国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます

海咲雪

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12.深夜の訪問者

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婚約記念パーティーに参加した日の夜のこと。

私がベッドに入り、眠りにこうとした矢先のこと……




「調子はどうだ?」




「っ……!? フリク!」




フリクはいつも通り突然現れた。

「婚約記念パーティーでは大変そうだったね」

フリクはどこか他人事のように感じる言い方でそう述べた。

しかし、フリクの瞳の奥が少しだけ揺らいだようにも感じる。

私がベッドから上半身を起こすと、フリクは私の座るベッドの端に腰掛けた。


「クラヴィス・イージェルに出会えたのは幸運だったな」


フリクが月明かりに照らされている私の部屋を眺めている。

「クラヴィスには感謝しかないですわ……それでも、周りの者に助けて貰ってばかりの自分に嫌気が差すのです」

私に無理難題を押し付けたのはフリクであるはずなのに、全ての事情を知っているフリクにどこか安心感があって、私はついそうこぼしてしまった。

フリクがどこか不思議で、それでいて優しい雰囲気であることも大きいだろう。

フリクは私の言葉を聞いて、視線を少しだけ私に向けたがすぐにまた逸らした。



「そこで自分のことを迷惑だと思うのは違うんじゃない?」



「え?」



「周りの者は……いや、マリーナの味方は、マリーナを助けたいだけ。マリーナの役に立ちたいだけ。君のことが大切で、好きだから。それだけだろう?」



部屋も暗いので、フリクの表情はよく見えない。



「きっと君もそれだけの愛情を返している。それに、確か君がクロルに言っていたんだろう? 『守り合えば、最強』だと。補い合うようなそんな関係でありたいと」

「君は気づいていないかもしれないけれど、君が知らないうちに周りの者を救っていることもある。安心したらいい」



私に不思議な課題を押し付けたのはフリクであるはずなのに……彼は今、私を安心させる言葉を並べてくれている。



「ねぇ、フリク。貴方は……」



今、フリクはどんな表情をしているのだろうか。





「私の味方なの?」





「俺が味方かどうかは、マリーナ次第だろう。俺は……」





言葉の後半は、フリクがわざと聞こえないほど小さな声で話したのだと思う。



「マリーナ、噂を消すのは簡単じゃない。嫌われ者の印象を変えることは難しい」

「だから、行動を起こすことだ。皆に『自分は噂のような人物ではない』と伝えるような行動を」

「マリーナが身をもって分かっている通り、噂は勝手に大きく広がっていく。それは悪い噂だけでなく、良い噂もだ」



フリクの言葉に答えようとした瞬間、もうフリクはいなくなっていた。

自分が味方であるかは私の行動次第と言いながら、まるで答えのようなヒントを残していく。



「フリク、貴方は一体何者なの……?」



誰もいない部屋で呟いた声は、薄暗い部屋に消えていった。
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