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あの日あの時 : 道間家崩壊 Ⅵ
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セツとはその後も月に何度か会っていた。
道間家の再興のためにいろいろと忙しかったわたくしに、セツは様々なことでまた手を貸してくれた。
特に、既に全て殺されていたと思っていた道間家の血筋を何人か探し出してくれた。
もちろんそれほどに濃い血では無かったが、わたくしたちには何とも有難いことだった。
元の使用人たちもセツの説得もあり戻ってくれた者が多い。
あのような惨劇があったにも関わらずだ。
恥ずかしいことだが、金銭的にもセツには随分と世話になってしまった。
わたくしが何度も詫びるとセツは「どうか道間家の再興を」といつも言って私を叱った。
ただ一つ残念だったのは、瑞樹と会えなかったことだ。
「瑞樹はどうしていますか?」
「はい、今は所用で遠い場所におります。顔も出せずに申し訳ありません」
「それは良いのです。でも瑞樹に少しでも礼をしたいと」
「もったいなき事です。瑞樹にはくれぐれも申し伝えましょう。あれもきっとお嬢様が気に掛けてくれていると知り、喜ぶでしょう」
「そうですか。あの、声だけでも聴けませんか?」
「申し訳ございません。機会があれば、電話でもさせましょう。ですが、こことの繋がりはあまり……」
「ああ、そうでした! わたくしとしたことが! 良いのです。もう瑞樹はこことは関わりなくさせて下さい」
「承知いたしました」
わたくしはその時、瑞樹にもう道間家と関わらせずに安全な場所で暮らすことを失念していたと思っていた。
セツが来るのはもう仕方がないことだが、瑞樹は離れていれば安心だと考えてしまったのだ。
翌年、瑞樹がガンで死んだとセツから知らされた。
セツに、以前から余命を宣告されていたことを聞いた。
だからこそ、危険のあるわたくしの傍に置いていたのだと。
わたくしはショックでセツに詰め寄った。
「何故わたくしに言わなかったのです!」
「瑞樹の望みでしたので。自分の最期の時間をお嬢様のために仕える喜びで一杯でございました」
「わたくしが何とかしました!」
「いいえ、そうではありません。瑞樹は自分の運命に従いたかったのです。治療も一切いたしませんでした」
「なぜ! わたくしがこれから瑞樹に御恩を返したかったのに! どれほどそれをわたくしが望んでいたのか、セツも承知していたでしょう!」
「もう十分に頂きましたよ、お嬢様。瑞樹は本当に最後までお嬢様との日々を楽しそうに語っておりました。微笑みながら逝けたのは、お嬢様のお陰です」
「!」
わたくしには分からなかった。
でも、我が子を喪ったセツに対してそれ以上は何も言えなかった。
後に吉原龍子から言われたことがあるのを思い出した。
わたくしに時々、指導に来てくれていた中で話してくれたことだ。
吉原龍子が突然にその話題を口にした。
今思えば、セツから何かを聞いたのかもしれない。
「いいかい、人間はね、何かを望んだ時には自分を捧げることもあるんだよ」
「どういうことですか?」
「大切な人間の力になりたいとかさ。その人間が困っている時にどうしても助けたいと望んだりね。そういう時には自分を捧げて望みを叶えることもあるのさね。あんたもそういう人を知っているかもしれない」
「!」
「その人の幸せを願ってね。そういう本当に綺麗な人間がいるよ」
わたくしは瑞樹のことを思った。
あなたは、どうして……
吉原龍子がわたくしの後ろを見て微笑んでいた。
その翌年にわたくしは旦那様と出会った。
突然公安の早乙女様からご連絡を頂いた。
最初は家のことで多忙であり、お断りしようと思っていた。
公安が道間家に連絡するのは、「仕事」のことに違いなかったからだ。
その当時はわたくしにはまだまだ力もなく、何のお役にも立てないし、何よりも家の再興で精一杯の日々だった。
しかし、早乙女様の御用件は違った。
