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23.馬術大会4
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表彰式が終わり、会場を出た私は何故かクラヴィスの顔が見たくなって生徒たちが帰っていなくなった校舎を探していた。
クラヴィスも帰っている可能性が高いのに、どこか会える気もして。
そんな不思議な感覚に陥っていた。
しかし、先ほどいたテラスや教室を探してもクラヴィスの姿は見つからなかった。
最後にもう一度馬術大会の会場を見に行ったが、やはりクラヴィスを見つけることは出来なかった。
「帰っていて当たり前よね……」
私はついそう呟いてしまった。
「マリーナ、まだ帰っていなかったのか?」
っ!
後ろから声をかけられて、ビクッと体が震えた。
振り返れば、当たり前のようにクラヴィスが立っていた。
「クラヴィス……えっと……」
「どうした?何かあったのか?」
私は何故かクラヴィスから目を逸らしてしまう。
「クラヴィスを探していて……」
そこまで話してから、何故自分がクラヴィスを探していたのか分からないことに気づいた。
これではクラヴィスが困ってしまう。
私は慌てて付け足すように理由を述べた。
「クラヴィスに教えて頂けたおかげで優勝出来たので、お礼を言いたくて」
私の言葉にクラヴィスは不思議そうに少しだけ眉を動かした。
「優勝出来たのは、君が頑張ったからだ。それ以外の理由なんてないだろう?」
いつも通り、クラヴィスは私を救うような言葉を簡単に吐いてしまうのだ。
クラヴィスの優しさに救われて、感謝しかないのに返す方法がなくて。
その時、リーリルの言葉が頭をよぎった。
「一緒に街へ出掛けてはいかがですか?」
「クラヴィス様と一緒に街へ出掛けて、クラヴィス様へ練習のお礼でプレゼントを送るのもよろしいかなと」
「きっとクラヴィス様も喜ばれますよ」
リーリルの提案を聞いてからそのつもりだったのに、いざ誘うとなると緊張して心臓がドクドクと速くなっているのを感じる。
それでも、クラヴィスは当たり前のように私と目を合わせたまま、静かに私の次の言葉を待っている。
もう一度、クラヴィスと目が合うと緊張が解れたのが分かった。
「クラヴィス、今週の休みは空いていますか?」
「……? 空いているが」
「練習のお礼にささやかですが、お礼を贈りたいのです。一緒に街へ出かけませんか?」
その時、クラヴィスが「ははっ」と初めて会った時のように吹き出すように笑った。
「クラヴィス?」
「いや、可愛いデートのお誘いだと思って」
「っ! デートというわけでは……!」
「そうなの? 残念」
クラヴィスは私を揶揄うようにクスクスと笑ったままだった。
いつもクラヴィスだけ余裕な雰囲気がして、やっぱり悔しくて。
それでも、クラヴィスは「今週の休みは楽しみだ」と嬉しそうな顔を浮かべた。
馬術大会の夜、私は懐かしい夢を見た。
幼い私が泣き叫んでいる。
幼い私の側には、同い年くらいの男の子が倒れていて。
あの男の子は……無茶をした私を守ってくれた。
私を守って怪我をしたあの子は、無事だろうか。
生きているだろうか。
名前すら知らないあの日初めて会った男の子。
あの後、どれだけ探してもあの子を見つけることは出来なくて。
それでも、その時期に幼い男の子が近くで亡くなったという情報もなかった。
だからもしどこかで生きていてくれているのなら、どうかもう一度会って謝りたかった。
会って、お礼を言いたかった。
会って、元気な顔を見せて欲しかった。
そんな私に「一番会いたい人に会わせてもらえる」という提案はあまりに魅力的だった。
今でも、苦しそうに倒れながら私を見ているあの子の顔が思い浮かぶの。
あの子は苦しそうなのに、私にぎこちなく笑いかけるのだ。
「大丈夫だから」
眠っている私の目からは一粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙を拭うようにそっと誰かが私の顔に触れている感覚がする。
これは夢で、そんなことはあるはずがないのに。
「マリーナ、君は……」
途切れ途切れに聞こえた声に私はうっすらと目を開けた。
ぼやけた視界から見えたのは……
「フリク……?」
しかし、そう呟いて起き上がっても、もう部屋には誰もいなくて。
薄暗い私の部屋には、いつも通り月明かりだけが差し込んでいた。
クラヴィスも帰っている可能性が高いのに、どこか会える気もして。
そんな不思議な感覚に陥っていた。
しかし、先ほどいたテラスや教室を探してもクラヴィスの姿は見つからなかった。
最後にもう一度馬術大会の会場を見に行ったが、やはりクラヴィスを見つけることは出来なかった。
「帰っていて当たり前よね……」
私はついそう呟いてしまった。
「マリーナ、まだ帰っていなかったのか?」
っ!
