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前編
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目の前の再従妹兼幼馴染み兼婚約者殿の言った意味が正直なところ分からなかった。
表情はあくまでも真剣で、何時も無邪気な笑顔を浮かべているせいで幼く見える部分が消えている。
いつもなら甘やかしたいという思いで、今ならば気を惹きたいという欲で、願いを叶えたいとおもう男はそれなりに居るだろう。
『婚約破棄してくださいませんか?』
ただ、その願いの内容がこれでなければだろうが。
実際に婚約しているのは当たり前だが私だけなので、他の男がもし願われるなら婚約破棄ではないだろうが、要するに距離を置こうという願いを叶えてしまっては本末転倒になる。
「……依頼する場合は破棄じゃなくて解消って言わないかな?」
とりあえずそう返す。勝手な印象も少し入っているが破棄というのは一方的に突きつける場合が多い。
「いえ、婚約破棄でお願いします」
言葉選びを間違えたわけではないらしい。
どうして破棄だなんてこれまた目立つことを。
「こちらから破棄したとなると君の評判に傷がつくよ?」
婚約者殿は成人前で、成人前の婚約は親が決めたものが殆どで、前提としていた条件が変わってしまえば解消を考えることもなくはない。絶対に円満に解消出来るというものでもないが。
それに成長しお互いの自我が確立してみればどう考えても利点以上に不利益をもたらすほど合わなかったということもある。……礼儀としてその理由で納得し深読みはしないように。
そのため少なくとも成人前の婚約解消は過剰な身体的接触でもしてない限り表立っては問題にはされない。
だからそれなりに期間が長くてそこそこ仲良くしているつもりの婚約者相手に解消したいと何かの拍子に思われることもあるかもしれない。
……政略でも耐えられないほど嫌われたとは正直思えないので理由があるのだろう。
そもそも求められているのは解消ではなく破棄な訳だし。
破棄となると物語ではどちらが悪いかは半々だが、現実ではされる方に問題があるからそうなったとされる事がほとんどである。たとえ成人していなくてもだ。
物語内での半分のように相手に責任を押しつけるために自分の都合と問題を隠すあるいはすり替えて破棄を言い出す人もいるにはいるが、長くても一年もせず露見する。
我慢強い人は短慮に婚約を破棄したりしないということだろう。わかりやすい。
もっとも露見なければそんな人は表向きいないということなので実際どこまで当てにしていい話かは知らない。
上手く隠し通せてる人もいなくはないだろう。
つまりどちらだったとしても婚約者殿に問題があると思われる。
「傷がついて曲がり間違っても次の婚約が上級貴族との間に整う可能性を避けたいのです」
……思われるもなにもそれが狙いだったらしい。
「好きな人が出来たんだね?」
婚約が整えば困るというならそうなのだろう。むしろ普通は破棄されたとなれば次の相手を探すのに躍起になるものだ。……当人がかどうかは確かに別なのだが。
ちょこまかと私の後を追いかけていた再従妹が恋をするほど成長したのかと思うと感慨深い。
親戚に懐いている幼女の深く意味の分かっていない「お嫁さんになるの」という発言を盾に婚約させるようなことをするからこういうことになったんだな。貴族は婚約が決まるのが早いとはいえ今回はさすがに早すぎた。
だからといってそれでも一般的以上の淑女教育はしっかりなされているはずなので、恋に溺れたとしてもすでに傷物になっている可能性は卑怯な手でも使われない限りはないだろうが。
「どんな人でどんな関係なのかな?」
できうる限り優しく聞こえるように尋ねる。
「まだ知り合って間もないのですけれど……」
途端に頬が上気し、どこか瞳が潤む。今なら更に犠牲者を増やせそうだ。恋する女性は美しいと誰が言い始めたかは知らないが、それを理由に惚れてしまうのは間違いなく不毛だろう。
「わたくしにこ、心を奪われたと言ってくださって……」
恥ずかしくなったのか、どういえば分からないのかそこで言葉が止まる。
そんな軽い言葉でこれだけのぼせあがらせているのだから手慣れた遊び人だ……と思うのは早計だろう。
少なくとも遊びに慣れていれば相手を選ぶ。後腐れのない相手以外は誤解されるような言動はしない。
仮に弄ぶの方だとしても捨て身にでもなっていない限り彼女を獲物に選ぶことはないはず。
彼女の評判が落ちても結婚の障害にはならないと考える相手なのだから恐らく家格は我々よりもかなり下だと予想される。
そして庶民でもないだろう。接点が出来るような特殊な出来事が最近あったとは報告を受けていない。
ならば相手は下級貴族だろう。
それが身分が上の女性を弄ぶ? どの結果どの意味になるかは分からないが一生を、下手をすれば一族郎党をかける覚悟で?
