国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます

海咲雪

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9.パーティー当日2

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私はただの嫌われ者ではない。

国民の生活を苦しめた「悪政の根源」

では、何故クーデターが起きないのか。

国王である父が王として国民に信頼されているから。

そして、国王がある程度私の我儘を抑えていると思っているから。

誰も私のことなど信頼していない。



本当は……皆、私が「処刑」されることすら望んでいる。



屋敷に閉じこもっていた時も、私を殺そうとしてきた者はいた。

屋敷の者が守ってくれていたことも。

分かっていたのに、その現実を突きつけられた気がした。

学園での生活に悪い意味で慣れてしまっていたのかもしれない。

立ち上がらないと。

前を向かないと。

会場に響いている罵声が……すぐ側で聞こえているはずの罵声が、何故か他人事のようにすら聞こえる。

そのはずなのに、手は震えていた。

顔から滴っているのはワインなはず……決して、涙であるはずがない。

早く立ち上がらないと、主催者にまで迷惑をかけてしまう。

いや、もうかけているか。

私が外に出るだけでこれだけの騒ぎになる。

それでも、屋敷にずっと閉じこもっているわけにはいかないの。

その時、会場の別の場所から「マリーナ様……!」とクロルの声が聞こえた。

きっとクロルは私を心配して、そばに来ようとしている。

クロルに守って貰ってばかりいては駄目。

私は立ち上がって、前を向いた。




「やめなさい。私はこの国の第一王女。無礼な真似は控えなさい」




顔を上げて、クロルに「大丈夫」と視線を送る。

私の言葉に周りの者たちは「どの口がっ!」と苛立っている。

それでも、ワインをかける手と髪を引っ張る手を止めることが出来た。

私は近くの使用人に声をかけた。


「ねぇ、貴方。ここを掃除してくれないかしら?」


私はワインで濡れた床を指差した。

使用人は私に呼ばれてビクッと肩を震わせたが、すぐに床を拭き始める。

どれだけ床を拭いても、濡れている私がこの場にいては会場が片付かない。

ドレスの替えはないし、私に貸してくれる者もいないだろう。

私はこの場から……この会場から去らなければいけない。

それでも、このまま去っては逃げるだけのように見えてしまう。

慌てているのに、頭の熱だけが冷めているように感じる。

頭の中で思考が巡っている。



好かれる人間とはなんだろう?

まず何故好かれなければいけないのだろう。

嫌われなければいけない理由は簡単だった。

嫌われるのは、ユーキス国を救うため。

好かれるのは、フリクに会いたい人に会わせて貰うため?

それだけじゃない。

嫌われたままは嫌だった。

もっと言えば、【誤解されたまま】嫌われるのが嫌だった。

私はリーリルに述べた自分の言葉を頭の中で繰り返した。





「私はね、相手が一番力を入れている時にその攻撃をやり返せるのならば、それが最も効果的だと思うわ」






【皆の視線が私に集中している今が好機だ】






私は顔を上げた。


「二年以内にユーキス国内で課税が行われたのは、二回。一度目の課税は三ヶ月間という期間の決まった課税だった。そして、去年行われた課税は今も続いている」

「一度目の三ヶ月間の課税はその年の冬の不作が予想されたから。事前に備えることが必要だった。去年行われた課税は、他国との貿易事業を広げるため」

「そうね……私だったら、去年の課税は行わないわ。貿易事業を広げるならば、別の交渉材料を用意しなければ長続きしないもの。この国だったら、まず縫製の分野が優れているから、そこに力を入れて……」


その時、周りにいた一人の貴族が声を上げる。





「急に何を言っている!」





私は微笑んだ。




「何を言っていると思う?」





「は?」





「私が噂とは違う人物であるという証明よ。信じるかは貴方たちが決めなさい」





私はそれだけ述べて、近くに様子を見に来ていらした主催のカートル公爵令嬢と婚約者のミクリード侯爵子息に一礼をした。



「お騒がせしましたわ。この度はご婚約おめでとうございます」



その様子を見て、先ほど私に話しかけた貴族は逆上した。

そして、私に空になったワインのグラスを投げつけた。




「舐めやがって!」



私はギュッと目を瞑ることしか出来なかった。

顔を守る仕草すら取る余裕がなかった。





ガシャン。




何故か痛みを感じない。

私がそっと目を開けると、目の前にクラヴィスが立っている。

グラスを使用人が持っていたトレイで弾き飛ばしたようだった。

そして、クラヴィスが私の方を向いた。




「助けて欲しい時は、助けてと声を上げないと駄目だ」




クラヴィスが、私の顔に滴るワインをハンカチで優しく拭いている。

その仕草に私はひどく安堵してしまった。
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