。そんな所に救いの手を差し伸べてくれたのは斉藤さんだった。
「いいよ。別に話すよ。どれくらいかな? 多分二年近くかな」
斉藤さんはにこやかに答えてくれた。場も拾って上手く収めてくれる。なんていい女なんだ。
斉藤さんの話をかわきりに、二人が続けて答えてくれた。地味な新井さんも乗ってきたことは嬉しい。これでまた温まるだろう。
女性に聞けば当然男性にも返ってくる。
最初に口を開いたのは角さんだった。
「俺はそうだなあ。アンちゃんどんくらい前だっけ? 」
始まりました。角さんのいつもの手。自分で語るとモテ自慢になるから、僕に語らせて嫌味なく間接的にモテ自慢をする。でも、それも十分嫌味だと思うけど。
まあ、言えと言われれば言いますとも。
「角さんは、確か一年半くらい前でしょ? ほら、ダンス教えてたハンガリー人の彼女と」
女性陣はハンガリー人の彼女に盛り上がった。東京ならいざ知らず、地方でハンガリー人は珍しい。
それをおとした俺ってスゴくない的な雰囲気を出しながら角さんは口を開く。
「まあ、結局駄目だったし、やっぱり日本の女性がいいよね。それにしても、アンちゃんは俺のこと何でも知ってるなあ」
最後に僕との仲良いアピールも入れて話を切った。いや、言わせたのはあなたでしょ?と突っ込みをいれたいが、そこは我慢。でも、最後の言葉は素直に嬉しい。実際仲良いしね。
ここは順番的には僕だろうと、話始めた瞬間に、西さんがいきなり被せてくる。
「アンマスの前カノ、本当に綺麗でさ。俺ビックリしたよ。ね、アンマス」
いや、こっちがビックリしたよ。何をいきなり。今そんな話するかね。
僕が話そうとするのを更に遮り、西さんは続ける。
「この間のかわいい彼女とも温泉行ったんだろ? 」
もはや怒りすらなまぬるい。殺意が芽生える。
僕は、角さんみたいにモテ自慢するタイプじゃないし、それじゃあ、僕は顔で彼女を選んでるみたいじゃないか。人には攻め方見せ方があるでしょ。僕と角さんは違うんだよ!
しかし、女性陣がやっぱり顔なんだと言い始めたので、僕は答える。
「顔云々は人それぞれなんで、何とも言えないですけど、それぞれ良い人でしたよ」
僕は更に続ける。
「でも、やっぱり顔で選ぶかな。性格もそうだけど、自分が良いと思った顔や性格だったら、ほかが何と言っても関係ないしね」
上手く収めたつもりでいたら、斉藤さんがすかさず聞いてきた。斉藤さん。僕に興味がおありですか?
「何で良い人なら別れたの? 」
まあ、そう来るよね。西さんのせいで、僕は一銭にもならない切り売りをさせられる。こういうのはもっとゆっくり、マンツーマンで本命と話したいのに。
「まあ、この歳になると結婚観とかですかね。前は、向こうがバツイチだったのでゆっくりしたいってのと、この前はつきあって一ヶ月で結婚したいと。その一ヶ月の間にあったの三回ですよ。何もわかんないでしょ? 」
斉藤さんは更に突っ込んで聞いてくる。兆候が読めない。今はタイトロープなのか?
「でも、回数や期間は関係ないでしょ? 即結婚する人達もいっぱいいるし」
「それはそうなんでしょうけど。もちろん結婚はしたいけど、僕はある程度時間が欲しいです。だって勢いで結婚っていう歳でもないでしょ? ゆっくりし過ぎも駄目でしょうけど、何て言うか、お互いがちょうど良い期間というか。」
斉藤さんが僕の答えに納得したかどうかは定かではなかったが、僕の番はなんとなく終わった。
さて、西さん。それ相応の覚悟はできてるんだろうね?
自分の番になった西さんは一言で言葉を詰まらせた。
「俺は…」
暫しの沈黙。そうだ。西さんは僕も分からない。突っ込みようがない。さすがに今まで恋愛経験がなかった訳ではないだろうが。更に言うと、この間の彼女は恋愛だったのか?