わたくしに会いたいという方がいるのだと。
その方が、石神高虎様とお聞きし、本当に驚いた。
そして石神高虎様が「虎王」の主であることに加え、「大黒丸」と思しき存在と関わってもいらっしゃると伺って、ますます驚愕した。
わたくしは一も二も無くすぐに東京のお宅に伺った。
運命の子と吉原龍子が言っていた方と分かったからだ。
奇跡のように親しい御縁を頂き、わたくしはこの御縁を何とかもっと進めなければと思った。
あの時、《ハイファ》によって地下闘技場の存在を知らされ、護衛妖魔が次々と揃って行った中。
一つのどうにも出来ない存在を知ってしまったのだ。
このままでは道間家はもとより、京都は崩壊し、日本全国に甚大な害を与える。
「大堕陀王」の存在だ。
20代前の道間家当主が呼び寄せた大妖魔だった。
しかし一体化に失敗し、必死で封印をしたまま何とか今日まで納めて来たのだ。
それが遠くなく封印が破れ外に出てしまう。
わたくしは石神様と繋がるにあたり、その問題に苦慮していた。
「大堕陀王」を再び封印しなければ、石神様と共に戦うことは出来ない。
「虎王」の主であり、「大黒丸」を従えている方であれば、とも思った。
だがそれでも、石神様に大きな危険を伴う。
だからわたくしは石神様のお力と共に、道間家を助けてくれる方なのかを測ってもしまった。
そしてその大問題を石神様は難なく片付けて下さった。
もうわたくしは自分と道間家の全てを石神様に捧げることを誓った。
その後で、旦那様のお子さんのルーさんとハーさんが、一枚の絵をわたくしに送って下さった。
今はもういない兄上様たちや懐かしい親族がわたくしの後ろに描かれたものだった。
お二人が知るはずのない人間を描いたのは、特殊な能力の故なのだろう。
そしてその中に、わたくしのすぐ後ろで微笑んでいる女性がいた。
わたくしの涙はいつまでも止まらなかった。
瑞樹、あなたは今でもわたくしを見守って下さっていたのね……
わたくしは最高の幸せの中にいる。
それを見ていて欲しい。
瑞樹、あなたがこの幸せを下さったのです。
いつまでも決して忘れません。
道間家の再興のためにいろいろと忙しかったわたくしに、セツは様々なことでまた手を貸してくれた。
特に、既に全て殺されていたと思っていた道間家の血筋を何人か探し出してくれた。
もちろんそれほどに濃い血では無かったが、わたくしたちには何とも有難いことだった。
元の使用人たちもセツの説得もあり戻ってくれた者が多い。
あのような惨劇があったにも関わらずだ。
恥ずかしいことだが、金銭的にもセツには随分と世話になってしまった。
わたくしが何度も詫びるとセツは「どうか道間家の再興を」といつも言って私を叱った。
ただ一つ残念だったのは、瑞樹と会えなかったことだ。
「瑞樹はどうしていますか?」
「はい、今は所用で遠い場所におります。顔も出せずに申し訳ありません」
「それは良いのです。でも瑞樹に少しでも礼をしたいと」
「もったいなき事です。瑞樹にはくれぐれも申し伝えましょう。あれもきっとお嬢様が気に掛けてくれていると知り、喜ぶでしょう」
「そうですか。あの、声だけでも聴けませんか?」
「申し訳ございません。機会があれば、電話でもさせましょう。ですが、こことの繋がりはあまり……」
「ああ、そうでした! わたくしとしたことが! 良いのです。もう瑞樹はこことは関わりなくさせて下さい」
「承知いたしました」
わたくしはその時、瑞樹にもう道間家と関わらせずに安全な場所で暮らすことを失念していたと思っていた。
セツが来るのはもう仕方がないことだが、瑞樹は離れていれば安心だと考えてしまったのだ。
翌年、瑞樹がガンで死んだとセツから知らされた。
セツに、以前から余命を宣告されていたことを聞いた。
だからこそ、危険のあるわたくしの傍に置いていたのだと。
わたくしはショックでセツに詰め寄った。
「何故わたくしに言わなかったのです!」
「瑞樹の望みでしたので。自分の最期の時間をお嬢様のために仕える喜びで一杯でございました」
「わたくしが何とかしました!」
