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第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者
第四十八話 満ち足りた日々7 久しぶりにあったら、可愛らしいのは妄想の産物かと思ったけど、やっぱり可愛い
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「先触れも出さずに、急に来て伯爵家のお嬢様にお会いできると思っているのか? はっ。何様のつもりだ。勘違いも甚だしい」
何様? お前の大切なお嬢様の婚約者様だよ。
俺を見下すような態度を取るのは、ネリーネ嬢と芝居を見に行った日に会った使用人だ。確かダニーと呼ばれていた。
この男がいうことはもっともで、そこまで気が回らなかったのは事実だが、客人扱いもされずに、だだっ広い玄関ホールに立たされたまま待たされるのは納得がいかない。
「ネリーネ嬢には少しでも時間があれば会いに行くと約束している。今日はその約束を果たしただけだ。都合が合わずに会えないのなら帰らせていただく」
帰るつもりはないが、俺は言い返して使用人の男を睨みつけた。
使用人の男は大袈裟にため息をつく。
「別に帰れとは言っていないだろう? 婚約するからと調子に乗りやがって。普通、伯爵家のご令嬢であれば午後はお茶会に出られたり開催されたりとお忙しいのだ。先触れも出さずに会いにくるような不作法な男に嫁がなくてはいけないだなんて、ネリーネお嬢様が不憫でならない」
「ダニー! わたくしはこの一年間でお茶会のお誘いを受けたことなんてありませんし、お茶会を開いたとしても誰も来ていただけないのは、ダニーが一番わかっているでしょう。つまらない見栄を張るべきではないわ」
侍女を従えて登場したネリーネ嬢が階段の上で使用人を叱りつける。窓から入る光に金色の髪が輝いていた。話している内容は偉そうにするものではないのに、いつも通りの無駄にけばけばしいドレスで威風堂々と立つ姿は、まるで女帝のようだ。
「ステファン様は今までおモテになったことがないから女性と会う約束なんてしたことがないのよ。先触れを出すことなんて知らないのだから責めるだけ無駄よ」
そうドスの効いた声で言うと、鼻で笑う。
ゆっくりと階段を降りてくるネリーネ嬢に圧倒される。まさに嫌われ者の毒花の名がふさわしい。
……あれ?
おい。こないだの可愛らしさはどこにいった。
もしかして可愛いらしいネリーネ嬢は、疲れ果てた俺が現実逃避で作り出した妄想の産物だったのだろうか……
「ステファン様。よろしいこと? 今日はお祖母様のサロンから帰ってすぐでしたから身だしなみを整えておりましたけど、女性は身だしなみを整えるのに時間がかかりますのよ? 急に来ては待たされる可能性があることはお知りおきいただきたいわ」
「あぁ、そうかよ。俺は時間が取れれば会いに行くと貴女とした約束を誠実に守ろうとしただけだが、それは貴女のような高位貴族のお嬢様が大切にしてる高貴な御作法にそぐわないっていうんだな。はいはい。わかりました。次から連絡いたします」
言い返して階段から降りて俺の目の前に立ったネリーネ嬢を睨みつける。
「えぇ。そうなさって。面倒かもしれませんけど作法には意味があるのよ。作法の背景には、万全な身支度で大切な方にお会いしたいという女心があるということを理解していただきたいわ」
えっ……ええっ⁈
つまり、俺に万全の身支度で会いたいってこと?
「それに今日のようなことがあると、この先もずっと先触れがなくてもステファン様が私に会いにいらっしゃるかもしれない。と、期待して毎日過ごしてしまいますもの」
気の動転した俺を見上げる真剣な少女の青い瞳に吸い込まれそうになる。
「お会いできるかもと期待して、お会いできない日々を過ごさなくてはいけないは辛いのに……」
青い瞳が涙で潤み、赤い小さな唇は震える。小さな手で扇子をギュッと握りしめて必死に泣くのを堪えている。
「あっ、あの! やっ……約束したのに会いにこれずに申し訳なかった。あれからずっと忙しかったが今日急に時間ができて、貴女に会いたい一心でそこまで気が回らなかったのだ」
俺の言葉に今にも泣きそうだった顔がピンクに染まり弾けたような笑顔に変わる。
「いいえ。謝る必要はございませんわ。だってステファン様は約束通り会いに来てくださいましたもの。それにこれからはわたくしに会いにきてくださる時は先触れをお出しいただけるのでしょう?」
間違いない。
俺の、婚約者は、やっぱり可愛い!
