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笑っていた。
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翌朝。
みんな自由に起きることになっていた。
昼食は全員で、ということにした。
俺のベッドには、レイ、亜紀ちゃん、柳がいる。
夕べ四人で風呂に入ってから寝た。
三時くらいだ。
9時ごろに起きた。
レイが起きたので、俺も目が覚めたのだ。
「あ、すいません。寝てて下さい」
「いいよ、十分に寝た。何か朝食を作ろう」
俺は寝ている二人のパンツを降ろして部屋を出た。
洗面所は三人が同時に使える。
俺はレイと並んで顔を洗った。
一階のキッチンで、レイに食べたいものがあるか聞いた。
「石神さんは何でも作れるんですね」
「そんなわけにはいかないよ。子どもたちが粗方喰っちまったしな」
「アハハハハ」
重くないものと言うので、ツナサンドとサラダ、タラとカニで吸い物を作る。
吸い物は多めに作る。
二人でウッドデッキで食べた。
「タカさーん! 私たちも!」
亜紀ちゃんと柳が起きて来た。
「自分で好きな物を作れ! 吸い物はまだあるぞ」
「はーい!」
同じツナサンドを作って来た。
「あの」
柳。
「あんだよ」
「何故か、下半身が裸だったんですけど」
「寝相が悪いな」
「えぇー!」
レイが笑った。
「柳さん、男の人は朝は欲情してるんですよ」
「そうなの!」
「黙れ、エロ女子大生」
亜紀ちゃんがツナサンドをぱくつく。
「オニオンがいいですね、これ」
レイが言った。
「「はいってないけど」」
二人が言う。
ツナにマヨネーズを和えただけのものだ。
「雑な舌だよなぁ」
「「……」」
皇紀と双子はもう食べ終わったようだ。
三人で出掛けているらしい。
「亜紀ちゃん、昼食はどうなる?」
余った食材で食べようと、事前に俺と亜紀ちゃんで話していた。
「それがですねぇ。魚介類が意外に余ってまして。肉は大丈夫です」
具体的に内容を聞いた。
夕べのバーベキューでの食べ残しだ。
持って帰るのも面倒だ。
「じゃあ、もう一回バーベキューをするか!」
「あ、いいですね!」
レイも加わって、準備を始めた。
皇紀たちも散歩から戻り、一緒にやる。
豪華な昼食になった。
米は炊かずに、ひたすらに焼いて食べた。
ロボが、次々と皿に入るので狂喜した。
皇紀がバーベキュー台を洗い、他の人間で掃除をする。
俺はロボとウッドデッキでまったりした。
中山さんに鍵を渡し、3時に出発する。
6時頃に途中の大きなレストランで夕食を摂り、8時頃に家に帰った。
向かいの、東雲たちが使っている家に灯が点いていた。
俺は気になって、車を置いてから向かった。
東雲たちは明後日に戻るはずだ。
空き巣でもないだろうが。
「おい、誰かいるのか?」
開いていた玄関を入って声を掛けた。
「あ、すみません」
諸見だった。
「なんだよ、明後日に戻るって聞いていたが」
「すみません。自分、何もやることがないんで、こっちで準備でもしておこうかと」
諸見には左官をやるように言っていた。
「お前、ゆっくり休めよ」
「はい、でも。石神さんの家をやらせていただけるって思ったら、もうここへ来てしまいました」
「お前よー」
「すみません」
とにかく来いと言って、家に連れ帰った。
二階に上げる。
「あれ、諸見さん?」
亜紀ちゃんが言った。
「こいつ、仕事がしたくてこっちに来ちゃったらしいんだよ」
「いえ、自分のことはどうかほったらかして下さい」
「まあ、そうするけどな。とにかく飯を喰え。どうせ喰ってないんだろう」
「え、いいえ」
俺は無視してうどんを煮てやった。
豚肉とソーセージとワカメと油揚げを突っ込んだ。