貴族というだけで絶対にあり得ないとは言わないが、最近そこまで強い憎しみを向けられる覚えはない。
表情はあくまでも真剣で、何時も無邪気な笑顔を浮かべているせいで幼く見える部分が消えている。
いつもなら甘やかしたいという思いで、今ならば気を惹きたいという欲で、願いを叶えたいとおもう男はそれなりに居るだろう。
『婚約破棄してくださいませんか?』
ただ、その願いの内容がこれでなければだろうが。
実際に婚約しているのは当たり前だが私だけなので、他の男がもし願われるなら婚約破棄ではないだろうが、要するに距離を置こうという願いを叶えてしまっては本末転倒になる。
「……依頼する場合は破棄じゃなくて解消って言わないかな?」
とりあえずそう返す。勝手な印象も少し入っているが破棄というのは一方的に突きつける場合が多い。
「いえ、婚約破棄でお願いします」
言葉選びを間違えたわけではないらしい。
どうして破棄だなんてこれまた目立つことを。
「こちらから破棄したとなると君の評判に傷がつくよ?」
婚約者殿は成人前で、成人前の婚約は親が決めたものが殆どで、前提としていた条件が変わってしまえば解消を考えることもなくはない。絶対に円満に解消出来るというものでもないが。
それに成長しお互いの自我が確立してみればどう考えても利点以上に不利益をもたらすほど合わなかったということもある。……礼儀としてその理由で納得し深読みはしないように。
そのため少なくとも成人前の婚約解消は過剰な身体的接触でもしてない限り表立っては問題にはされない。
だからそれなりに期間が長くてそこそこ仲良くしているつもりの婚約者相手に解消したいと何かの拍子に思われることもあるかもしれない。
……政略でも耐えられないほど嫌われたとは正直思えないので理由があるのだろう。
そもそも求められているのは解消ではなく破棄な訳だし。
破棄となると物語ではどちらが悪いかは半々だが、現実ではされる方に問題があるからそうなったとされる事がほとんどである。たとえ成人していなくてもだ。
物語内での半分のように相手に責任を押しつけるために自分の都合と問題を隠すあるいはすり替えて破棄を言い出す人もいるにはいるが、長くても一年もせず露見する。
我慢強い人は短慮に婚約を破棄したりしないということだろう。わかりやすい。
もっとも露見なければそんな人は表向きいないということなので実際どこまで当てにしていい話かは知らない。
上手く隠し通せてる人もいなくはないだろう。
つまりどちらだったとしても婚約者殿に問題があると思われる。
「傷がついて曲がり間違っても次の婚約が上級貴族との間に整う可能性を避けたいのです」
……思われるもなにもそれが狙いだったらしい。
「好きな人が出来たんだね?」
婚約が整えば困るというならそうなのだろう。むしろ普通は破棄されたとなれば次の相手を探すのに躍起になるものだ。……当人がかどうかは確かに別なのだが。
ちょこまかと私の後を追いかけていた再従妹が恋をするほど成長したのかと思うと感慨深い。
親戚に懐いている幼女の深く意味の分かっていない「お嫁さんになるの」という発言を盾に婚約させるようなことをするからこういうことになったんだな。貴族は婚約が決まるのが早いとはいえ今回はさすがに早すぎた。
だからといってそれでも一般的以上の淑女教育はしっかりなされているはずなので、恋に溺れたとしてもすでに傷物になっている可能性は卑怯な手でも使われない限りはないだろうが。
「どんな人でどんな関係なのかな?」
できうる限り優しく聞こえるように尋ねる。
「まだ知り合って間もないのですけれど……」
途端に頬が上気し、どこか瞳が潤む。今なら更に犠牲者を増やせそうだ。恋する女性は美しいと誰が言い始めたかは知らないが、それを理由に惚れてしまうのは間違いなく不毛だろう。
「わたくしにこ、心を奪われたと言ってくださって……」
恥ずかしくなったのか、どういえば分からないのかそこで言葉が止まる。
そんな軽い言葉でこれだけのぼせあがらせているのだから手慣れた遊び人だ……と思うのは早計だろう。
少なくとも遊びに慣れていれば相手を選ぶ。後腐れのない相手以外は誤解されるような言動はしない。
仮に弄ぶの方だとしても捨て身にでもなっていない限り彼女を獲物に選ぶことはないはず。
彼女の評判が落ちても結婚の障害にはならないと考える相手なのだから恐らく家格は我々よりもかなり下だと予想される。
そして庶民でもないだろう。接点が出来るような特殊な出来事が最近あったとは報告を受けていない。
ならば相手は下級貴族だろう。
それが身分が上の女性を弄ぶ? どの結果どの意味になるかは分からないが一生を、下手をすれば一族郎党をかける覚悟で?
貴族というだけで絶対にあり得ないとは言わないが、最近そこまで強い憎しみを向けられる覚えはない。
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