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佐野原稔 Ⅲ
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俺と稔が話した三日後に、稔は蓮花の研究所へ入った。
俺が送ると言ったのだが、稔の希望で新幹線で移動した。
小夜さんと妹の瑞葉が東京駅まで見送りに行ったそうだ。
蓮花とジェシカは大歓迎で稔を迎えた。
俺から稔の決意を聞き、少年でありながらの決意に喜んでいた。
《ニルヴァーナ》の研究は俺たちの今後の戦いの根幹ともなる。
それに自ら協力したいという稔に尊敬の念すら抱いていた。
もちろん他の職員たちも稔を歓迎し、ブランたちも喜んだ。
稔が決意したことを全員が理解している。。
少年であることは関係無い。
貴い仲間として稔は受け入れられたのだ。
俺たちは「業」と戦って勝利するためにいるのだ。
稔もその一員となったことを、全員が喜んでいる。
まあ、決意した稔ではあったが最初のうちは緊張していたようだが、2週間もすると徐々に慣れて行った。
蓮花とジェシカに研究所の施設も一通り案内され、頭の良い稔はここで何が行なわれているのかを一通り理解した。
ブランの訓練も見学したようで、稔は命懸けで戦う仲間に感動したと蓮花から聞いた。
だからこそ自分のやるべきことを一層深くし、蓮花に表明した。
稔の配属された「《ニルヴァーナ》研究部」は8人の体制だった。
稔が加わって9人となる。
少ない人数だが、機密のために仕方がない。
研究所の中でも精鋭の研究者が揃っている。
各分野の専門家集団なのだ。
稔はその中で「妖魔因子」の研究が命じられた。
「業」は必ず妖魔因子を《ニルヴァーナ》に混入して来る。
現代医学では絶対に解決できない構造にするためだ。
但し、それがどのようなものになるのかは、皆目見当が付かない。
その未知の領域を稔に任せるつもりだった。
これは俺と蓮花、ジェシカとで話し合ったことだ。
薬学やその他の専門家は既にいる。
その分野で稔も優秀な研究者にはなるだろうが、敢えて稔には最も困難な妖魔因子の研究を与えた。
それは主に俺の勘だ。
以前に《タイニータイド》の言葉により、「業」の側にも少年の研究者が《ニルヴァーナ》の開発を担っているという。
こちらも少年の研究者を当てたのだ。
俺にはそれが運命的なものに感じられていた。
《ニルヴァーナ》の対抗手段では、もちろん根幹に関わらない研究はもっと多くの人間がいる。
配属されて早速に稔の知識量と実力が確認されたが、みんな驚いていた。
実験や機械を扱うことは当然未熟だったが、薬学、細菌学などの分野では素人ではなかった。
恐らく基本的な訓練を受ければ、研究チームの一員としてすぐに働ける。
専門的な分野では十分だったが、英語などの周辺の分野ではまだまだ拙い。
特に英語力は海外の文献をあたるのに必須だ。
高校生としては優秀なのだが、専門的な論文の読解力が必要だった。
それはジェシカが対応することとなった。
しばらくしてから、蓮花が連絡を寄越した。
「非常に優秀です! 何よりも熱心で、みんなが褒めてますよ!」
「そうか。まあ、今は熱心さだけしかないだろうけどな。お前たちが面倒を見てくれ」
「もちろんです! でも、薬学などの分野でも結構本当に優秀ですのよ?」
「分かったよ。まあ、今は褒める所じゃない。しっかりと仕込んでやってくれ」
「はい、分かりました!」
まあ、蓮花も本当に嬉しいのだろう。
それは稔の心意気に対してだ。
自分が助けてもらったことを喜ぶばかりではなく、自ら決めて俺たちに協力したいという心だ。
「それでレジーナ様と久留守君をお連れ下さるお話は如何でしょうか」
稔は確実に《エイル》の影響を受けている。
だから一度、《エイル》のことを知るルイーサと久留守を稔に会わせておきたかったのだが、一つ問題があった。
「ああ、それな。久留守は問題ねぇんだけど、ルイーサがなぁ。何しろあの貫禄だ。タヌ吉の結界なんかがどう反応するのか。またぶっ壊れでもしたら大変だしよ」
以前に柳が防壁をぶっ壊して大変な騒ぎになった。
防壁の再構築もさることながら、タヌ吉が激オコで柳も殺され掛けた。