後ろから声をかけられて、ビクッと体が震えた。
振り返れば、当たり前のようにクラヴィスが立っていた。
「クラヴィス……えっと……」
「どうした?何かあったのか?」
私は何故かクラヴィスから目を逸らしてしまう。
「クラヴィスを探していて……」
そこまで話してから、何故自分がクラヴィスを探していたのか分からないことに気づいた。
これではクラヴィスが困ってしまう。
私は慌てて付け足すように理由を述べた。
「クラヴィスに教えて頂けたおかげで優勝出来たので、お礼を言いたくて」
私の言葉にクラヴィスは不思議そうに少しだけ眉を動かした。
「優勝出来たのは、君が頑張ったからだ。それ以外の理由なんてないだろう?」
いつも通り、クラヴィスは私を救うような言葉を簡単に吐いてしまうのだ。
クラヴィスの優しさに救われて、感謝しかないのに返す方法がなくて。
その時、リーリルの言葉が頭をよぎった。
「一緒に街へ出掛けてはいかがですか?」
「クラヴィス様と一緒に街へ出掛けて、クラヴィス様へ練習のお礼でプレゼントを送るのもよろしいかなと」
「きっとクラヴィス様も喜ばれますよ」
リーリルの提案を聞いてからそのつもりだったのに、いざ誘うとなると緊張して心臓がドクドクと速くなっているのを感じる。
それでも、クラヴィスは当たり前のように私と目を合わせたまま、静かに私の次の言葉を待っている。
もう一度、クラヴィスと目が合うと緊張が解れたのが分かった。
「クラヴィス、今週の休みは空いていますか?」
「……? 空いているが」
「練習のお礼にささやかですが、お礼を贈りたいのです。一緒に街へ出かけませんか?」
その時、クラヴィスが「ははっ」と初めて会った時のように吹き出すように笑った。
「クラヴィス?」
「いや、可愛いデートのお誘いだと思って」
「っ! デートというわけでは……!」
「そうなの? 残念」
クラヴィスは私を揶揄うようにクスクスと笑ったままだった。
いつもクラヴィスだけ余裕な雰囲気がして、やっぱり悔しくて。
それでも、クラヴィスは「今週の休みは楽しみだ」と嬉しそうな顔を浮かべた。
馬術大会の夜、私は懐かしい夢を見た。
幼い私が泣き叫んでいる。
幼い私の側には、同い年くらいの男の子が倒れていて。
あの男の子は……無茶をした私を守ってくれた。
私を守って怪我をしたあの子は、無事だろうか。
生きているだろうか。
名前すら知らないあの日初めて会った男の子。
あの後、どれだけ探してもあの子を見つけることは出来なくて。
それでも、その時期に幼い男の子が近くで亡くなったという情報もなかった。
だからもしどこかで生きていてくれているのなら、どうかもう一度会って謝りたかった。
会って、お礼を言いたかった。
会って、元気な顔を見せて欲しかった。
そんな私に「一番会いたい人に会わせてもらえる」という提案はあまりに魅力的だった。
今でも、苦しそうに倒れながら私を見ているあの子の顔が思い浮かぶの。
あの子は苦しそうなのに、私にぎこちなく笑いかけるのだ。
「大丈夫だから」
眠っている私の目からは一粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙を拭うようにそっと誰かが私の顔に触れている感覚がする。
これは夢で、そんなことはあるはずがないのに。
「マリーナ、君は……」
途切れ途切れに聞こえた声に私はうっすらと目を開けた。
ぼやけた視界から見えたのは……
「フリク……?」
しかし、そう呟いて起き上がっても、もう部屋には誰もいなくて。
薄暗い私の部屋には、いつも通り月明かりだけが差し込んでいた。
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