8 / 9
8 ジェレミーside
しおりを挟む
回廊を歩いている役人達の視線は、しゃくりあげるように泣くペネロペと、そのペネロペを勢いよく抱きしめてしまった俺に集中している。
「……ペネロペ。中庭に行こう」
俺は泣き止まないペネロペの手を引いて中庭に出る。大きな噴水の前で止まると縁に二人で腰を下ろした。
ここなら水飛沫の音で泣き声も周りに聞こえない。
「なぁ、ペネロペ。ペネロペは本当に王太子妃になりたいと思ってるのか?」
ペネロペは涙を溜めた瞳で俺を睨む。
「王太子殿下の婚約は公表されてないだけで、発表に向けて準備が進んでるんだ。いくらペネロペが国王陛下付きの秘書官の娘だって、相手は由緒正しい侯爵家のご令嬢だぜ。太刀打ちできない」
「わかってるわよ。そんな事」
「なぁ、本当に俺じゃダメか? そりゃ何もかも殿下の足元に及ばないし、俺は小さな領地しかない子爵家の次男だから、領地を継ぐことも領地を分けてもらうことも出来ないけど……俺は次の春には王室の武官になる。今みたいに贅沢はさせてやれないだろうけど、それなりの給金だってもらえるはずだし、それにペネロペが俺のそばにいてくれるなら、騎士として爵位をもらえるように誰よりも頑張るからさ」
「私がそばにいたら頑張れるの? なんで?」
「好きだからだろ。言わせんなよ」
言って自分の顔が赤くなるのがわかる。
「ジェレミーが私のことが好きなはわかってるわ。でも、騎士として爵位が賜れるのなんて連隊長クラスなのよ。いくらジェレミーが腕が立っても上に立つのはまず爵位持ちが優先されるのよ? 司令部の偉い人を買収するか太鼓持ちをしないといけないわ。お金も愛想もないジェレミーには無理よ? それこそ私が王太子妃になるのと同じくらい無理だわ。なのになんでそんなに頑張れるほど私のことが好きなの?」
ペネロペは間抜けで可愛い子狸だけど、司令部の買収だとか太鼓持ちだとか言い出すあたり、やっぱり狸の娘だ。
「なに、ニヤニヤ笑ってるのよ」
泣いていたはずのペネロペは冷静に俺を見つめている。
「俺……双子なんだ。双子の姉がちょっと変わったやつでさ。双子ってくらいだから、そいつも赤毛なんだけど、赤毛は他の奴らの三倍頑張ってやっと主人に愛されるとか言ってんだよ。なんで赤毛ってだけでなんでそんなに頑張らなきゃいけないんだよって思うだろ?」
「……そうね」
「そんなやつと小さい頃から一緒だからさ、赤毛のペネロペが頑張ってるのを見るとつい肩入れしちゃうし、俺も頑張らなきゃって思うんだ」
「……私は赤毛じゃないわよ」
「明るい鳶色だろ?」
ペネロペの髪を一筋掴み陽の光をあてると俺より少しだけ深みがある赤茶色い髪の毛がキラキラと光る。
「連隊長になるのが難しいことくらいわかってる。でも俺が貴族でいられるためにはそれしかないし、ペネロペが貴族でいたいならペネロペのために頑張るよ」
「でも……王太子殿下のお怒りを買った私は、修道院送りになるから結婚は無理よ」
「殿下は怒ってなんてらっしゃらなかったよ。ペネロペは具合が悪い殿下の服を緩めようとしてくれただけなんだろ」
「……ジェレミー」
ペネロペは顔を上げて俺をまっすぐ見つめた。
「ん?」
「私、女官になるわ」
「は?」
「庇ってくださった殿下に御恩を返さなくちゃいけないし、それに女官になればジェレミーが王宮で頑張っているのを近くで見られるもの。だから、結婚はまだできないけど婚約ならしてあげる」
そう言ってペネロペは小指を突き出し、俺に指切りを強請る。
「ジェレミーが連隊長になるのと私が王太子妃殿下付きの女官になるのどちらが早いか競争よ。覚悟しておくことね」
ペネロペは俺に高らかに宣戦布告すると去っていってしまった。
「……ペネロペ。中庭に行こう」
俺は泣き止まないペネロペの手を引いて中庭に出る。大きな噴水の前で止まると縁に二人で腰を下ろした。
ここなら水飛沫の音で泣き声も周りに聞こえない。
