魔術師アルガは、親友の夢の果てに何を見るか

第九章：再会なき対峙、遺物の残響

レイの魔力によって、『忘れ去られた迷宮』の奥深くに新たな通路が開かれた。それは、彼らの目的地の真下へと続く、螺旋状の通路だった。しかし、その道はこれまで以上に闇が深く、不気味な静寂が支配していた。
「この先から感じる魔力……まるで、巨大な何かが蠢いているようだ」
ユリウスが、眉をひそめて呟いた。彼の冷静な声にも、わずかな緊張が混じっていた。
「レイが、僕らをここに誘い込んでいるとでも言うのか……」
リアスが、苦々しい表情で続けた。彼女の心には、かつての親友への複雑な思いが渦巻いている。
アルガは黙って先頭を歩いていた。彼の『水の囁き』が、闇の中でわずかな魔力の揺らぎも逃さず捉えていく。通路の奥から、微かに聞こえてくるのは、金属が擦れ合うような不快な音だった。
やがて、通路の終点にたどり着いた。そこには、広大な空間が広がっていた。中央には、禍々しい黒い光を放つ巨大な闇の遺物が鎮座し、その周囲には、無数の鎖が絡みつくように伸びていた。そして、その鎖の先は、空間の奥へと消えている。
「あれが……闇の遺物……」
ラミアが息をのんだ。その存在感は圧倒的で、触れるだけで精神が蝕まれるような感覚に襲われた。
ルディとグスタフも、その強大な魔力にたじろぐ。修行を積んだ彼らでも、この遺物が放つ負のオーラは、あまりにも強烈だった。
「この魔力反応は……まさか、ここがベルガール監獄と繋がっているのか！？」
アリスが、解析装置の示す数値を見て叫んだ。彼女の顔は、驚愕と恐怖に歪んでいる。
「やはり、レイがここを操っているのか……」
アルガが呟いた。彼の視線は、闇の遺物へと釘付けになっていた。
発見された遺物。
その闇の遺物の根元には、黒いローブがうずくまるように落ちていた。ローブの隙間から、彼らの目を引くものがあった。それは、黒曜石のように輝く、精緻な刺繍が施された一組の手袋だった。触れることも躊躇われるほどの、おぞましい魔力が放たれている。
「これは……まさか、闇の遺物は、この手袋なのか！？」
アリスが驚きの声を上げた。解析装置の数値が、手袋から尋常ではない魔力を検知している。
「あのローブも……もしや、闇の魔法使いがここにいたのか？」
ユリウスが冷静に分析する。その瞬間、アルガの脳裏に、数日前に見たニュース記事の「不気味な黒いローブを纏った人影」という記述がフラッシュバックした。
「つまり、闇の魔法使いは、この手袋を操っていたと？　だが、こんな場所に置き去りにするなんて……」
リアスが戸惑う。その手袋は、明らかに放棄されたかのように無造作に置かれていた。しかし、そこから放たれる魔力は、この迷宮全体を支配しているかのように感じられる。
「この手袋から感じる魔力……まるで、レイの魔力そのものだ」
アルガが、苦しげに呟いた。彼の瞳には、かつての親友への複雑な思いが交錯している。彼が監獄の中で迷宮を操っているのは、この手袋を通してなのか。そして、あの時の甘い誘いは、この手袋がレイの残滓を模倣して作り出した幻影なのか、それともレイ自身の、歪んだ意思の現れなのか。
その問いに答えるかのように、手袋から闇の魔力が渦を巻き、彼らの周囲に蠢く幻影の群れを生み出した。それは、彼らの過去の悪夢を具現化したかのような、おぞましい姿だった。
「なんだこれは」