2 / 9
2 ペネロペside
しおりを挟む
もうすぐ、この渡り廊下を殿下が通る。
同じアカデミーに通っているけれど、すでに王室の仕事を任されている殿下は普段執務室に篭っている。
お目にかかることはほとんどないため、お会いするにはこないだみたいに執務室に潜り込んで待ち伏せするか、たまに受ける授業で移動するタイミングを見計らって待ち伏せするしかない。
でも、殿下は普段移動をするときは冷淡そうな従者を連れて歩いているのでいつでもいいわけじゃない。
騎士になるための実践授業には殿下も参加されていて、その移動時間は一緒に受ける生徒達の模擬になるからと護衛を任せている。その間はいつも側にいる従者は執務室で控えているから話しかけやすい。
今日も授業が終わっていつもの執務室に戻る殿下の側にあの冷淡そうな従者はいない。しかも教室の窓からジェレミーが居残りしているのが見えたから邪魔者もいない。
好機だわ。
いそいで渡り廊下まで降りた私はザワザワとした喧騒に耳を澄まし、殿下の声を探す。
何組か見送りやっと遠くから聞こえた。
深呼吸して心の準備をする。
飛び出して。
殿下の前で貧血のフリをして。
倒れ込む。
何度も思い描いたその計画を頭の中で反復していざ飛び出そうとした瞬間……
「また、お前か」
「ひっ!」
「何の用だよ」
「あんたになんか用はないわ! どきなさいよ!」
ジェレミーがいないと思って油断していた。
「いましがた殿下には別の通路に向かっていただいた。バタバタと慌てて階段を降りて柱の影に隠れた姿が遠くから見えるし、香水の匂いをプンプンさせてるしで目立ちすぎて待ち伏せになってないんだよ。残念だったな」
柱の影に隠れていたつもりの私に、金髪の男がそう言って鼻で笑う。
ジェレミーの方がマシだったわ……
私はジェレミーと同様に『王太子殿下側近の三騎士』と自称する殿下の学友──ブライアン・ケイリーに見下ろされる。
随分前に王族警護の近衛騎士団をまとめていたブライアンの父親と、今も国王陛下の秘書官を務める私のお父様は犬猿の仲だったらしくて、両家の関係はすこぶる悪い。
私もブライアンもお互いにいい感情を持っていない。
「お前、いい加減にしろ。ジェレミーが見逃してるからって調子に乗んなよ」
「は? 何言ってるの? ジェレミーが見逃してる? いつも邪魔ばかりされてるわ!」
「そうか? 他の令嬢と同じようにお前もアカデミーの衛兵に突き出しゃいいのに『俺に任せろ』なんて言うから任せてたら揶揄ってるだけじゃねぇか」
『俺に任せろ』?
……他の令嬢は揶揄ってないの?
それってどういう事?
「まぁどうせキャンベル卿に泣きついて有耶無耶にするつもりなんだろうけど、これ以上殿下の迷惑になることをするようなら、ジェレミー任せにしないで俺が証拠を集めて然るべき対応をするからな」
ブライアンの物言いにカチンときて「お父様に言い付けてやる」って言いそうになる。でもそれじゃあブライアンの言った事を肯定する事になるのでグッと我慢して睨みつける。
「やめろよブライアン。ペネロペが謹慎なんて、俺の結婚相手がアカデミーから居なくなっちまう。そんなの寂しいじゃないか」
ブライアンと対峙していたはずの私の視界に急に派手な赤毛が飛び込む。
「あんたと結婚の約束なんてしていないわ!」
ニヤニヤ笑うジェレミーを睨みつける。
「ペネロペお待たせ。俺のこと待ってたんだろ? その握りしめてるお高そうなハンカチで俺の汗を拭ってくれるつもりだったのか? 美女に鍛錬の疲れを労ってもらえるなんて騎士の誉だな」
「嫌よ! 誰が汗を拭いてやるもんですか! 汚らわしい!」
ジェレミーは汗だくの訓練服のままだった。
みんな実戦授業の後は汗を拭いて着替えてから来るのに……
慌てて走ってここまで来たの?
なんで?
もしかして私がブライアンに絡まれているのが見えたから?
「とっ……とにかく殿下がいらっしゃらないなら用はないわ。ごめんあそばせ」
私は慌てて取り繕うと、その場から離れた。
同じアカデミーに通っているけれど、すでに王室の仕事を任されている殿下は普段執務室に篭っている。
お目にかかることはほとんどないため、お会いするにはこないだみたいに執務室に潜り込んで待ち伏せするか、たまに受ける授業で移動するタイミングを見計らって待ち伏せするしかない。
でも、殿下は普段移動をするときは冷淡そうな従者を連れて歩いているのでいつでもいいわけじゃない。
騎士になるための実践授業には殿下も参加されていて、その移動時間は一緒に受ける生徒達の模擬になるからと護衛を任せている。その間はいつも側にいる従者は執務室で控えているから話しかけやすい。
今日も授業が終わっていつもの執務室に戻る殿下の側にあの冷淡そうな従者はいない。しかも教室の窓からジェレミーが居残りしているのが見えたから邪魔者もいない。
好機だわ。
いそいで渡り廊下まで降りた私はザワザワとした喧騒に耳を澄まし、殿下の声を探す。
何組か見送りやっと遠くから聞こえた。
深呼吸して心の準備をする。
飛び出して。
殿下の前で貧血のフリをして。
倒れ込む。
何度も思い描いたその計画を頭の中で反復していざ飛び出そうとした瞬間……
「また、お前か」
「ひっ!」
「何の用だよ」
「あんたになんか用はないわ! どきなさいよ!」
ジェレミーがいないと思って油断していた。
「いましがた殿下には別の通路に向かっていただいた。バタバタと慌てて階段を降りて柱の影に隠れた姿が遠くから見えるし、香水の匂いをプンプンさせてるしで目立ちすぎて待ち伏せになってないんだよ。残念だったな」
柱の影に隠れていたつもりの私に、金髪の男がそう言って鼻で笑う。
ジェレミーの方がマシだったわ……
私はジェレミーと同様に『王太子殿下側近の三騎士』と自称する殿下の学友──ブライアン・ケイリーに見下ろされる。
随分前に王族警護の近衛騎士団をまとめていたブライアンの父親と、今も国王陛下の秘書官を務める私のお父様は犬猿の仲だったらしくて、両家の関係はすこぶる悪い。
私もブライアンもお互いにいい感情を持っていない。
「お前、いい加減にしろ。ジェレミーが見逃してるからって調子に乗んなよ」
「は? 何言ってるの? ジェレミーが見逃してる? いつも邪魔ばかりされてるわ!」
「そうか? 他の令嬢と同じようにお前もアカデミーの衛兵に突き出しゃいいのに『俺に任せろ』なんて言うから任せてたら揶揄ってるだけじゃねぇか」
『俺に任せろ』?
……他の令嬢は揶揄ってないの?
それってどういう事?
「まぁどうせキャンベル卿に泣きついて有耶無耶にするつもりなんだろうけど、これ以上殿下の迷惑になることをするようなら、ジェレミー任せにしないで俺が証拠を集めて然るべき対応をするからな」
ブライアンの物言いにカチンときて「お父様に言い付けてやる」って言いそうになる。でもそれじゃあブライアンの言った事を肯定する事になるのでグッと我慢して睨みつける。
「やめろよブライアン。ペネロペが謹慎なんて、俺の結婚相手がアカデミーから居なくなっちまう。そんなの寂しいじゃないか」
ブライアンと対峙していたはずの私の視界に急に派手な赤毛が飛び込む。
「あんたと結婚の約束なんてしていないわ!」
ニヤニヤ笑うジェレミーを睨みつける。
「ペネロペお待たせ。俺のこと待ってたんだろ? その握りしめてるお高そうなハンカチで俺の汗を拭ってくれるつもりだったのか? 美女に鍛錬の疲れを労ってもらえるなんて騎士の誉だな」
「嫌よ! 誰が汗を拭いてやるもんですか! 汚らわしい!」
ジェレミーは汗だくの訓練服のままだった。
みんな実戦授業の後は汗を拭いて着替えてから来るのに……
慌てて走ってここまで来たの?
なんで?
もしかして私がブライアンに絡まれているのが見えたから?
「とっ……とにかく殿下がいらっしゃらないなら用はないわ。ごめんあそばせ」
私は慌てて取り繕うと、その場から離れた。
0
あなたにおすすめの小説
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~
柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。
そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。
クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。
さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる