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郷里の近くまではある意味何事なく辿り着いた。
いや運動不足だから疲労困憊で息は上がって肩は上下して足ががくがくいって、うっかり傘を杖にして折ってしまったので泣く泣く捨てたけど、それはさておき。
ほら映画とかだと殺人鬼とか野生生物とか出てきてもおかしくないし、街が廃墟になってたんだから道とか崩れててもおかしくない訳で。
けれど建物の崩れっぷりとは裏腹に道には罅一つ入っていなかった。
強いて言うならアスファルトが熱いがそれはこの暑さなら正常だ。
けれど故郷に近いところはとにかく車が走っていないことは異様だし。
人が一人もいないことが異常だった。
途中、コンビニだった瓦礫からペットボトルを探し出しながら考えた。
この分では故郷の町も無事には済んでいないだろう。
それでも何時か戻る事を祈って代金は置いていく。
初めての野宿で、枕は硬いものが入ったリュックサックで周りを警戒しながらだったというのに意識はすぐに遠のいた。
それくらい疲労をしていた。
それでも希望も持って辿り着いた町の、ようよう見えたその場所は。
――もう、何も残されていなかった。
瓦礫になっていることも人がいないことも。
無意識で両親に二度と逢えないことすら覚悟していたのに。
まるで却って何もなかったように更地になっているとは予想していなかった。
足から力が抜け座り込む。
そこまでは辛うじて残っていたアルファルトが、タンパク質を焼く臭いをさせる。
なのに熱さも痛みも感じない。
このままこの場所に溶けてしまえればいいのに。
「ちょっと、どうしたのよ!?」
不意にお母さんの声に似た幻聴を聞いたような気がして顔を上げる。
「!?」
悲鳴を上げなかったのはただ単に喉がかれきっていたからに過ぎない。
そこにあったのは異形だった。
大小の異形が二つあたしを恐らく覗き込んでいた。
「何かあったのか!? 連絡をくれれば迎えに行ったのに」
大きい方の異形がお父さんのような事を言う。
「そうよ、それでなくとも病み上がりなんでしょう?」
小さい方の異形がお母さんのような事を言う。
お父さんはちょっとくたびれてるけど柔和な表情をした人で。
お母さんは若作りしたがっては失敗し、却って老けてみられるような人だ。
きちんと人間であって、こんな姿をしていない。
「ヴガアァァアァァアァァアァァ」
けれど思い出してしまった。
これは間違いなくあたしの両親だ。
以前人間と一緒に遊んでみたいとわがままを言って姿を変えてもらった。
そしていつの間にか自分を普通の人間だと思い込んで生きて来た。
あたしの部屋だけ無事で当然だ。あたしだけは守られていたのだから。
記憶が戻っても感情は引きずられたままだ。
両親は異形としか思えないし、人がいないことには仲間を攫われたとしか思えない。
ましてや……。
息を飲む。
いや本当に飲んだのだろうか?
そもそもあたしは息をしているのだろうか?
身体がだんだんと異形に近づいている。
自我は認識の上に成り立っていると誰かが言っていなかっただろうか?
ならばこの化け物の中に入ってるのがあたしのはずがない。
あたしは人間で……。
いや運動不足だから疲労困憊で息は上がって肩は上下して足ががくがくいって、うっかり傘を杖にして折ってしまったので泣く泣く捨てたけど、それはさておき。
ほら映画とかだと殺人鬼とか野生生物とか出てきてもおかしくないし、街が廃墟になってたんだから道とか崩れててもおかしくない訳で。
けれど建物の崩れっぷりとは裏腹に道には罅一つ入っていなかった。
強いて言うならアスファルトが熱いがそれはこの暑さなら正常だ。
けれど故郷に近いところはとにかく車が走っていないことは異様だし。
人が一人もいないことが異常だった。
途中、コンビニだった瓦礫からペットボトルを探し出しながら考えた。
この分では故郷の町も無事には済んでいないだろう。
それでも何時か戻る事を祈って代金は置いていく。
初めての野宿で、枕は硬いものが入ったリュックサックで周りを警戒しながらだったというのに意識はすぐに遠のいた。
それくらい疲労をしていた。
それでも希望も持って辿り着いた町の、ようよう見えたその場所は。
――もう、何も残されていなかった。
瓦礫になっていることも人がいないことも。
無意識で両親に二度と逢えないことすら覚悟していたのに。
まるで却って何もなかったように更地になっているとは予想していなかった。
足から力が抜け座り込む。
そこまでは辛うじて残っていたアルファルトが、タンパク質を焼く臭いをさせる。
なのに熱さも痛みも感じない。
このままこの場所に溶けてしまえればいいのに。
「ちょっと、どうしたのよ!?」
不意にお母さんの声に似た幻聴を聞いたような気がして顔を上げる。
「!?」
悲鳴を上げなかったのはただ単に喉がかれきっていたからに過ぎない。
そこにあったのは異形だった。
大小の異形が二つあたしを恐らく覗き込んでいた。
「何かあったのか!? 連絡をくれれば迎えに行ったのに」
大きい方の異形がお父さんのような事を言う。
「そうよ、それでなくとも病み上がりなんでしょう?」
小さい方の異形がお母さんのような事を言う。
お父さんはちょっとくたびれてるけど柔和な表情をした人で。
お母さんは若作りしたがっては失敗し、却って老けてみられるような人だ。
きちんと人間であって、こんな姿をしていない。
「ヴガアァァアァァアァァアァァ」
けれど思い出してしまった。
これは間違いなくあたしの両親だ。
以前人間と一緒に遊んでみたいとわがままを言って姿を変えてもらった。
そしていつの間にか自分を普通の人間だと思い込んで生きて来た。
あたしの部屋だけ無事で当然だ。あたしだけは守られていたのだから。
記憶が戻っても感情は引きずられたままだ。
両親は異形としか思えないし、人がいないことには仲間を攫われたとしか思えない。
ましてや……。
息を飲む。
いや本当に飲んだのだろうか?
そもそもあたしは息をしているのだろうか?
身体がだんだんと異形に近づいている。
自我は認識の上に成り立っていると誰かが言っていなかっただろうか?
ならばこの化け物の中に入ってるのがあたしのはずがない。
あたしは人間で……。
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