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再び、御堂家

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 柳が窓の外を見ている。
 美しい横顔だと思った。
 「御堂」の家の美しさだ。

 ハマーが近づくと、家の中から皆さんが出てきてくれた。

 「おう! またお世話になるぞ」
 「石神、待ってたよ。いらっしゃい」
 「お父さん、ただいま!」
 「柳、楽しかったかい?」
 「うん、とっても!」
 俺は御堂家のみなさん、澪さん、正巳さんと菊子さん、正利に挨拶した。

 「石神さん、待ってたよ」
 「ありがとうございます。俺もまた来られて嬉しいです」
 正巳さんが俺の手を握ってくれた。
 俺たちは荷物を運び、座敷に集まった。
 冷たい麦茶が出される。

 「柳がお世話になったね」
 「いや、こっちこそ楽しかった。なあ、柳!」
 「はい! お父さん、後でいろいろ話すね」
 「おい、俺が話すんだぁ!」
 御堂が大笑いした。
 澪さんがそれを見て嬉しそうに笑う。

 俺は土産の品を渡す。
 正巳さんにまたコイーバの葉巻を。
 菊子さんにはブルガリのサングラスを。

 「こんな素敵なもの、こっちじゃ使う機会もないですよ」
 「柳も前にそんなこと言ってましたが、普段も掛けるといいですよ。きっとお似合いです」
 菊子さんが嬉しそうに笑った。
 ちょっと掛けてみて、みんなに「似合う」と言われ喜んだ。

 柳の分もある。
 ロロピアーナのサマーセーターだ。
 明るいグリーンが柳に似合うと思った。

 「サイズはばっちりですね!」
 柳が身体にあててみる。

 「よくご存知ですもんね!」
 クスクスと笑う。
 「ああ、澪さんに聞いたからな」
 「えぇー!」
 澪さんが笑った。

 正利にはスカイブルーのサマー・マフラーだ。
 俺が巻いて見ろと言い、正利が首に巻いた。
 「おお、よく似合ってるぞ」
 正利が照れ、礼を言う。

 御堂と澪さんにはカザールのサングラスを渡した。
 少々派手だった。

 他に、食器類だ。
 ブライアーグラスのセットを正巳さんたちに。
 ミントンのカップセットを御堂と澪さんに。
 クリスタル・ド・ロレーヌのグラスを柳と正利に。
 他にロイヤル・ウースターの食器セットをご家族の分。

 「石神、こんなに貰いすぎだ」
 「いや、去年幾つか壊しちゃったしな。それにこいつらのご迷惑を考えるとなぁ」
 「それにしたって」
 「だって、こいつらのために食材だけじゃなくて、調理器具や人まで手配してくれたんだろ?」
 「柳!」
 御堂が柳を睨んで言った。

 「ごめんなさーい」
 柳は笑って謝った。

 「本当に僕たちはみんなを歓迎したいだけなんだ」
 「分かってる。俺もそうだ」
 「まったく」
 「正嗣、まあいいじゃないか。石神さんの気持ちを受け取ろう。石神さん、その分歓迎させてもらうからね」
 「はい! 申し訳ありません。本当にお世話になります。子どもたちはその分こき使ってやってください」
 みんが笑った。

 子どもたちは部屋に案内され、寛ぐように言われた。
 柳と正利が相手をしてくれる。
 俺は正巳さんの部屋に行き、改めて挨拶した。

 「石神さん、今日を本当に待ってたんだ」
 正巳さんは早速葉巻をほどいた。

 「俺も本当に楽しみにしてました。子どもたちも来る途中でもウキウキでしたよ」
 「そうかね。夕食は期待してるよ」
 俺たちは笑った。
 菊子さんもニコニコしている。

 「サングラス、本当に使って下さいね。よくお似合いでしたよ。流石に品のいい方に似合う」
 「あら」
 菊子さんも嬉しそうに笑った。
 正巳さんも是非かけろと言って下さった。

 「柳が正巳さんに可愛がってもらって嬉しいんだって言ってました」
 「そうか。石神さんにもお世話になったね」
 「いえいえ。柳は明るいし頭もいいし。ああ、俺の患者の女の子の世話を毎日してくれて。すっかり懐いて助かりました」
 「そうだったか。これからも柳を宜しく頼みます」
 「はい!」
 しばし、近況などを話し、辞した。