西さんは葛藤していたのだろう。あまりにも前の恋愛話をしても、それから何もないモテない男と取られるかもしれないしと。
なら、この間の彼女とのことを恋愛話として話せばいいのにと僕は思った。そうすれば、僕が上手く乗ってあげるのに。
でも西さんは話さないだろうなとも思う。何故なら、西さんは空気の読めないまじめ人間だから。
西さんは不器用である。空気も読めないから、自分の思ったことをすぐに口にだしてしまう。
自分では良かれと思って出る言動。それが他人にどう取られるかを考えて器用に動くことができない。
そして厄介なことに、それなりにプライドもあるから、自分を落としめに語ることもできない。カッコ悪く見られたくないのだ。
かといって、自分の中でなかったことは言えない。つまり、彼女とのことは西さんも恋愛とは捉えていないのだ。
まったくもって面倒臭い男である。僕に対する今日の会話も、まったく悪気がない。思ったことを口にして、西さんなりに場を盛り上げようとしただけである。
だから僕は西さんを嫌いにはなれない。と思いたいのだが。
西さんが黙りこんでいるのを見兼ねかねたように、斉藤さんが口を開く。
「いや、別に無理に話さなくてもいいよ。違う話にしようか」
斉藤さん、本当にありがとう。なんて優しいんだと思いながら、僕は席を立った。
「すいません。ちょっとお手洗いに。帰って来るまで盛り上げお願いします」
僕は二階にあがる細い階段を昇りながら、ハンカチで拭いていく。とてもじゃないが拭ききれないと思いつつ。
店のドアを開けて、左手のテーブル席に目をやると、すでに皆さん御揃いのようで。
僕は知り合いのオーナーに軽く挨拶をして、テーブルに向かう。
座る前に、皆さんに謝辞を述べる。
「すみません、遅れてしまって。今日はよろしくお願いします」
女性陣からのよろしくお願いしますとの声を聞きながら、角さんと西さんの間に座る。座りながら、何で真ん中開けてんの? ちょっとは場を温っめといてよと、遅れた分際で心の中で呟く。
だが、座って顔をあらためて女性陣に向けた時、この配置に感謝した。こんな場所での感謝は一つしかない。目の前の女性があまりにもタイプ過ぎたのだ。年齢は三十代後半、細身で影のある美人。僕はこういうタイプに目がないし、それに滅法強い。また心の中で呟く。気を利かせてくれてありがとうございますと。
乾杯も終わり、料理も運ばれてきて、一通りの自己紹介に入った。
ここでの仕切り役は必然的に僕であった。何故なら、角さんは酒が入らないと喋らないスロースターターだし、西さんは大人の男風に斜に構えるから。
先ずは、左隣の角さんを紹介する。
「こちらは、前に僕が勤めていた会社の先輩の角田さんです」
「角田です。よろしく。アンちゃんの先輩で飲み仲間です」
さすがスロースターター。淡白な自己紹介ありがとうございました。
声にはもちろん出さずに、右隣の西さんの紹介に移る。
「こちらは、西山さんです」
「西山です。大学の研究室で働いてます。今日はよろしくお願いします。アンマスの店の常連です」
西さんは今日も決まっていた。薄い青のセットアップにインナーは黒のTシャツ。胸にはもちろんチーフも。夏が始まるこれからの時期を意識したのだろう。
女性陣の研究者だってというもの珍しげな声をよそに僕は思う。それにしてもまた買ったんですか。
最後は僕の紹介である。
「この近くで、アンソニーというバーをやってる、近藤と申します。今日はよろしくお願いします」
女性陣から納得の声があがる。
「だからアンちゃんとか、アンマスなんですね」
目の前の女性からの声に、僕はラッキーとばかりに食いつく。
「そうなんです。誰も名前で呼んでくれなくて。皆さんも好きに呼んでください」
そうすると目の前の女性がまた話しかけてきた。あれ? 何か幸先良いのか?
