追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第87話

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山腹の風は冷たく、崩落の粉塵をすぐに攫っていった。救い出した人々は、岩陰で身を寄せ合い、息を整えている。誰もが疲弊していたが、恐怖より先に安堵が広がっていた。

「街へ戻る道は、今は使えない」ライトは周囲を見渡しながら言った。「見張りが回ってくる」

アリアが頷く。「上だな。さっきの気配、消えてねぇ」

フィーナは山道の先を見据え、静かに告げる。「人がいる。数は少ない。……けれど、残っている」

リオナが杖を持ち替えた。「逃がさない配置。時間を稼ぐ気ね」

進む。古道はさらに細くなり、岩壁に沿って続く。足場は悪いが、意図的に整えられている箇所が混じる。使われ続けている証拠だ。

曲がり角で、弓矢が飛んだ。石に当たり、火花が散る。

「来るぞ」

ライトは剣を低く構え、距離を詰める。矢は二射目が来ない。牽制だ。狙いは足止め。

「《ウィンドLv2》」

風で射線を乱す。アリアが一気に前へ。跳躍、着地、切り込む。弓を持つ影が体勢を崩す。背後から短剣が伸びるが、ライトが割り込む。

「《斬撃強化(大)》」

刃が短剣を弾き、返しで肩を打つ。相手は後退。退路は狭い。

上から水が落ちる。足場が濡れ、滑る。

「《ウォーターLv2》」

流れを制し、足元の水を散らす。霧が薄く広がる中、リオナが短く詠唱する。

「アイスカッター」

地面を裂く刃が走り、逃げ道を断つ。残る一人が合図を送ろうとした瞬間、フィーナの拘束が絡み、動きが止まった。

戦いは短い。倒れた二人は気絶。残った一人は道を譲るように膝をついた。

「上には、何がある」

沈黙。やがて、男は低く答える。「……観測所だ。選別の最終点」

「誰の指示だ」

「名は出ない。合図だけが降りる」

それ以上は引き出せない。ライトは頷き、拘束を解かせないまま人々に戻るよう合図した。

観測所は、山の肩に食い込むように建っていた。灯りは少ないが、内部は静かに整えられている。豪奢ではない。機能だけを残した造りだ。

扉の前で、足音が止まる。

「ここからは、俺が前に出る」

誰も反対しなかった。ミリュウが肩で鳴く。

中へ。円形の室。中央に机、壁に地図と記録。人影が一つ。

振り向いた男は、武装していない。だが、目だけが鋭い。

「来たか」

短い言葉。威圧はない。逃げる気もない。

ライトは距離を保ったまま、剣を下げない。「ここで何をしている」

男は机の上の紙束に手を置いた。「人の耐久を見る。折れない者を残す」

「残して、どうする」

「上へ送る」

リオナが一歩進む。「どこへ」

男は答えない。ただ、壁の地図の一点を指した。山の向こう、さらに奥。

「ここは終点じゃない」

沈黙が落ちる。風が室内を抜け、紙が揺れた。

ライトは視線を上げる。「連れていく」

男は抵抗しなかった。むしろ、静かに息を吐いた。

「遅かれ早かれ、辿り着く」

外へ出る。夜は深いが、道は見えた。救い出した人々は、すでに下へ向かっている。

観測所の灯りが消え、山は再び暗くなる。
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