富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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佐野原稔 Ⅳ

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 4月の中旬。
 ルイーサを早乙女の家に呼んだ。
 何度も蓮花研究所に呼ぶことを考えたが、タヌ吉の結界の問題が大きく、またそもそもルイーサを出迎えるに相応しい部屋も面倒なので、結局早乙女の家に落ち着いた。
 俺の家でもいいのだが、ルイーサにあの階段を上らせるのが忍びない。
 他の人間であればともかく、ルイーサには格式が絶対に必要なのだ。
 早乙女の家ならば、防衛システムは俺たちが幾らでも調整出来る。
 それに早乙女の家のエレベーターであれば、ルイーサの巨大な衣装も大丈夫だ。
 なんならでかい階段を使ってもいい。
 ああ、無意味なでかい家を建てておいてよかったぁー。
 以前に実際にルイーサを連れて早乙女の家に来たこともある。
 早乙女にお前の家を使わせてくれと言うと、困った顔をしていた。

 「久留守も同席させたいんだ」
 「それは構わないんだが」
 「お前の家って無駄にでかいじゃん」
 「石神が作ったんだろう!」
 「ワハハハハハハハ!」

 当然だが、早乙女と雪野さんは今、緊張しまくっている。
 早乙女の家族は全員ルイーサには会っているのだが、だからこその緊張だ。
 およそ生物としての格が違うことはよーく分かってる。
 畏怖以外の感情は抱けない。
 稔は「タイガーファング」で早目に到着していた。
 早乙女の家の広い庭に直接入った。
 まあ、目障りなのですぐに「タイガーファング」は戻ったが。
 稔は随分と早く来させたが、絶対にルイーサを待たせるわけにはいかん。
 ルイーサには日本時間の11時に来てくれと言ってある。
 昼食を一緒に摂るつもりで、そのために申し訳ないが鷹にも来て貰っていた。
 鷹は今朝早くに早乙女の家に入っている。
 早乙女家に行くと分かるとロボも付いて来た。
 鷹が来ていることも察知しているのかもしれん。

 11時になり、ルイーサがやって来た。
 もちろん全員で出迎えで玄関前で待っていた。
 俺とロボ、早乙女一家、稔、鷹、ランたち。
 久留守は俺が抱いていた。
 もちろん、ルイーサが乗ってるのはあのでかい黒い馬車(?)だ。
 空の向こうからまっすぐに早乙女の家に向かっている。
 庭に直接降りる。
 そのまま俺たちがいる玄関前までゆっくりと進んで来る。
 巨大な馬(?)が止まり、蹄で地面を踏んでいなないた。
 御者が降りて、恭しくドアを開け、プラチナゴールドのレースのドレスを着たルイーサが出て来た。
 ルイーサがにこやかに笑い、俺に声を掛けて来た。

 「タカトラ!」
 「よう、ルイーサ、わざわざ悪いな」
 「何を言う。お前に呼ばれればどこにでも行こうぞ」
 「ありがとうな」

 全員が挨拶し、久留守はルイーサに手招かれて肩を抱かれた。

 「クルス、大分成長したな」
 「はい、もうすぐ美獣様のお役に立てます」
 「そうか。おい、《エイル》に見込まれた者よ」
 
 稔のことだ。
 俺は稔をルイーサの前に連れて行った。

 「ミノル・サノハラだ。今は蓮花の研究所で働いているよ」
 「おお、そうか。なるほど、良い波動をしているな」

 ルイーサは決して「世辞」は言わない。
 ルイーサが言ったからには、確かにそうなのだ。
 それが分かったか、稔は恭しく頭を下げた。

 「レジーナ様、お初にお目にかかります。佐野原稔です!」
 「稔、ルイーサは美しいだろう」
 「はい! とてもこの世のものとは思えないほどに!」

 挨拶は俺が仕込んだ。
 ルイーサは満足そうに微笑んでいる。

 「ロボ、お前も来ていたか」
 「にゃー」

 ルイーサは初めて自ら動いてロボの頭を撫でた。
 そして鷹を向いて嬉しそうに微笑んだ。

 「ヨウ、お前が来ているということは、食事は期待して良いのだな」
 「レジーナ様がいらっしゃると聞き、菲才ながらも是非私に用意させて欲しいと石神先生にお願いいたしました」
 「そうか、嬉しいぞ。ではまた後でな」
 「はい!」

 早乙女と雪野さんと怜花には微笑んで手を挙げただけで、声は掛けられなかった。
 早乙女が物欲しそうな目で俺を見ていた。
 まあ、仕方ねぇじゃん。
 中へ入ると柱たちがルイーサに挨拶し、ルイーサも嬉しそうに話し掛けた。
 また早乙女が俺を見ていた。
 俺がルイーサを連れて先にエレベーターで3階に上がった。
 ルイーサのドレスが大きく、他の人間が乗ると窮屈だからだ。
 勝手にリヴィングに入り、ソファに座らせる。
 今日のために普段使っているものではなく「貴賓用調度倉庫」から豪奢なものを運んでいる。
 早乙女が「こんなものまで……」とまた驚いていた。
 こいつら、まだ「仕様書」を把握してねぇか。
 もう何年にもなるのになー。
 後からすぐに他の全員が上がって来て、雪野さんがコーヒーを淹れた。
 うちからパヴォーニを持って来ており、それでエスプレッソを持って来る。
 事前に練習してもらっていた。
 俺とルイーサの分だけだ。
 ソファには他に稔と久留守だけが座る。
 ロボは鷹のところへ行きそうになり、雪野さんが止めてくれた。
 鷹は今集中している。
 ルイーサが雪野さんに声を掛けてくれた。
 雪野さんの大きなお腹を見た。

 「ユキノ、もうすぐ子どもが生まれるか」
 「は、はい! そうです、来月の予定です!」
 「ふむ、また良い光の子だな」
 「そうですか!」
 「レイカも良い。お前の家族は良いな」
 「ありがとうございます!」

 離れたリヴィングのテーブルでまた早乙女がこっちを見ていた。
 しょうがねぇだろう。
 ルイーサに一服してもらい、俺たちは打ち合わせのために移動した。
 早乙女たちが立ち上がって見送る。
 久留守は俺がまた抱き上げた。
 久留守が嬉しそうな顔をする。

 「早乙女、第一談話室を借りるぞ」
 
 廊下を進みながら言った。

 「あ、それ知ってるぞ! 分かった、すぐに用意する!」

 早乙女が嬉しそうな顔をして走って俺の前に出た。

 「あ、やっぱやめよう。第二談話室にするわ」

 俺は廊下を戻って別なフロアへ移動した。

 「……」

 早乙女が何とも言えない顔をしていた。
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