「何でお店の名前はアンソニーなんですか? 」
「僕の好きなバンドのボーカルの名前です」
女性は目を輝かせて、僕の好きなバンドの名前をドンピシャで当てて、私も好きなんですと返してきた。
僕は両隣の刺すような視線を感じながらも、余裕の態度で女性陣に自己紹介を求める。今日は絶対いける。
女性陣は角さんの対面から始まった。
「佐々木です。今日はよろしくお願いします。仕事は販売員です」
佐々木さんは通りの良い明るい声で紹介を終えた。ひょっとしたら、この人が女性陣の仕切り役かもと僕は察した。まあ、始まったら分かることだが。
次は僕の対面。見た瞬間に僕の本命の女性の紹介に。
「斉藤です。佐々木さんと同じ販売員です。社は違うんですけど、同じフロアで働いてます」
なるほど。デパートですね。佐々木さんはアクセサリー系、斉藤さんは化粧品系とみた。
それにしても美しい。今年で三十になる僕よりも、ヘタをすると十近く上かもしれないが、なに。まったく問題ない。
最後は西さんの対面の少し地味目な女性の自己紹介が始まった。僕の読みでは看護士とみた。
「新井と申します。看護士をやっております」 やはり。今日は勘が冴えている。
新井さんの短い自己紹介の中にも、育ちの良さを感じさせる物言いを聞き終えながら、ますます今日の成功を確信する。この勘の冴えと、斉藤さんとの始まりの会話の良い流れ。今日はいかせていただきます。端からみれば愚にもつかない根拠を信じて、僕は心の中で笑った。
大分皆さんお酒も入り、角さんもエンジンがかかり始めて来た。
西さんはまだ斜に構え中。
女性陣との会話も滞りなく弾み始めてきた。女性陣の仕切り役はやはり佐々木さんだった。会話の入りかたも上手いしノリもいい。
斉藤さんは僕との会話をメインにお酒の飲みもいい。あれ?本当にいけるかも。
新井さんは上品に料理を食べながら、みんなの話を聞いている感じ。
ちょっと全体の一体感が欲しいかな。バラけるにはまだ早すぎる。
僕は話の流で女性陣に質問した。
「まあ、見ての通り僕らは彼女いなそうでしょ?もうどれくらいいないか忘れたけど、皆さんは因みにいつくらいまでいたんですか? 何か普通にいそうなんだけど」
この質問に西さんが噛みついてきた。
「アンマス何でそんなこと聞くの? どうでもいいだろ。俺は合コンの場で女性が本当のこと言うとは思わないし、別に言わなくてもいいし、その質問くだらなくない? 」
「いや、流でなんとなく聞きました。あれ? 駄目ですか? 」
僕は答えながら、この人は何を当たり前のことをと憤る。そんなのは言われなくても分かってますよ。本当のことなんてどうでもいいんですよ。要は流れでしょ! 会話なんて、とりとめのない無駄話の積み上げで構築していけばいいし、無駄のない会話はその後に本命とするもの。無駄が無いと疲れるでしょ!
とは思ったものの、場面的には一応謝る。
「すいませんでした。まあ、確かに余計なことですね」
言い合って空気が悪くなるのもなんだしね。
とはいっても、やはり空気は冷える。そんな所に救いの手を差し伸べてくれたのは斉藤さんだった。
「いいよ。別に話すよ。どれくらいかな? 多分二年近くかな」
斉藤さんはにこやかに答えてくれた。場も拾って上手く収めてくれる。なんていい女なんだ。
斉藤さんの話をかわきりに、二人が続けて答えてくれた。地味な新井さんも乗ってきたことは嬉しい。これでまた温まるだろう。
女性に聞けば当然男性にも返ってくる。
最初に口を開いたのは角さんだった。
「俺はそうだなあ。アンちゃんどんくらい前だっけ? 」
始まりました。角さんのいつもの手。自分で語るとモテ自慢になるから、僕に語らせて嫌味なく間接的にモテ自慢をする。でも、それも十分嫌味だと思うけど。
まあ、言えと言われれば言いますとも。
「角さんは、確か一年半くらい前でしょ? ほら、ダンス教えてたハンガリー人の彼女と」
女性陣はハンガリー人の彼女に盛り上がった。東京ならいざ知らず、地方でハンガリー人は珍しい。
それをおとした俺ってスゴくない的な雰囲気を出しながら角さんは口を開く。
「まあ、結局駄目だったし、やっぱり日本の女性がいいよね。それにしても、アンちゃんは俺のこと何でも知ってるなあ」
最後に僕との仲良いアピールも入れて話を切った。いや、言わせたのはあなたでしょ?と突っ込みをいれたいが、そこは我慢。でも、最後の言葉は素直に嬉しい。実際仲良いしね。
ここは順番的には僕だろうと、話始めた瞬間に、西さんがいきなり被せてくる。
「アンマスの前カノ、本当に綺麗でさ。俺ビックリしたよ。ね、アンマス」
いや、こっちがビックリしたよ。何をいきなり。今そんな話するかね。
僕が話そうとするのを更に遮り、西さんは続ける。
「この間のかわいい彼女とも温泉行ったんだろ? 」
もはや怒りすらなまぬるい。殺意が芽生える。
僕は、角さんみたいにモテ自慢するタイプじゃないし、それじゃあ、僕は顔で彼女を選んでるみたいじゃないか。人には攻め方見せ方があるでしょ。僕と角さんは違うんだよ!