もちろん柳に罪は無いのだが、タヌ吉の心情はそれでは済まない。
俺への愛で生み出した結界を、不可抗力と言って納まることは無い。
だからルイーサが来て万一のことがあれば非常に面倒なことになるのだ。
万一にもルイーサとタヌ吉が争ったら研究所が吹っ飛ぶ可能性すらある。
「はぁ、何とかならないものでしょうか」
「ルイーサにも聴いてみたんだけどよ、「知らない」ってさ。俺が何とかしろってよ、まあ、そりゃそうだよなぁ」
「大変でございますね」
「まったくなんだよ。タヌ吉の方に聞いてみてもさ、オートカウンターみたいな自動防御だから分からないって」
「困りましたねぇ」
「そうだよ。ぶっ壊れりゃタブ吉がキレるに決まってるしよ」
「はぁ」
本当に困った。
蓮花研究所のタヌ吉の結界は、確かに防壁に沿って仕込まれているものだから、タヌ吉の言う通りなのかもしれないが。
他にも幾つもそのような結界を設けてもいる。
ルイーサが余りにも巨大な波動を持っているので問題なのだ。
俺が味方だと言っても、結界がどのように反応するのかは分からない。
大体にして、あのプライドの塊のようなルイーサが、結界に気を遣うことなど考えられない。
本当に俺たちが何とかするしかないのだ。
しかしながら、そもそも俺やクロピョン、タマやモハメドなどは問題なく入れているのだ。
どうやら、タヌ吉がルイーサを嫌っているのかもしれない。
そもそも俺の家にもタヌ吉の結界があるのだ。
でもルイーサはいつでも俺の家には入れる。
俺がルイーサのことを「最愛の恋人」などと言っているせいかもしれない。
俺がそう言い始める前から俺の家には出入りしていたので、今更拒絶出来ないのか。
タヌ吉の機嫌を取りながらそれとなく話しても、タヌ吉はシラを切る。
「ほら、もうお前とはさ、子どもまで二人も作ったラブラブの仲じゃんか」
「さようでございますね!」
作ろうと思って出来たのではないのだが。
「もうタヌ吉のことはカワイくってしょうがねぇんだよ」
「まあ、嬉しい!」
「野薔薇も野菊もお前の子だからさ、本当に可愛らしくてよ!
「ウフフフフフ」
「ところでさ、ルイーサを蓮花研究所にさ」
「……」
黙り込んでしまう。
こりゃ難しそうだぁ。
プライドとかあんのかなぁ。
まあ、手が無いわけじゃない。
俺が送ると言ったのだが、稔の希望で新幹線で移動した。
小夜さんと妹の瑞葉が東京駅まで見送りに行ったそうだ。
蓮花とジェシカは大歓迎で稔を迎えた。
俺から稔の決意を聞き、少年でありながらの決意に喜んでいた。
《ニルヴァーナ》の研究は俺たちの今後の戦いの根幹ともなる。
それに自ら協力したいという稔に尊敬の念すら抱いていた。
もちろん他の職員たちも稔を歓迎し、ブランたちも喜んだ。
稔が決意したことを全員が理解している。。
少年であることは関係無い。
貴い仲間として稔は受け入れられたのだ。
俺たちは「業」と戦って勝利するためにいるのだ。
稔もその一員となったことを、全員が喜んでいる。
まあ、決意した稔ではあったが最初のうちは緊張していたようだが、2週間もすると徐々に慣れて行った。
蓮花とジェシカに研究所の施設も一通り案内され、頭の良い稔はここで何が行なわれているのかを一通り理解した。
ブランの訓練も見学したようで、稔は命懸けで戦う仲間に感動したと蓮花から聞いた。
だからこそ自分のやるべきことを一層深くし、蓮花に表明した。
稔の配属された「《ニルヴァーナ》研究部」は8人の体制だった。
稔が加わって9人となる。
少ない人数だが、機密のために仕方がない。
研究所の中でも精鋭の研究者が揃っている。
各分野の専門家集団なのだ。
稔はその中で「妖魔因子」の研究が命じられた。
「業」は必ず妖魔因子を《ニルヴァーナ》に混入して来る。
現代医学では絶対に解決できない構造にするためだ。
但し、それがどのようなものになるのかは、皆目見当が付かない。
その未知の領域を稔に任せるつもりだった。
これは俺と蓮花、ジェシカとで話し合ったことだ。
薬学やその他の専門家は既にいる。
その分野で稔も優秀な研究者にはなるだろうが、敢えて稔には最も困難な妖魔因子の研究を与えた。
それは主に俺の勘だ。