「いいえ、そうではありません。瑞樹は自分の運命に従いたかったのです。治療も一切いたしませんでした」
「なぜ! わたくしがこれから瑞樹に御恩を返したかったのに! どれほどそれをわたくしが望んでいたのか、セツも承知していたでしょう!」
「もう十分に頂きましたよ、お嬢様。瑞樹は本当に最後までお嬢様との日々を楽しそうに語っておりました。微笑みながら逝けたのは、お嬢様のお陰です」
「!」
わたくしには分からなかった。
でも、我が子を喪ったセツに対してそれ以上は何も言えなかった。
後に吉原龍子から言われたことがあるのを思い出した。
わたくしに時々、指導に来てくれていた中で話してくれたことだ。
吉原龍子が突然にその話題を口にした。
今思えば、セツから何かを聞いたのかもしれない。
「いいかい、人間はね、何かを望んだ時には自分を捧げることもあるんだよ」
「どういうことですか?」
「大切な人間の力になりたいとかさ。その人間が困っている時にどうしても助けたいと望んだりね。そういう時には自分を捧げて望みを叶えることもあるのさね。あんたもそういう人を知っているかもしれない」
「!」
「その人の幸せを願ってね。そういう本当に綺麗な人間がいるよ」
わたくしは瑞樹のことを思った。
あなたは、どうして……
吉原龍子がわたくしの後ろを見て微笑んでいた。
その翌年にわたくしは旦那様と出会った。
突然公安の早乙女様からご連絡を頂いた。
最初は家のことで多忙であり、お断りしようと思っていた。
公安が道間家に連絡するのは、「仕事」のことに違いなかったからだ。
その当時はわたくしにはまだまだ力もなく、何のお役にも立てないし、何よりも家の再興で精一杯の日々だった。
しかし、早乙女様の御用件は違った。
わたくしに会いたいという方がいるのだと。
その方が、石神高虎様とお聞きし、本当に驚いた。
そして石神高虎様が「虎王」の主であることに加え、「大黒丸」と思しき存在と関わってもいらっしゃると伺って、ますます驚愕した。
わたくしは一も二も無くすぐに東京のお宅に伺った。
運命の子と吉原龍子が言っていた方と分かったからだ。
奇跡のように親しい御縁を頂き、わたくしはこの御縁を何とかもっと進めなければと思った。
あの時、《ハイファ》によって地下闘技場の存在を知らされ、護衛妖魔が次々と揃って行った中。
一つのどうにも出来ない存在を知ってしまったのだ。
このままでは道間家はもとより、京都は崩壊し、日本全国に甚大な害を与える。
「大堕陀王」の存在だ。
20代前の道間家当主が呼び寄せた大妖魔だった。
しかし一体化に失敗し、必死で封印をしたまま何とか今日まで納めて来たのだ。
それが遠くなく封印が破れ外に出てしまう。
わたくしは石神様と繋がるにあたり、その問題に苦慮していた。
「大堕陀王」を再び封印しなければ、石神様と共に戦うことは出来ない。
「虎王」の主であり、「大黒丸」を従えている方であれば、とも思った。
だがそれでも、石神様に大きな危険を伴う。
だからわたくしは石神様のお力と共に、道間家を助けてくれる方なのかを測ってもしまった。
そしてその大問題を石神様は難なく片付けて下さった。
もうわたくしは自分と道間家の全てを石神様に捧げることを誓った。
その後で、旦那様のお子さんのルーさんとハーさんが、一枚の絵をわたくしに送って下さった。
今はもういない兄上様たちや懐かしい親族がわたくしの後ろに描かれたものだった。
お二人が知るはずのない人間を描いたのは、特殊な能力の故なのだろう。
そしてその中に、わたくしのすぐ後ろで微笑んでいる女性がいた。
わたくしの涙はいつまでも止まらなかった。
瑞樹、あなたは今でもわたくしを見守って下さっていたのね……
わたくしは最高の幸せの中にいる。
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瑞樹、あなたがこの幸せを下さったのです。
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