しかし、女性陣がやっぱり顔なんだと言い始めたので、僕は答える。
「顔云々は人それぞれなんで、何とも言えないですけど、それぞれ良い人でしたよ」
僕は更に続ける。
「でも、やっぱり顔で選ぶかな。性格もそうだけど、自分が良いと思った顔や性格だったら、ほかが何と言っても関係ないしね」
上手く収めたつもりでいたら、斉藤さんがすかさず聞いてきた。斉藤さん。僕に興味がおありですか?
「何で良い人なら別れたの? 」
まあ、そう来るよね。西さんのせいで、僕は一銭にもならない切り売りをさせられる。こういうのはもっとゆっくり、マンツーマンで本命と話したいのに。
「まあ、この歳になると結婚観とかですかね。前は、向こうがバツイチだったのでゆっくりしたいってのと、この前はつきあって一ヶ月で結婚したいと。その一ヶ月の間にあったの三回ですよ。何もわかんないでしょ? 」
斉藤さんは更に突っ込んで聞いてくる。兆候が読めない。今はタイトロープなのか?
「でも、回数や期間は関係ないでしょ? 即結婚する人達もいっぱいいるし」
「それはそうなんでしょうけど。もちろん結婚はしたいけど、僕はある程度時間が欲しいです。だって勢いで結婚っていう歳でもないでしょ? ゆっくりし過ぎも駄目でしょうけど、何て言うか、お互いがちょうど良い期間というか。」
斉藤さんが僕の答えに納得したかどうかは定かではなかったが、僕の番はなんとなく終わった。
さて、西さん。それ相応の覚悟はできてるんだろうね?
自分の番になった西さんは一言で言葉を詰まらせた。
「俺は…」
暫しの沈黙。そうだ。西さんは僕も分からない。突っ込みようがない。さすがに今まで恋愛経験がなかった訳ではないだろうが。更に言うと、この間の彼女は恋愛だったのか?
西さんは葛藤していたのだろう。あまりにも前の恋愛話をしても、それから何もないモテない男と取られるかもしれないしと。
なら、この間の彼女とのことを恋愛話として話せばいいのにと僕は思った。そうすれば、僕が上手く乗ってあげるのに。
でも西さんは話さないだろうなとも思う。何故なら、西さんは空気の読めないまじめ人間だから。
西さんは不器用である。空気も読めないから、自分の思ったことをすぐに口にだしてしまう。
自分では良かれと思って出る言動。それが他人にどう取られるかを考えて器用に動くことができない。
そして厄介なことに、それなりにプライドもあるから、自分を落としめに語ることもできない。カッコ悪く見られたくないのだ。
かといって、自分の中でなかったことは言えない。つまり、彼女とのことは西さんも恋愛とは捉えていないのだ。
まったくもって面倒臭い男である。僕に対する今日の会話も、まったく悪気がない。思ったことを口にして、西さんなりに場を盛り上げようとしただけである。
だから僕は西さんを嫌いにはなれない。と思いたいのだが。
西さんが黙りこんでいるのを見兼ねかねたように、斉藤さんが口を開く。
「いや、別に無理に話さなくてもいいよ。違う話にしようか」
斉藤さん、本当にありがとう。なんて優しいんだと思いながら、僕は席を立った。
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