88 / 93
第88話
しおりを挟む
観測所を後にした一行は、夜の山道を下っていた。
連れている男は抵抗せず、ただ足を運ぶだけだ。縄は必要なかった。逃げる気配がない。
フィーナが小さく息を吐く。
「……この山、まだ人が残っています」
「気配か?」
ライトが問い返すと、フィーナは頷いた。
「隠れている。観測所が落ちたことで、判断を迷っている」
アリアが鼻で笑う。
「統制が切れたってことだな」
「そうなる」ライトは足を止めずに言った。「無理に追わない。今は下だ」
救出した人々は、すでに先行させている。街道へ出れば、ギルドの迎えが合流する手筈だった。
山を抜ける途中、男がぽつりと口を開いた。
「……勇者は、来ないのか」
ライトは振り返らない。
「来ない」
男は意外そうに眉を動かした。
「なら、なぜお前たちが?」
「向いているからだ」
それだけで会話は終わった。
夜明け前、山道は霧に包まれた。湿った空気が肺に重い。だが、敵意のある気配はない。
逃げた者たちは、すでに散っている。
街道に出ると、松明の列が見えた。ギルドの護衛だ。先頭に立つミィナの姿があり、ライトを見つけると小さく安堵の表情を見せた。
「無事で……」
「人は全員下ろした。観測所は制圧した」
ミィナは頷き、すぐに指示を出す。救出者の確認、負傷者の手当、連行者の引き渡し。手慣れた動きだった。
グランは少し遅れて現れ、連れてきた男を見る。
「……やはり、末端じゃないな」
男は黙っている。
「上がある」
ライトの言葉に、グランは短く頷いた。
「分かっている。だが、ここからは表の動きになる」
「勇者は?」
「動く。ただし、正面からだ」
それで十分だった。
役割が違う。
街へ戻る道すがら、リオナが口を開く。
「選別の最終点、って言ってたわね」
「ああ」
「じゃあ、その先は?」
ライトは少しだけ考え、答えた。
「逃げ場がない場所だ」
アリアが口角を上げる。
「潰しやすい」
フィーナは静かに続ける。
「……集めた人たちが、消えている場所」
ミリュウが肩で小さく鳴いた。
「ミリュ」
街の門が見えてくる。朝の気配が混じり始めていた。
観測所は落ちた。
だが、山の奥はまだ静かすぎる。
ライトは剣の柄から手を離さず、歩調を保ったまま街へ入った。
連れている男は抵抗せず、ただ足を運ぶだけだ。縄は必要なかった。逃げる気配がない。
フィーナが小さく息を吐く。
「……この山、まだ人が残っています」
「気配か?」
ライトが問い返すと、フィーナは頷いた。
「隠れている。観測所が落ちたことで、判断を迷っている」
アリアが鼻で笑う。
「統制が切れたってことだな」
「そうなる」ライトは足を止めずに言った。「無理に追わない。今は下だ」
救出した人々は、すでに先行させている。街道へ出れば、ギルドの迎えが合流する手筈だった。
山を抜ける途中、男がぽつりと口を開いた。
「……勇者は、来ないのか」
ライトは振り返らない。
「来ない」
男は意外そうに眉を動かした。
「なら、なぜお前たちが?」
「向いているからだ」
それだけで会話は終わった。
夜明け前、山道は霧に包まれた。湿った空気が肺に重い。だが、敵意のある気配はない。
逃げた者たちは、すでに散っている。
街道に出ると、松明の列が見えた。ギルドの護衛だ。先頭に立つミィナの姿があり、ライトを見つけると小さく安堵の表情を見せた。
「無事で……」
「人は全員下ろした。観測所は制圧した」
ミィナは頷き、すぐに指示を出す。救出者の確認、負傷者の手当、連行者の引き渡し。手慣れた動きだった。
グランは少し遅れて現れ、連れてきた男を見る。
「……やはり、末端じゃないな」
男は黙っている。
「上がある」
ライトの言葉に、グランは短く頷いた。
「分かっている。だが、ここからは表の動きになる」
「勇者は?」
「動く。ただし、正面からだ」
それで十分だった。
役割が違う。
街へ戻る道すがら、リオナが口を開く。
「選別の最終点、って言ってたわね」
「ああ」
「じゃあ、その先は?」
ライトは少しだけ考え、答えた。
「逃げ場がない場所だ」
アリアが口角を上げる。
「潰しやすい」
フィーナは静かに続ける。
「……集めた人たちが、消えている場所」
ミリュウが肩で小さく鳴いた。
「ミリュ」
街の門が見えてくる。朝の気配が混じり始めていた。
観測所は落ちた。
だが、山の奥はまだ静かすぎる。
ライトは剣の柄から手を離さず、歩調を保ったまま街へ入った。
11
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜
チャビューヘ
ファンタジー
「お前の弱体化は雑魚モンスターにすら効かない。足手纏いだ」
勇者マルセルにそう告げられ、俺アクセルは5年間共に戦った仲間から追放された。
確かに、俺のデバフ魔法はゴブリンやスライムといった低級モンスターには効果が薄い。それどころか、ほとんど無意味だった。パーティは俺を庇いながら戦い続け、やがて「無能」の烙印を押されたのだ。
だが、誰も気づいていなかった。
俺たちのパーティは、5年間ずっと雑魚狩りしかしていなかったという事実に。
追放された翌日、森で偶然出会ったS級冒険者たちが、レベル50のボス級モンスター「オーガロード」と苦戦していた。
迷ったが、俺は助けることを決意した。
「弱体化!」
その瞬間オーガロードの全能力が70%も減少した。
『対象レベルが高いほど効果増大』
それが、俺のスキルの真の性質だったのだ。
「...何が起きた?」「あいつの動きが...!」
S級冒険者たちは驚愕し、あっという間にオーガロードを撃破。そして俺に告げた。
「私たちのパーティに来ない?」
美貌の女剣士クリス、豪快な戦士ダリウス、明るい魔法使いミラ。彼らは俺を対等な仲間として迎え入れてくれた。
そして俺は知った。自分の真の価値を。
古代遺跡のストーンゴーレム、地下迷宮のボスモンスター――次々と討伐成功。俺のデバフがあれば、どんな強敵も「ただの的」になる。
A級冒険者に昇格し、やがて古代竜討伐の依頼まで舞い込んできた。
一方、元勇者パーティは――
「くそっ...アクセルの弱体化があれば...!」
ボス戦で完敗を喫し、評判は地に落ちていた。
ある日、マルセルが俺の前に現れた。
「頼む...戻ってきてくれ!お前がいないとボスが倒せないんだ!」
土下座するかつてのリーダー。
だが、俺は冷たく告げた。
「今更もう遅い。俺には新しい仲間がいる」
無能と蔑まれた男が、竜を倒し、魔王をも脅かす最強デバッファーへ。
これは、追放された補助職が真の力を開花させる物語。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる