魔術師アルガは、親友の夢の果てに何を見るか

椎名

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第八章:監獄の思惑、レイの執着

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深淵なるベルガール監獄の最奥、魔力抑制の鎖に繋がれたレイ・ブラッドは、冷たい石壁にもたれかかり、瞑想するように目を閉じていました。しかし、彼の心は決して静寂ではなかったのです。第七章でアルガたちを誘惑した幻影は、彼の意識の奥底から放たれたものでした。迷宮と共鳴する彼の魔力は、遠く離れた監獄の中にいながらも、その内部を、そしてアルガたちの動きを、まるで自分の手足のように感じ取っていたのでした。
(また、邪魔が入りましたね……)
レイの脳裏に、あの時の光景が蘇ります。闇の遺物に触れた瞬間の、抗いようのない魔力の奔流。その力に溺れ、親友たちの制止も聞かずに暴走した、己の愚かさ。
「私は、ただ……皆を守りたかっただけなのです……この力で、私に逆らう者も、危険を冒す者も、全て排除する。それが、真の平和をもたらす唯一の道だと信じています……」
声に出すことも許されない監獄の中で、レイは喉の奥で呟きました。かつて、彼は誰よりも強くなることを望みました。大切な仲間たち、そして何よりも愛するアルガを守るため、どんな力でも手に入れようと。しかし、その歪んだ願いが、彼を闇の遺物へと誘い、取り返しのつかない悲劇を生んだのです。そして今、彼はその悲劇の再発を防ぐため、あるいは自分と同じ苦しみを味わわせないために、彼らを「排除」しようとしているのです。
(なぜ、あの時、貴方たちは私を理解しようとしなかったのでしょう、アルガ……)
迷宮でのアルガの叫びが、レイの心臓を締め付けます。アルガの純粋な思いが、彼の心の奥底に染み込んだ闇を揺さぶるのでした。ですが、その揺らぎは、闇の遺物の呪縛によって、さらなる苦痛へと変貌します。鎖が魔力を吸い取り、激しい痛みが全身を駆け巡ります。
「くっ……!」
レイは息を呑み、痛みに耐えます。闇の遺物は、彼が過去を悔いるたびに、その負の感情を糧に、さらに彼を深く蝕んでいくようでした。
迷宮からの微かな反響が、レイの意識に届きます。
(アルガたちは、迷宮の奥へ進んでいるのですね……私が作り出した幻影を、彼らは乗り越えてきた。彼らは強くなりました……だが、これ以上、深入りさせてはなりません。彼らの道は、私と同じ末路を辿るだけだ)
彼は、アルガ、リアス、レオン、ユリウス、そして見知らぬ若い魔法使いたち(ラミア、ルディ、グスタフ)の魔力を感じ取っていました。彼らが連携し、迷宮の罠を突破していく様子が、まるで目の前で起こっているかのように鮮明に伝わってきます。その成長は、レイにとって、ある種の脅威でもありました。彼らが闇の遺物の真実に近づけば近づくほど、彼ら自身が危険に晒される。それをレイは許容できない。
(私が……彼らを止めなければなりません。これ以上、傷ついてはならない)
レイの表情には、悲痛な決意が浮かびました。それは、かつての仲間への執着と、歪んだ愛情から来るものでした。闇の遺物の力を借り、迷宮を操る彼の魔力は、新たな罠を張り巡らせる準備を始めていました。
レイは、深々と息を吐き出しました。その吐息には、懺悔と、わずかながら、まだ消えぬ後悔が混じっていたのです。
「アルガ……貴方たちを排除すること、それが……私が今できる、最善の選択なのです」
彼の声は、誰にも届くことなく、監獄の冷たい闇に吸い込まれていきました。しかし、迷宮の奥深くで、アルガたちへと向けられたレイの、冷たくも悲しい意志の波動が、確実に迫っていたのです。
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