魔術師アルガは、親友の夢の果てに何を見るか

椎名

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第七章:レイの残響、深淵の誘惑

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アルガたちは、迷宮から放たれる不穏な魔力の渦に耐えながら、さらに奥へと進んでいた。通路は次第に狭くなり、湿った空気が肌を刺す。壁には不気味な紋様が浮かび上がり、彼らの精神を削り取るかのように迫ってくる。
アリスが抱える魔力反応解析装置の針は、激しく振れ続けていた。
「魔力反応の波長が……まるで、生きているかのようです。これは、ただの残滓ではありません。何者かの明確な意思が、この迷宮全体に影響を及ぼしています!」
アリスの言葉は、アルガが感じていた予感を裏付けていた。この迷宮は、もはや単なる遺跡ではなく、何かに操られている。そして、その「何か」とは、やはりレイ・ブラッドなのか。
その時、彼らの足元に、突然、水の魔力で描かれた魔法陣が浮かび上がった。それはアルガの『霧散幻影』に似ているが、比べ物にならないほど複雑で、かつてないほどの濃密な魔力を放っていた。
「気をつけろ!これは罠だ!」
ユリウスが叫んだ瞬間、魔法陣からまばゆい光が放たれ、彼らの意識を奪うかのように視界を真っ白に染めた。
レイの甘い誘い
アルガの意識が朦朧とする中、再びレイの声が響く。
「アルガ……お前は、まだ俺を理解できないのか? あの時、俺が求めたのは、ただの力じゃない。失われた世界の真実、そして……お前たちを守るための、絶対的な力だった」
幻影の中で、かつての学生時代のレイが微笑む。しかし、その瞳の奥には、得体の知れない闇が宿っていた。
「俺は、お前たちを救いたかったんだ。この力があれば、もう誰も悲しまずに済む。お前が望む、自由な旅も、永遠に続く。さあ、手を伸ばせ、アルガ。お前が掴むべき真実は、ここにある」
レイの言葉は、アルガの最も深い願望に直接語りかけるように響いた。心が揺らぎそうになるのを必死に抑え、アルガは歯を食いしばる。
「黙れ、レイ!お前はそんなことを望んでいなかったはずだ!」
アルガが叫ぶと、幻影のレイの表情が歪み、空間が歪む。
仲間の支えと決意
その時、リアスの鋭い声が響いた。
「アルガ!惑わされないで!これは闇の遺物の誘惑よ!」
リアスは、ラミアに指示を出す。
「ラミア!精神安定の魔法薬を調合して!早く!」
ラミアは素早く調合道具を取り出し、リアスの指示通りに薬を完成させ、空間に散布する。その薬は、闇の遺物の魔力によって引き起こされる幻覚を一時的に打ち消す効果があった。
ルディとグスタフも、それぞれの指導役から学んだ実戦的な応用力を発揮していた。ルディは激しい旋風を巻き起こし、歪む空間の魔力を攪乱する。グスタフは堅牢な土の壁を築き、見えない攻撃から仲間を守った。
彼らの行動に、アルガの意識は完全に現実へと引き戻された。幻影のレイは、再び曖昧な霧へと溶けて消える。
「くそ……やはり、この迷宮はレイの残した魔力痕跡に反応しているのか……それだけじゃない。まるでレイが、監獄の中から迷宮そのものを操っているかのような……」
アルガは、複雑な思いを抱えながら、仲間の顔を見渡した。若き協力者たちは、すでに顔から恐怖の色を消し、真剣な眼差しで周囲を警戒していた。
リアスが、ラミアの調合した薬の効果を確認しながら言った。
「幻影の魔力は一時的に弱まったけれど、まだ迷宮全体にレイの魔力が深く根付いているわ。僕にはわかる。これは、レイ自身の魔力よ。ただの闇の遺物の力だけじゃない。彼が、監獄の中で、何らかの方法でこの迷宮と共鳴し、操っている可能性がある」
ユリウスが冷静に付け加える。
「だとすれば、レイの肉体は監獄にありながら、彼の精神あるいは魔力が、この迷宮を通して外界と繋がっている可能性を示唆している。これは、魔法医学的にも前例のない事態だ」
レオンが険しい顔で言った。
「つまり、俺たちはレイと戦ってるってことか? そんなこと、できるわけねぇだろ……」
アルガの瞳が、再び強く輝いた。
「いや、戦うんじゃない。俺たちは、レイの真意を突き止める。そして、もし彼が闇の遺物に囚われているのなら、必ず救い出す」
彼らの前には、これまで以上に深い闇が横たわっていた。しかし、互いを信じ、支え合う彼らの絆は、どんな誘惑にも屈することなく、迷宮の奥深くへと足を踏み入れていく。闇の魔法使いの目的、夢幻草の真の力、そしてレイ・ブラッドが抱える秘密――全ての謎が、この迷宮の最深部で明らかになるだろう。
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