何様? お前の大切なお嬢様の婚約者様だよ。
俺を見下すような態度を取るのは、ネリーネ嬢と芝居を見に行った日に会った使用人だ。確かダニーと呼ばれていた。
この男がいうことはもっともで、そこまで気が回らなかったのは事実だが、客人扱いもされずに、だだっ広い玄関ホールに立たされたまま待たされるのは納得がいかない。
「ネリーネ嬢には少しでも時間があれば会いに行くと約束している。今日はその約束を果たしただけだ。都合が合わずに会えないのなら帰らせていただく」
帰るつもりはないが、俺は言い返して使用人の男を睨みつけた。
使用人の男は大袈裟にため息をつく。
「別に帰れとは言っていないだろう? 婚約するからと調子に乗りやがって。普通、伯爵家のご令嬢であれば午後はお茶会に出られたり開催されたりとお忙しいのだ。先触れも出さずに会いにくるような不作法な男に嫁がなくてはいけないだなんて、ネリーネお嬢様が不憫でならない」
「ダニー! わたくしはこの一年間でお茶会のお誘いを受けたことなんてありませんし、お茶会を開いたとしても誰も来ていただけないのは、ダニーが一番わかっているでしょう。つまらない見栄を張るべきではないわ」
侍女を従えて登場したネリーネ嬢が階段の上で使用人を叱りつける。窓から入る光に金色の髪が輝いていた。話している内容は偉そうにするものではないのに、いつも通りの無駄にけばけばしいドレスで威風堂々と立つ姿は、まるで女帝のようだ。
「ステファン様は今までおモテになったことがないから女性と会う約束なんてしたことがないのよ。先触れを出すことなんて知らないのだから責めるだけ無駄よ」
そうドスの効いた声で言うと、鼻で笑う。
ゆっくりと階段を降りてくるネリーネ嬢に圧倒される。まさに嫌われ者の毒花の名がふさわしい。
……あれ?
おい。こないだの可愛らしさはどこにいった。
もしかして可愛いらしいネリーネ嬢は、疲れ果てた俺が現実逃避で作り出した妄想の産物だったのだろうか……
「ステファン様。よろしいこと? 今日はお祖母様のサロンから帰ってすぐでしたから身だしなみを整えておりましたけど、女性は身だしなみを整えるのに時間がかかりますのよ? 急に来ては待たされる可能性があることはお知りおきいただきたいわ」
「あぁ、そうかよ。俺は時間が取れれば会いに行くと貴女とした約束を誠実に守ろうとしただけだが、それは貴女のような高位貴族のお嬢様が大切にしてる高貴な御作法にそぐわないっていうんだな。はいはい。わかりました。次から連絡いたします」
言い返して階段から降りて俺の目の前に立ったネリーネ嬢を睨みつける。
「えぇ。そうなさって。面倒かもしれませんけど作法には意味があるのよ。作法の背景には、万全な身支度で大切な方にお会いしたいという女心があるということを理解していただきたいわ」
えっ……ええっ⁈
つまり、俺に万全の身支度で会いたいってこと?
「それに今日のようなことがあると、この先もずっと先触れがなくてもステファン様が私に会いにいらっしゃるかもしれない。と、期待して毎日過ごしてしまいますもの」
気の動転した俺を見上げる真剣な少女の青い瞳に吸い込まれそうになる。
「お会いできるかもと期待して、お会いできない日々を過ごさなくてはいけないは辛いのに……」
青い瞳が涙で潤み、赤い小さな唇は震える。小さな手で扇子をギュッと握りしめて必死に泣くのを堪えている。
「あっ、あの! やっ……約束したのに会いにこれずに申し訳なかった。あれからずっと忙しかったが今日急に時間ができて、貴女に会いたい一心でそこまで気が回らなかったのだ」
俺の言葉に今にも泣きそうだった顔がピンクに染まり弾けたような笑顔に変わる。
「いいえ。謝る必要はございませんわ。だってステファン様は約束通り会いに来てくださいましたもの。それにこれからはわたくしに会いにきてくださる時は先触れをお出しいただけるのでしょう?」
間違いない。
俺の、婚約者は、やっぱり可愛い!
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