子供から目を離してはいけません

こうやさい

文字の大きさ
3 / 5

-2-

しおりを挟む
 郷里の近くまではある意味何事なく辿り着いた。
 いや運動不足だから疲労困憊で息は上がって肩は上下して足ががくがくいって、うっかり傘を杖にして折ってしまったので泣く泣く捨てたけど、それはさておき。
 ほら映画とかだと殺人鬼とか野生生物とか出てきてもおかしくないし、街が廃墟になってたんだから道とか崩れててもおかしくない訳で。
 けれど建物の崩れっぷりとは裏腹に道には罅一つ入っていなかった。
 強いて言うならアスファルトが熱いがそれはこの暑さなら正常だ。
 けれど故郷に近いところはとにかく車が走っていないことは異様だし。
 人が一人もいないことが異常だった。

 途中、コンビニだった瓦礫からペットボトルを探し出しながら考えた。
 この分では故郷の町も無事には済んでいないだろう。
 それでも何時か戻る事を祈って代金は置いていく。

 初めての野宿で、枕は硬いものが入ったリュックサックで周りを警戒しながらだったというのに意識はすぐに遠のいた。
 それくらい疲労をしていた。

 それでも希望も持って辿り着いた町の、ようよう見えたその場所は。

 ――もう、何も残されていなかった。

 瓦礫になっていることも人がいないことも。
 無意識で両親に二度と逢えないことすら覚悟していたのに。
 まるで却って何もなかったように更地になっているとは予想していなかった。

 足から力が抜け座り込む。
 そこまでは辛うじて残っていたアルファルトが、タンパク質を焼く臭いをさせる。
 なのに熱さも痛みも感じない。
 このままこの場所に溶けてしまえればいいのに。

「ちょっと、どうしたのよ!?」
 不意にお母さんの声に似た幻聴を聞いたような気がして顔を上げる。
「!?」
 悲鳴を上げなかったのはただ単に喉がかれきっていたからに過ぎない。
 そこにあったのは異形だった。
 大小の異形が二つあたしを恐らく覗き込んでいた。
「何かあったのか!? 連絡をくれれば迎えに行ったのに」
 大きい方の異形がお父さんのような事を言う。
「そうよ、それでなくとも病み上がりなんでしょう?」
 小さい方の異形がお母さんのような事を言う。
 お父さんはちょっとくたびれてるけど柔和な表情をした人で。
 お母さんは若作りしたがっては失敗し、却って老けてみられるような人だ。
 きちんと人間であって、こんな姿をしていない。

「ヴガアァァアァァアァァアァァ」

 けれど思い出してしまった。
 は間違いなくあたしの両親だ。
 以前人間と一緒に遊んでみたいとわがままを言って姿を変えてもらった。
 そしていつの間にか自分を普通の人間だと思い込んで生きて来た。
 あたしの部屋だけ無事で当然だ。あたしだけは守られていたのだから。

 記憶が戻っても感情は引きずられたままだ。
 両親は異形としか思えないし、人がいないことには仲間を攫われたとしか思えない。
 ましてや……。
 息を飲む。
 いや本当に飲んだのだろうか?
 そもそもあたしは息をしているのだろうか?
 身体がだんだんと異形に近づいている。
 自我は認識の上に成り立っていると誰かが言っていなかっただろうか?
 ならばこの化け物の中に入ってるのがあたしのはずがない。
 あたしは人間で……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...