でかい椀で出してやる。
三人前の椀だ。
「すみません、お手数を」
「全然何でもねぇよ、喰え!」
諸見は箸を取り、食べ出した。
意外に綺麗に食べる。
口に入れると、勢いよく食べ出した。
やはり、何も食べていなかったようだ。
「おい諸見。そのまま聞け。いいか、職人は身体が資本だ。大事にして最高の性能を発揮できるようにしておけ」
「はい!」
「それとな」
「はい!」
「泣きながら喰うんじゃねぇ!」
「すみません!」
諸見は途中から泣いていた。
「お前、普段は何喰ってんだ?」
「はい、その辺で適当に」
「東雲たちが来るまで、夕飯はうちで喰え」
「い、いいえ、それは」
「それで朝と昼に何を喰ったか言え! ろくなもんじゃなかったら、お前には仕事をさせない」
「え! いや、それは」
「お前、身体を養えという俺の言葉に従えねぇのかぁ!」
「すみません! しっかりと喰わせていただきます!」
「おし!」
亜紀ちゃんが笑ってお茶を持って来た。
「ありがとうございます!」
諸見は食べ終わり、自分で食器を洗い始めた。
「諸見、早くしろ!」
「はい、すぐに!」
「終わったら一緒に風呂に入るぞ!」
「へ?」
「だから早くしろ! 俺は早く風呂に入りたいんだ!」
「は、はい!」
俺は諸見の背中を流してやり、諸見にも俺の背中を洗わせた。
「どうだよ、俺の身体は」
「はい! すげぇです。物凄い傷がかっこいい」
「ばかやろー! そういう時は「でかいオチンチンですね」って言うんだぁ!」
「すみません。でかいオチンチンです、確かに!」
俺は笑った。
「お前、腕は磨いて来たか?」
「はい。実は自分の親父が左官でして」
「そうだったか」
「だから、ガキの時分から鍛えられまして」
「そうか」
「石神さんは御存知だったので?」
「いや、知らん。あの時は何となくだ。俺ってすげぇな!」
「はい、まったく」
本当に知らなかった。
ただ、口を衝いて出た言葉だった。
この先にやる作業を思い浮かべただけだ。
何でもいいから、この諸見にやらせてやりたかっただけだ。
「桜や東雲は知っていたのか?」
「いいえ。親父のことは話したこともありません」
「そうか」
諸見は不器用だ。
自分を出すことなく、ただ命じられたことを懸命にやろうとする。
得意なことなど、口にはしない男だろう。
風呂を上がり、俺は諸見と一緒に向かいの家に行った。
「たまにはこっちで寝てみるかぁ!」
「え、石神さん!」
「なんだよ、迷惑か?」
「そんなことは!」
「それより、茶の一杯も出せ、てめぇ!」
「すみません!」
諸見がキッチンへ走って行った。
湯を沸かし、不慣れな手で盆を揺らしながら戻る。
「みなさんの使ってる湯呑ですみません」
俺になみなみと茶を注いだ。
「お前も飲めよ」
「はい! いただきます!」
自分の湯呑にも注いだ。
「明日から自由に出入りしろ。そこのリモコンで門は開くからな。子どもたちにも話しておく」
「ありがとうございます」
「おい、ちょっとお前の道具を見せて見ろ」
「はい!」
走って戻って来た。
数十もの鏝、様々なローラー、トンボ、舟などだ。
新聞紙を丁寧に敷いて、道具を並べた。
「説明してくれ」
俺が言うと、諸見は一つ一つ手に取って何に使うのかを話し始めた。
普段の喋りとは異なり、淀みがない。
30分程も話し続け、やっと俺の顔を見た。
「あの、お分かりになりますか?」
「いや、さっぱり分らん」
俺が言うと、諸見が笑い出した。
初めて諸見の笑顔を見た。
「自分のつまらない話を、ずっと聞いて下さってたので?」
「ああ、お前が懸命に話してくれたからな」
「……」
「まあ、全然分からなかったが、お前がうちの仕事を十分にやってくれるのは確信した。ありがとう」
「い、いいえ!」
