子供から目を離してはいけません

こうやさい

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 大学も夏休みに入り、今日あたり帰省しようかと考えていた朝。
 寝苦しさに目を覚ますと世界が滅んでいた。
 いや正確にどこまで滅んだかしらないけど。

 寝苦しかった理由は分かる、エアコンが切れたからだ。
 何故切れたかというと電気が止まっていたからだ。
 何故電気が止まっていたかというと世界が滅んでいたからだ。
 なんでそれで被害が暑いくらいなんだよあたしの部屋ぁぁ。

 一人暮らしのアパートの玄関ドアの隙間から恐る恐る覗いてみると街が瓦礫であった。
 えーっと地震だか戦争だかの記録映像だかフィクションだかでみたような場面で、現実感が欠片もない。
 現実感のなさに拍車をかけているのは、死体が散らばっていたり怪我で呻いていたりする人がいないせいだろう。

 うん、きっと夢だ。
 そう思って寝直そうとしたけれど、この暑いのに眠れるわけがない。
 この猛暑だけでも災害だと言われてるのにこれ以上はいらん。

 ……何時までも逃避をしているわけには行かないだろう。
 情報を集めようにも電気どころか電波まで止まっている。
 ガスはIHだから関係ないけど事態はより悪いし、これで水道が止まればライフライン全滅だけど一応まだ出る。ただこれはきちんと設備が動いているというより奇跡的に水道管が無事だったからしばらく内部の圧力で水が押し出されてきてるだけの可能性が高いので何時までも当てに出来るとは限らない。
 となると真っ先にやることは安全確保と知人の安否の確認だろうが。
 あたしの友達はここ以外の出身者が多い。地元の就職したい業種に付くための資格が地元では取れないという田舎あるあるを体験した同士だ。
 皆はとっくに地元に帰っているはずだ。
 あたしゃ夏風邪引いてたんだよ、悪かったなっ。
 ということはこの辺りを無意味に探してもたぶん無駄。ちょっとした知り合い程度ならこの状況で会うのはむしろ気まずいだろう。
 ならば予定通り帰省するだけだ。
 ……いや、予定だと乗り物乗るつもりだったんだけどさ。
 そうじゃなくともこのうちには食料がない。帰省するために片付けていたからだ。
 ただし風邪を引いたときにヘロヘロのままなんとか買いに行ったエナジーゼリーとスポーツドリンクはある。
 どうせ風邪治ってもこの暑さならしばらく出番があるだろうと大量買いしたんだよ、風邪の最中のくせに。
 正常な判断力がなくなるって怖い。

 ……そもそも今は正常な判断が出来ているのだろうか?
 安全確保というならこのまま部屋に籠もって誰かが助けに来てくれるのを待つ方が賢いかもしれない。
 けれどもし来なかったら?
 一人孤独に餓死を待つだけだったとしたら?
 もしかしたら滅んだのは部屋から見える範囲だけかもしれない。
 ちょっと遠ざかれば電気が点いてスマホが通じて、何故あそこだけが滅んだのだろうという謎だけしか問題は残らないかもしれない。
 なのにここでずっといる?

 女の子を外に出すのは心配だわといいながらも応援してくれたお母さん。
 若いうちはいろいろな体験をした方がいいといいながらかなり過保護なお父さん。
 心配なのはこちらも同じ。

 幸い、故郷までは陸路だ。

 本来使う予定だった肩掛けバッグから飲み物と食料を詰めたリュックに最低限必要なものを移す。
 迷った末に印鑑や保険証も鞄に入れ、それ以外の大事な荷物も鍵のかかる引き出しに移した。
 冷房避けのつもりだった薄い上着をある程度厚さのあるUV加工をされたパーカーに替える。
 スカートはやめて虫除け効果もあるらしいジーンズにする。
 靴はもちろんぺたんこだ。
 帽子を被る。
 手が塞がるリスクも考えたけれど、何かの様子を見るためにつついたり、振り回したら相手をひるませる事も出来るだろうし、何より暑いと、この夏買った雨天兼用の大きい方の傘を手に取る。

 玄関のカギはかけない。
 この辺りは瓦礫ばかりで、壁はあっても屋根がない。
 もし同じような理由でここに迷い込んできた人がいたら困るだろうから。
 ……もっとも非常時だからとカギとかしてもこじ開けらるかもしれないけど。

 そうしてあたしは既に見慣れたはずなのに見覚えのない道を辿り始めた。
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