 御堂の部屋へ行った。

 「あのな、もう一つ土産と言うか、お前に渡したいものがあるんだ」
 「石神、もらい過ぎだって。今回は柳も散々お世話になったんだし」
 「ああ、ちょっとな、そういうのとは違うんだ」

 俺は双子が偶然に育てたゴキブリ「α」たちの話をした。
 御堂には「花岡」を巡る一連の話はしてある。
 それに、絶対に口外無用とのことで、蓼科院長の話もした。

 「これは俺たちは「α」と呼んでいるが、30センチのゴキブリの死骸の一部を埋め込んである」

 シルバーのペンダントトップに、翅の一部を切り取って入れてある。
 2センチほどのティアドロップ型のトップに、片面を網状に加工した銀があり、その中にある。
 「α」のカットには、ダイヤモンドカッターが必要だった。

 「電話で話したが、「α」たちには「花岡」が通じない。その後いろいろと試して、死骸の破片にもその効果があった」
 「うん」
 御堂が真剣に聞いていた。

 「お前は俺の親友で、お前のご家族も俺の大事な方々だ。万一のことがあってはと思って、これを持って来た。20個ほどある。ご家族とお前が大事に思う方々に、もしもの時は配ってくれ」
 「うん、分かった」
 「もちろん実証実験はした。俺自身でな。効果は保証するし、ヘンな副作用もない。安心してくれ」
 「うん、ありがとう、石神」
 御堂は箱を大事に仕舞った。




 俺は困ったもう一つの話を御堂にした。

 「柳がうちに来て、うちの亜紀ちゃんが調子に乗って毎日三人で風呂に入った。すまん!」
 御堂が笑っている。

 「もちろん、何度も断ったし、不埒な真似は一切していない。ただ、柳の裸は存分に見てしまった」
 御堂が大笑いした。

 「石神、前にも言ったけど、柳はお前のことが大好きなんだ。風呂なんか幾らでも一緒に入ってくれ。なんなら子どもだって」
 「お前、バカなことを言うな! まだ柳は17歳だぞ」
 「いや、柳は4月生まれだから、もう18だよ。あいつは話してないのか?」
 「なんだと!」
 「僕は言ったよね。18歳までは待ってくれって。だからもういいんだよ?」
 「お前、そんなことを言ってもなぁ」
 御堂はまた大笑いした。

 「うん、まだそうかな。そうなってもいいんだけど、もうちょっと先がいいかな」
 「御堂、頼む、やめてくれ」
 俺たちはしばらく楽しく話した。
 特に俺はドゥカティとアヴェンタドールのことを熱弁する。
 御堂は嫌がりもせずに、ずっと聞いてくれた。

 「本当にここにはアヴェンタドールで来たかったんだよ。ああ、お前に見せたいなー」
 「今度お前の家に行くよ。しばらく行ってなかったしな」
  「ほんとかぁ! 絶対に来てくれよな! 絶対だぞ!」
 嬉しくて堪らなかった。

 「分かった。約束だ」
 「おう!」

 澪さんと柳が入って来る。

 「もう! いつまでも二人で話しちゃって」
 柳が言い、御堂が笑った。

 「おい、柳! 御堂が俺の家に来てくれるってさ!」
 「あ、じゃあ私も一緒に行く」
 「あ? いや、お前は全然いらねぇ」
 「なんでよー!」
 俺と御堂は大笑いした。
 澪さんも笑っている。

 「まあ、すっかり仲良くなって」
 「そうよ! もう一緒にお風呂に入る仲だからね、石神さん!」
 「いや、俺はお前のオッパイが小さいことは全然知らねぇ」
 「もう!」
 「ねぇ、お母さん。石神さんと一緒にお風呂に入ってもいいでしょう?」
 「まあ、どうしましょうかねぇ」
 澪さんが笑ってそう言った。

 「俺は御堂と一緒に入るんだ」
 「じゃあ私が一緒でも問題ないよね?」
 「久しぶりに柳と一緒に入れるのか。楽しみだな」
 御堂が笑って言った。

 「御堂、頼む」
 御堂も澪さんも、はっきりとは答えなかった。
 柳の好きにさせたいのだろう。

 「じゃあ、澪さんも一緒に」
 「あら、いいですね。そうしましょう」






 困り切った俺を、三人が笑った。 
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