「おし! 片付けてくれ。もう寝ようか」
「は、はい!」
諸見は二階の寝室へ案内してくれた。
「こちらでお休み下さい。今布団を敷きます」
諸見が押し入れを開け、布団を出して敷く。
「どうぞ、ごゆっくりと」
「おい」
「はい!」
「お前のも敷けよ」
「!」
「一緒に寝よう」
諸見は驚いて俺の顔を見て、黙って自分の分も出した。
「おい」
「はい!」
「てめぇ! くっつけ過ぎだぁ!」
「すみません!」
諸見は一度下に降り、道具を片付けた。
俺は下着になって諸見を待った。
「おい」
「はい!」
「お前、ホモじゃねぇだろうなぁ?」
「はい!」
「おし! 寝るぞ!」
「はい!」
電灯を消すと、そのうち諸見のすすり泣く声が聞こえた。
「なんだ、泣いてるのかよ?」
「すみません!」
「お前、やっぱ俺の身体が欲しいのかぁ!」
「いいえ、違います!」
諸見の洟をすする音が聞こえる。
「自分、こんなに親切にしてもらったことがなくて」
「なんだ、じゃあ今度桜をぶっ飛ばしておいてやるな」
「いえ、辞めて下さい!」
俺は笑った。
「お前も変わった奴だなぁ」
「はい、すみません」
「まあ、お前が他人から理解され難いっていうのは、俺が保証するよ」
「はい、すみません」
「でもな。全員がってわけじゃねぇ。ちゃんとお前の男気や魂の綺麗さを分かる人間もいる」
「そんな」
「人間はよ、一人でもそんな奴がいれば、もう十分幸せよ。そうは思わんか?」
「はい!」
諸見がまた泣き出した。
「俺はお前が大好きだ。滅多にいねぇいい奴だ」
「石神さん……」
「あ、身体は触んなよな!」
「は、はい!」
諸見が少し笑った。
「でも、今日はちょっとならいいぞ?」
「いえ、滅相もない!」
「遠慮すんなよ」
「ええ、じゃあちょっとだけ」
「来んじゃねぇ! ばかやろー!」
「へ?」
諸見が笑った。
カーテンの無い部屋で、諸見の寝顔を月光が挿した。
俺はぐっすりと寝た。
諸見が笑っていた。
みんな自由に起きることになっていた。
昼食は全員で、ということにした。
俺のベッドには、レイ、亜紀ちゃん、柳がいる。
夕べ四人で風呂に入ってから寝た。
三時くらいだ。
9時ごろに起きた。
レイが起きたので、俺も目が覚めたのだ。
「あ、すいません。寝てて下さい」
「いいよ、十分に寝た。何か朝食を作ろう」
俺は寝ている二人のパンツを降ろして部屋を出た。
洗面所は三人が同時に使える。
俺はレイと並んで顔を洗った。
一階のキッチンで、レイに食べたいものがあるか聞いた。
「石神さんは何でも作れるんですね」
「そんなわけにはいかないよ。子どもたちが粗方喰っちまったしな」
「アハハハハ」
重くないものと言うので、ツナサンドとサラダ、タラとカニで吸い物を作る。
吸い物は多めに作る。
二人でウッドデッキで食べた。
「タカさーん! 私たちも!」
亜紀ちゃんと柳が起きて来た。
「自分で好きな物を作れ! 吸い物はまだあるぞ」
「はーい!」
同じツナサンドを作って来た。
「あの」
柳。
「あんだよ」
「何故か、下半身が裸だったんですけど」
「寝相が悪いな」
「えぇー!」
レイが笑った。
「柳さん、男の人は朝は欲情してるんですよ」
「そうなの!」
「黙れ、エロ女子大生」
亜紀ちゃんがツナサンドをぱくつく。
「オニオンがいいですね、これ」
レイが言った。
「「はいってないけど」」
二人が言う。
ツナにマヨネーズを和えただけのものだ。
「雑な舌だよなぁ」
「「……」」
皇紀と双子はもう食べ終わったようだ。
三人で出掛けているらしい。
「亜紀ちゃん、昼食はどうなる?」
余った食材で食べようと、事前に俺と亜紀ちゃんで話していた。
「それがですねぇ。魚介類が意外に余ってまして。肉は大丈夫です」
具体的に内容を聞いた。
夕べのバーベキューでの食べ残しだ。
持って帰るのも面倒だ。
「じゃあ、もう一回バーベキューをするか!」
「あ、いいですね!」
レイも加わって、準備を始めた。
皇紀たちも散歩から戻り、一緒にやる。
豪華な昼食になった。
米は炊かずに、ひたすらに焼いて食べた。
ロボが、次々と皿に入るので狂喜した。
皇紀がバーベキュー台を洗い、他の人間で掃除をする。
俺はロボとウッドデッキでまったりした。
中山さんに鍵を渡し、3時に出発する。
6時頃に途中の大きなレストランで夕食を摂り、8時頃に家に帰った。
向かいの、東雲たちが使っている家に灯が点いていた。
俺は気になって、車を置いてから向かった。
東雲たちは明後日に戻るはずだ。
空き巣でもないだろうが。
「おい、誰かいるのか?」
開いていた玄関を入って声を掛けた。
「あ、すみません」
諸見だった。
「なんだよ、明後日に戻るって聞いていたが」
「すみません。自分、何もやることがないんで、こっちで準備でもしておこうかと」
諸見には左官をやるように言っていた。
「お前、ゆっくり休めよ」
「はい、でも。石神さんの家をやらせていただけるって思ったら、もうここへ来てしまいました」
「お前よー」
「すみません」
とにかく来いと言って、家に連れ帰った。
二階に上げる。
「あれ、諸見さん?」
亜紀ちゃんが言った。
「こいつ、仕事がしたくてこっちに来ちゃったらしいんだよ」
「いえ、自分のことはどうかほったらかして下さい」
「まあ、そうするけどな。とにかく飯を喰え。どうせ喰ってないんだろう」
「え、いいえ」
俺は無視してうどんを煮てやった。
豚肉とソーセージとワカメと油揚げを突っ込んだ。
でかい椀で出してやる。
三人前の椀だ。
「すみません、お手数を」
「全然何でもねぇよ、喰え!」
諸見は箸を取り、食べ出した。
意外に綺麗に食べる。
口に入れると、勢いよく食べ出した。
やはり、何も食べていなかったようだ。
「おい諸見。そのまま聞け。いいか、職人は身体が資本だ。大事にして最高の性能を発揮できるようにしておけ」
「はい!」
「それとな」
「はい!」
「泣きながら喰うんじゃねぇ!」
「すみません!」
諸見は途中から泣いていた。
「お前、普段は何喰ってんだ?」
「はい、その辺で適当に」
「東雲たちが来るまで、夕飯はうちで喰え」
「い、いいえ、それは」
「それで朝と昼に何を喰ったか言え! ろくなもんじゃなかったら、お前には仕事をさせない」
「え! いや、それは」
「お前、身体を養えという俺の言葉に従えねぇのかぁ!」
「すみません! しっかりと喰わせていただきます!」
「おし!」
亜紀ちゃんが笑ってお茶を持って来た。
「ありがとうございます!」
諸見は食べ終わり、自分で食器を洗い始めた。
「諸見、早くしろ!」
「はい、すぐに!」
「終わったら一緒に風呂に入るぞ!」
「へ?」
「だから早くしろ! 俺は早く風呂に入りたいんだ!」
「は、はい!」
俺は諸見の背中を流してやり、諸見にも俺の背中を洗わせた。
「どうだよ、俺の身体は」
「はい! すげぇです。物凄い傷がかっこいい」
「ばかやろー! そういう時は「でかいオチンチンですね」って言うんだぁ!」
「すみません。でかいオチンチンです、確かに!」
俺は笑った。
「お前、腕は磨いて来たか?」
「はい。実は自分の親父が左官でして」
「そうだったか」
「だから、ガキの時分から鍛えられまして」
「そうか」
「石神さんは御存知だったので?」
「いや、知らん。あの時は何となくだ。俺ってすげぇな!」
「はい、まったく」
本当に知らなかった。
ただ、口を衝いて出た言葉だった。
この先にやる作業を思い浮かべただけだ。
何でもいいから、この諸見にやらせてやりたかっただけだ。