以前に《タイニータイド》の言葉により、「業」の側にも少年の研究者が《ニルヴァーナ》の開発を担っているという。
こちらも少年の研究者を当てたのだ。
俺にはそれが運命的なものに感じられていた。
《ニルヴァーナ》の対抗手段では、もちろん根幹に関わらない研究はもっと多くの人間がいる。
配属されて早速に稔の知識量と実力が確認されたが、みんな驚いていた。
実験や機械を扱うことは当然未熟だったが、薬学、細菌学などの分野では素人ではなかった。
恐らく基本的な訓練を受ければ、研究チームの一員としてすぐに働ける。
専門的な分野では十分だったが、英語などの周辺の分野ではまだまだ拙い。
特に英語力は海外の文献をあたるのに必須だ。
高校生としては優秀なのだが、専門的な論文の読解力が必要だった。
それはジェシカが対応することとなった。
しばらくしてから、蓮花が連絡を寄越した。
「非常に優秀です! 何よりも熱心で、みんなが褒めてますよ!」
「そうか。まあ、今は熱心さだけしかないだろうけどな。お前たちが面倒を見てくれ」
「もちろんです! でも、薬学などの分野でも結構本当に優秀ですのよ?」
「分かったよ。まあ、今は褒める所じゃない。しっかりと仕込んでやってくれ」
「はい、分かりました!」
まあ、蓮花も本当に嬉しいのだろう。
それは稔の心意気に対してだ。
自分が助けてもらったことを喜ぶばかりではなく、自ら決めて俺たちに協力したいという心だ。
「それでレジーナ様と久留守君をお連れ下さるお話は如何でしょうか」
稔は確実に《エイル》の影響を受けている。
だから一度、《エイル》のことを知るルイーサと久留守を稔に会わせておきたかったのだが、一つ問題があった。
「ああ、それな。久留守は問題ねぇんだけど、ルイーサがなぁ。何しろあの貫禄だ。タヌ吉の結界なんかがどう反応するのか。またぶっ壊れでもしたら大変だしよ」
以前に柳が防壁をぶっ壊して大変な騒ぎになった。
防壁の再構築もさることながら、タヌ吉が激オコで柳も殺され掛けた。
もちろん柳に罪は無いのだが、タヌ吉の心情はそれでは済まない。
俺への愛で生み出した結界を、不可抗力と言って納まることは無い。
だからルイーサが来て万一のことがあれば非常に面倒なことになるのだ。
万一にもルイーサとタヌ吉が争ったら研究所が吹っ飛ぶ可能性すらある。
「はぁ、何とかならないものでしょうか」
「ルイーサにも聴いてみたんだけどよ、「知らない」ってさ。俺が何とかしろってよ、まあ、そりゃそうだよなぁ」
「大変でございますね」
「まったくなんだよ。タヌ吉の方に聞いてみてもさ、オートカウンターみたいな自動防御だから分からないって」
「困りましたねぇ」
「そうだよ。ぶっ壊れりゃタブ吉がキレるに決まってるしよ」
「はぁ」
本当に困った。
蓮花研究所のタヌ吉の結界は、確かに防壁に沿って仕込まれているものだから、タヌ吉の言う通りなのかもしれないが。
他にも幾つもそのような結界を設けてもいる。
ルイーサが余りにも巨大な波動を持っているので問題なのだ。
俺が味方だと言っても、結界がどのように反応するのかは分からない。
大体にして、あのプライドの塊のようなルイーサが、結界に気を遣うことなど考えられない。
本当に俺たちが何とかするしかないのだ。
しかしながら、そもそも俺やクロピョン、タマやモハメドなどは問題なく入れているのだ。
どうやら、タヌ吉がルイーサを嫌っているのかもしれない。
そもそも俺の家にもタヌ吉の結界があるのだ。
でもルイーサはいつでも俺の家には入れる。
俺がルイーサのことを「最愛の恋人」などと言っているせいかもしれない。
俺がそう言い始める前から俺の家には出入りしていたので、今更拒絶出来ないのか。
タヌ吉の機嫌を取りながらそれとなく話しても、タヌ吉はシラを切る。
「ほら、もうお前とはさ、子どもまで二人も作ったラブラブの仲じゃんか」
「さようでございますね!」
作ろうと思って出来たのではないのだが。
「もうタヌ吉のことはカワイくってしょうがねぇんだよ」
「まあ、嬉しい!」
「野薔薇も野菊もお前の子だからさ、本当に可愛らしくてよ!
「ウフフフフフ」
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