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1 ペネロペside
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「なぁ、ペネロペ。いい加減諦めて俺のところに嫁いでこいって」
私──伯爵令嬢のペネロペ・キャンベルは、昼下がりの個室に入るや否やドアを閉められ、待ち構えていた男に顔を寄せられて結婚を迫られているけど、残念ながらこの状況にトキメキはない。
目の前の男はまだアカデミーに通う学生であるにもかかわらず『王太子殿下側近の三騎士の一人』と自称しているだけあって、しっかりとした肩幅にがっちりと筋肉がついた身体つきをしている。
私の顔の横に置かれた腕は太くて逞しい。
「……いやよ! あんたみたいな貧乏な子爵家の次男に嫁ぐなんてお父様が許さないわ!」
「へぇ。キャンベル伯爵が許さないから……ね。ペネロペ自身は俺と結婚するのは吝かじゃないってことか?」
耳元で囁く声の主を睨みつける。
「……だっ! ……誰が! 誰があんたみたいな派手な赤毛男と結婚したいもんですかっ!」
「顔真っ赤だぜ。ペネロペったら、こんなに初心なのに殿下を籠絡せるとおもってるなんて笑っちゃうね」
「わっ私は色気溢れる美女だもの! 私に迫られたら殿下だってイチコロに違いないわ!」
「ははっ。顔どころか髪の毛まで真っ赤にして何言ってんだよ」
イヤって程見慣れてしまった派手な赤毛の男が、そう言って三白眼をニヤリと細めると、私の髪の毛を一筋手に取った。
「無礼だわ! 私の髪の毛は明るい鳶色よ! あんたみたいな能天気な赤毛じゃないわ! 二度と話しかけて来ないで!」
「じゃあ、ペネロペも殿下の執務室に潜り込む様な事は二度とすんなよ」
平手打ちをしようとした私の手を避けた男が私の後ろにあるドアノブに手をかける。
「それとも俺に会いに来てるんだったら、直接寮の部屋にこいよ。待ってるぜ」
耳元でそう囁いた男は私の背中を押して、アカデミー内にある殿下の執務室から追い出すと、鍵を中から閉めた。
「ジェレミー・ストーン! 覚えてらっしゃい!」
私の叫び声がアカデミーの静かな廊下にこだました。
殿下がいない間に潜り込む為に執務室を訪れたにも関わらず、邪魔された私は午後の講義を受けるために教室に戻る。
ジェレミーに揶揄われて追い返されるのは何回め?
もう自分じゃ数えきれないほどになってしまった。
こんなはずじゃなかったのに。
私だって好きで潜り込もうとしてる訳じゃないわ。
引くに引けない状態なんだから、しょうがないじゃない。
一年前のこの時期、年頃の令嬢を招いた王室主催のお茶会は殿下が婚約者を決めるための顔見せを兼ねていると噂されていた。
お茶会には婚約者候補として有力な年頃の令嬢は必ず招待される。
長い間国王陛下をお支えするために秘書官を務める父を持つ私も、開かれたお茶会に招待されていた。
期待をしていなかったと言ったら嘘になるわ。
いままでお近づきになる機会はなかったけど、サラサラのプラチナブロンドに碧眼のハンサムな王子様は年頃の令嬢達の憧れの的だもの。
お会いいただけるなんて夢にも思っていなかった私たちはお茶会で色めきだった。
着飾り、出しゃばらずに殿下に笑顔を向け、王太子妃の座を狙うライバルを牽制しあったのに……
結局、殿下が婚約者に選んだのはお茶会に呼ばれもしていなかった幼馴染の侯爵令嬢だった。
結局、貴族社会は家柄が物を言う。
殿下と歳の近い侯爵家の令嬢というだけで幼馴染として過ごせただけでなく婚約者の座を射止められる。
諦めかけた私にお父様は首を振った。
「今回の婚約は正式に公表された訳ではない。お前にもまだ機会がある。いいか。ペネロペ。侯爵家の娘というだけでパッとしない令嬢なんて役に立たない。国王陛下を長年お支えしている私の娘が王太子妃になり、この先も私が王室を支え続けるべきなのだ。いいか。どんな手を使ってでも王太子を籠絡してこい」
そう言われてあの時の私は頷くしかできなかった。
もう引き返せないのよ。
……しょうがないじゃない。
私──伯爵令嬢のペネロペ・キャンベルは、昼下がりの個室に入るや否やドアを閉められ、待ち構えていた男に顔を寄せられて結婚を迫られているけど、残念ながらこの状況にトキメキはない。
目の前の男はまだアカデミーに通う学生であるにもかかわらず『王太子殿下側近の三騎士の一人』と自称しているだけあって、しっかりとした肩幅にがっちりと筋肉がついた身体つきをしている。
私の顔の横に置かれた腕は太くて逞しい。
「……いやよ! あんたみたいな貧乏な子爵家の次男に嫁ぐなんてお父様が許さないわ!」
「へぇ。キャンベル伯爵が許さないから……ね。ペネロペ自身は俺と結婚するのは吝かじゃないってことか?」
耳元で囁く声の主を睨みつける。
「……だっ! ……誰が! 誰があんたみたいな派手な赤毛男と結婚したいもんですかっ!」
「顔真っ赤だぜ。ペネロペったら、こんなに初心なのに殿下を籠絡せるとおもってるなんて笑っちゃうね」
「わっ私は色気溢れる美女だもの! 私に迫られたら殿下だってイチコロに違いないわ!」
「ははっ。顔どころか髪の毛まで真っ赤にして何言ってんだよ」
イヤって程見慣れてしまった派手な赤毛の男が、そう言って三白眼をニヤリと細めると、私の髪の毛を一筋手に取った。
「無礼だわ! 私の髪の毛は明るい鳶色よ! あんたみたいな能天気な赤毛じゃないわ! 二度と話しかけて来ないで!」
「じゃあ、ペネロペも殿下の執務室に潜り込む様な事は二度とすんなよ」
平手打ちをしようとした私の手を避けた男が私の後ろにあるドアノブに手をかける。
「それとも俺に会いに来てるんだったら、直接寮の部屋にこいよ。待ってるぜ」
耳元でそう囁いた男は私の背中を押して、アカデミー内にある殿下の執務室から追い出すと、鍵を中から閉めた。
「ジェレミー・ストーン! 覚えてらっしゃい!」
私の叫び声がアカデミーの静かな廊下にこだました。
殿下がいない間に潜り込む為に執務室を訪れたにも関わらず、邪魔された私は午後の講義を受けるために教室に戻る。
ジェレミーに揶揄われて追い返されるのは何回め?
もう自分じゃ数えきれないほどになってしまった。
こんなはずじゃなかったのに。
私だって好きで潜り込もうとしてる訳じゃないわ。
引くに引けない状態なんだから、しょうがないじゃない。
一年前のこの時期、年頃の令嬢を招いた王室主催のお茶会は殿下が婚約者を決めるための顔見せを兼ねていると噂されていた。
お茶会には婚約者候補として有力な年頃の令嬢は必ず招待される。
長い間国王陛下をお支えするために秘書官を務める父を持つ私も、開かれたお茶会に招待されていた。
期待をしていなかったと言ったら嘘になるわ。
いままでお近づきになる機会はなかったけど、サラサラのプラチナブロンドに碧眼のハンサムな王子様は年頃の令嬢達の憧れの的だもの。
お会いいただけるなんて夢にも思っていなかった私たちはお茶会で色めきだった。
着飾り、出しゃばらずに殿下に笑顔を向け、王太子妃の座を狙うライバルを牽制しあったのに……
結局、殿下が婚約者に選んだのはお茶会に呼ばれもしていなかった幼馴染の侯爵令嬢だった。
結局、貴族社会は家柄が物を言う。
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諦めかけた私にお父様は首を振った。
「今回の婚約は正式に公表された訳ではない。お前にもまだ機会がある。いいか。ペネロペ。侯爵家の娘というだけでパッとしない令嬢なんて役に立たない。国王陛下を長年お支えしている私の娘が王太子妃になり、この先も私が王室を支え続けるべきなのだ。いいか。どんな手を使ってでも王太子を籠絡してこい」
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もう引き返せないのよ。
……しょうがないじゃない。
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