「桜や東雲は知っていたのか?」
「いいえ。親父のことは話したこともありません」
「そうか」
諸見は不器用だ。
自分を出すことなく、ただ命じられたことを懸命にやろうとする。
得意なことなど、口にはしない男だろう。
風呂を上がり、俺は諸見と一緒に向かいの家に行った。
「たまにはこっちで寝てみるかぁ!」
「え、石神さん!」
「なんだよ、迷惑か?」
「そんなことは!」
「それより、茶の一杯も出せ、てめぇ!」
「すみません!」
諸見がキッチンへ走って行った。
湯を沸かし、不慣れな手で盆を揺らしながら戻る。
「みなさんの使ってる湯呑ですみません」
俺になみなみと茶を注いだ。
「お前も飲めよ」
「はい! いただきます!」
自分の湯呑にも注いだ。
「明日から自由に出入りしろ。そこのリモコンで門は開くからな。子どもたちにも話しておく」
「ありがとうございます」
「おい、ちょっとお前の道具を見せて見ろ」
「はい!」
走って戻って来た。
数十もの鏝、様々なローラー、トンボ、舟などだ。
新聞紙を丁寧に敷いて、道具を並べた。
「説明してくれ」
俺が言うと、諸見は一つ一つ手に取って何に使うのかを話し始めた。
普段の喋りとは異なり、淀みがない。
30分程も話し続け、やっと俺の顔を見た。
「あの、お分かりになりますか?」
「いや、さっぱり分らん」
俺が言うと、諸見が笑い出した。
初めて諸見の笑顔を見た。
「自分のつまらない話を、ずっと聞いて下さってたので?」
「ああ、お前が懸命に話してくれたからな」
「……」
「まあ、全然分からなかったが、お前がうちの仕事を十分にやってくれるのは確信した。ありがとう」
「い、いいえ!」
「おし! 片付けてくれ。もう寝ようか」
「は、はい!」
諸見は二階の寝室へ案内してくれた。
「こちらでお休み下さい。今布団を敷きます」
諸見が押し入れを開け、布団を出して敷く。
「どうぞ、ごゆっくりと」
「おい」
「はい!」
「お前のも敷けよ」
「!」
「一緒に寝よう」
諸見は驚いて俺の顔を見て、黙って自分の分も出した。
「おい」
「はい!」
「てめぇ! くっつけ過ぎだぁ!」
「すみません!」
諸見は一度下に降り、道具を片付けた。
俺は下着になって諸見を待った。
「おい」
「はい!」
「お前、ホモじゃねぇだろうなぁ?」
「はい!」
「おし! 寝るぞ!」
「はい!」
電灯を消すと、そのうち諸見のすすり泣く声が聞こえた。
「なんだ、泣いてるのかよ?」
「すみません!」
「お前、やっぱ俺の身体が欲しいのかぁ!」
「いいえ、違います!」
諸見の洟をすする音が聞こえる。
「自分、こんなに親切にしてもらったことがなくて」
「なんだ、じゃあ今度桜をぶっ飛ばしておいてやるな」
「いえ、辞めて下さい!」
俺は笑った。
「お前も変わった奴だなぁ」
「はい、すみません」
「まあ、お前が他人から理解され難いっていうのは、俺が保証するよ」
「はい、すみません」
「でもな。全員がってわけじゃねぇ。ちゃんとお前の男気や魂の綺麗さを分かる人間もいる」
「そんな」
「人間はよ、一人でもそんな奴がいれば、もう十分幸せよ。そうは思わんか?」
「はい!」
諸見がまた泣き出した。
「俺はお前が大好きだ。滅多にいねぇいい奴だ」
「石神さん……」
「あ、身体は触んなよな!」
「は、はい!」
諸見が少し笑った。
「でも、今日はちょっとならいいぞ?」
「いえ、滅相もない!」
「遠慮すんなよ」
「ええ、じゃあちょっとだけ」
「来んじゃねぇ! ばかやろー!」
「へ?」
諸見が笑った。
カーテンの無い部屋で、諸見の寝顔を月光が挿した。
俺はぐっすりと寝た。
諸見が笑っていた。
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