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二章 ムーダン王国編

13 花より団子の子です

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サジルが消えた後、箱詰めされていた店主を助けた私達は、すぐさま離宮へと戻って来た。

「フィーは、本当に変なモノを拾うよねー」
「え?拾うって一体何を?」
「根性が捻くれて、色々拗らせていそうな生産性皆無の元王子」

フロースの呆れた視線と含みある言葉に、むぅと口が尖る。

ええと、元王子っていうと、サジルの事かな。
拾ってませんよ?人聞きの悪い。
大体あそこまで育ってしまうと、性格の矯正は無理そうだし、私の手にも余るし、面倒をみきれないわ。
拾ったとしても、元の場所に戻して来なさいって言われる案件だ。

ほら、拾う理由が無いもの。
ーーーーナイナイ。


「姫様が歩けば何とやらに当たる、って言うのは本当だったか。我は、冗談だと思っていたのだが•••••シャークといい、サジルといい」

「その前は、カリンに神獣、妖精に公爵令嬢。あ、モリヤもだね」

拾った覚えは無いんだけど、そうやってジト目で見られると、反論し辛いです!

「ええ、拾って頂いて嬉しゅうございます」

音も無くススっと現れた、お留守番のモリヤがお茶を用意してくれる。
ふうわりとジャスミンが薫る。
お茶を飲むと、拗ね始めた気持ちが落ち着くから不思議。

フロースは長椅子に座ると、丸打ちの細い組紐を数本づつ並べて何やら吟味していて、やがて一つ頷くと、器用に結び始めた。

「わぁ、可愛い、梅結びだ。フロースって器用よね」

五枚の丸い花弁は、白と薄紅、薄紫に濃い紫、小豆に紅の組紐が象っていて、ゴージャスに見えて品がある。
あわじ結びした玉が揺れてるのも可愛い。

「これはフィーにね」

今度はシャンパンゴールドの組紐でピンに吉兆結びをしていて、房飾りが華やかだ。

「これは伎芸に」

最後の組紐は玉房結びで、山吹色の中に深い緑が混じる。
落ち着いた大人の女性に似合いそうな優雅さだ。

「一応、アストレアにもね。髪紐とか、組紐とか見てたら髪留めも欲しくなっちゃうよね。俺はフィーと色違いにしようかな」

だから作ってみたんだって、はにかむフロースが可愛い。美しいのに可愛いって、お得。
アストレアの分も忘れないのが、フロースの良いところなんだよね。
だからフロースは大好きだ。

私と伎芸はそれぞれにお礼を言うと、早速髪に飾る。

女同士のキャッキャッウフフは楽しい。
サジルと会ってしまった事で、引き攣って斜めになってしまった心のバランスが立ち直る。
約1名は男の子だけど、女装しているから良いのです。

そうして戻った平常心で思い返してみると、サジルは奇妙な人、だと思う。

間近で見て、会って、話をした。
空気の様な人だと思った。そこに存在しているのに、輪郭が見えない。
ふと、脳裏に蜃気楼が思い浮かんだ。

場に溶け込むのも上手なのかーーーーそこにあるのが一見自然に見える。
その自然さとーーーー背景と人物が別の、良く出来た合成写真を見るような違和感が、同時に存在するのだ。

常に余裕のある話し方。
サジルの言葉に嘘は無いのだろう。
だがそこに、その【感情】はあるのだろうか。

まるでアリを踏みつぶす無邪気な子供だ。
踏み潰す行為を残酷な事だと、死んでしまうのは可哀想な事なのだと、知識として知っているから、『可哀想だね』とも言える。嘘を言っているつもりは無くて、ただ、可哀想と言う感情を知らないだけの。

その胡散臭さに気が付いても、悠然と大きく見える懐の所為で、異常が正常に、錯覚させられてしまう危うさがあった。

懐が大きいのではなく、ポッカリ穴が空いているだけなんだろうけど。

ーーーーあ、でも。


「フィー、どうしたの?」

ボンヤリとしてしまったようで、気が付けばフロースと伎芸が心配そうに、私の顔ををのぞき込んでいた。

「んー。最後、サジルは笑っていたなぁって」

そう、消える前のサジルは、嬉しそうに笑っていたのだ。
きちんと感情の伴った笑顔だった。
上滑りする言葉では無く、あの最後の言葉は間違いなく【サジルの気持ち】なんだろう。

「だから言ったじゃないか。フィーは、拾っちゃったって」

「そんな事言われても!?ああ、ラインハルト達になんて言えばいいと思う?」

私が言い訳を考えながら、立ち上がってウロウロしていると、ゆらッと空気が歪んだ。
転移の前触れだ。

どうしよう、まだ言い訳を考えていないのに!

アタフタする私をよそに、迷宮組が姿を表した。

「おや、フィア様。お早いお戻りだったのですね」

私を認めるなりロウが差し出してくれたのは、淡いグリーンの輝きを持つ葡萄だ。

「お帰りなさい!それは葡萄?」

こ、これは、絶対に美味しいヤツだ!匂いが既に美味しそだもん。
パイナップルとマスカットの香りが合わさった感じで、堪らずにロウの元へ行けば、ひと粒を口に放り込まれる。

その瑞々しい爽やかな甘さに、私はすっかり言い訳ミッションを忘れてしまい、この後しっかりとお説教を貰う羽目になった。




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読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)




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