「なぁ、ペネロペ。ペネロペは本当に王太子妃になりたいと思ってるのか?」
ペネロペは涙を溜めた瞳で俺を睨む。
「王太子殿下の婚約は公表されてないだけで、発表に向けて準備が進んでるんだ。いくらペネロペが国王陛下付きの秘書官の娘だって、相手は由緒正しい侯爵家のご令嬢だぜ。太刀打ちできない」
「わかってるわよ。そんな事」
「なぁ、本当に俺じゃダメか? そりゃ何もかも殿下の足元に及ばないし、俺は小さな領地しかない子爵家の次男だから、領地を継ぐことも領地を分けてもらうことも出来ないけど……俺は次の春には王室の武官になる。今みたいに贅沢はさせてやれないだろうけど、それなりの給金だってもらえるはずだし、それにペネロペが俺のそばにいてくれるなら、騎士として爵位をもらえるように誰よりも頑張るからさ」
「私がそばにいたら頑張れるの? なんで?」
「好きだからだろ。言わせんなよ」
言って自分の顔が赤くなるのがわかる。
「ジェレミーが私のことが好きなはわかってるわ。でも、騎士として爵位が賜れるのなんて連隊長クラスなのよ。いくらジェレミーが腕が立っても上に立つのはまず爵位持ちが優先されるのよ? 司令部の偉い人を買収するか太鼓持ちをしないといけないわ。お金も愛想もないジェレミーには無理よ? それこそ私が王太子妃になるのと同じくらい無理だわ。なのになんでそんなに頑張れるほど私のことが好きなの?」
ペネロペは間抜けで可愛い子狸だけど、司令部の買収だとか太鼓持ちだとか言い出すあたり、やっぱり狸の娘だ。
「なに、ニヤニヤ笑ってるのよ」
泣いていたはずのペネロペは冷静に俺を見つめている。
「俺……双子なんだ。双子の姉がちょっと変わったやつでさ。双子ってくらいだから、そいつも赤毛なんだけど、赤毛は他の奴らの三倍頑張ってやっと主人に愛されるとか言ってんだよ。なんで赤毛ってだけでなんでそんなに頑張らなきゃいけないんだよって思うだろ?」
「……そうね」
「そんなやつと小さい頃から一緒だからさ、赤毛のペネロペが頑張ってるのを見るとつい肩入れしちゃうし、俺も頑張らなきゃって思うんだ」
「……私は赤毛じゃないわよ」
「明るい鳶色だろ?」
ペネロペの髪を一筋掴み陽の光をあてると俺より少しだけ深みがある赤茶色い髪の毛がキラキラと光る。
「連隊長になるのが難しいことくらいわかってる。でも俺が貴族でいられるためにはそれしかないし、ペネロペが貴族でいたいならペネロペのために頑張るよ」
「でも……王太子殿下のお怒りを買った私は、修道院送りになるから結婚は無理よ」
「殿下は怒ってなんてらっしゃらなかったよ。ペネロペは具合が悪い殿下の服を緩めようとしてくれただけなんだろ」
「……ジェレミー」
ペネロペは顔を上げて俺をまっすぐ見つめた。
「ん?」
「私、女官になるわ」
「は?」
「庇ってくださった殿下に御恩を返さなくちゃいけないし、それに女官になればジェレミーが王宮で頑張っているのを近くで見られるもの。だから、結婚はまだできないけど婚約ならしてあげる」
そう言ってペネロペは小指を突き出し、俺に指切りを強請る。
「ジェレミーが連隊長になるのと私が王太子妃殿下付きの女官になるのどちらが早いか競争よ。覚悟しておくことね」
ペネロペは俺に高らかに宣戦布告すると去っていってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~
柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。
そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。
クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。
さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる